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【対談】大企業とスタートアップが共創して叶えたい世界 旭化成×クレヨンの挑戦(前編)

人びとの“いのち”と“くらし”に貢献することを理念に、世の中にイノベーションを起こすことで、昨日まで世界になかったものを生み出していく旭化成株式会社(以下、旭化成)。日本を代表する大企業として、様々なスタートアップ企業との協業を進めるなか、フェムテックを推進するクレヨン・森屋CEOと出会い、コラボレーションを開始した。今回は、一般的な大企業社員らしくないスピーディーで大胆な動きを見せる旭化成・中村氏をお招きし、スタートアップと大企業、それぞれの視点から共創の全容をお伺いした。(※前編と後編に分けてお送りする。)

株式会社クレヨン 代表取締役 森屋 大輔 氏(写真右上) 
旭化成エレクトロニクス株式会社 事業企画室 事業企画グル―プ長 (兼)旭化成ホームズ株式会社 経営企画部 CONNECTプラットフォームプロジェクト プロジェクトリーダー 中村 磨樹央 氏(写真中央) 
株式会社ゼロワンブースター 海外戦略マネージャー 平井 忠道(写真左上)


ゲスト

■株式会社クレヨン 代表取締役社長 森屋 大輔
ソフトウェア開発、経営戦略コンサルティング、オペレーション管理等を経て、株式会社クレヨンを創業。
子育てや地域コミュニティといった、市場では価値交換が起こりづらいハイパーローカル(超狭小)な領域において、新しい価値交換の仕組みをインストールすべく、旭化成ホームズ㈱と共同プロジェクトを実施中。基盤情報学修士および経営学修士(MBA)。
■旭化成エレクトロニクス株式会社 事業企画室事業企画グループ グループ長(兼)旭化成ホームズ株式会社 経営企画部 CONNECTプラットフォームプロジェクト プロジェクトリーダー 中村 磨樹央
神戸大学経済学部卒。新卒で旭化成に入社。サランラップ等の営業・戦略企画担当から、化学品のマーケティング・欧州市場開拓まで、B2C・B2B、 国内・海外と、幅広い製品群・地域での営業・マーケティングを担当。
2018年、海外公募留学制度にてMBA留学。留学中は起業プロジェクトに注力し、IE Business School最大の起業イベント”Venture Day”で、ファイナリストに選ばれる。
留学後は、旭化成エレクトロニクス㈱の社長スタッフとして経営全般を担当しながら、旭化成ホームズ㈱の新規事業アイデアコンテストに応募。経営陣の承認を経て、㈱クレヨンと共に事業化に向けたプロジェクトを実施中。中小企業診断士。

インタビュアー

■平井 忠道
株式会社ゼロワンブースター / 海外戦略マネージャー
ABBの自動車用ロボットのエンジニアを経て、ドイツ系素材メーカーにて大手から中小企業まで全国の幅広いクライアントを対象としたソリューション営業を担う。
01Boosterでは、大手企業とスタートアップ企業のオープンイノベーション支援の企画・設計を担当。海外スタートアップの日本進出を支援し、戦略立案からアイデア発想・検証まで事業開発を手がける。


自分たちの色をキャンバスに描けるようなカラフルでフェアな社会を作りたい

──まずは森屋さんの起業に至った経緯を教えてください。

クレヨン・森屋氏:もともと私は大企業で昇進していくようなキャリアパスを志向していました。転職を数回経験し、海外でMBAを取得するといった、自己の成長をベースとした市場主義的な自分と、小さい時から自分の中にある「世界はどうしたらもっと良くなるのか」といった共同体主義な自分との乖離が大きくなり始めていました。外資系は基本、外国でうまくいったモデルを日本に持ってきます。

その結果、日本固有の社会課題は解決されずに取り残されているように感じました。以前は官僚がそのような課題を解決してきましたが、時代が変わる中で、なかなか実効性のある施策を打てなくなっているように見えました。

そんな時に私のような外資系で戦略や実装を学び、実行してきた人間が日本の社会課題に対して何かをしてみたら新しい化学反応が起きるのではないかと感じました。

そこでやりたかったのが、市場と相性が良くなさそうな育児だとかハイパーロカール(超狭小)のコミュニティだとか、ご近所付き合いみたいなところに対して、私がやってきた技術的なことやビジネス戦略のようなことを施策として実装していくことです。これにより、社会に対する何らかの新しい価値が提供できるのではないかと思い起業に至りました。

資本主義を中心として構築された現代社会は、生産年齢人口の、とりわけ20〜65歳の男性が最も生きやすいように設計されていると思います。しかし実際の社会は、育休中の女性の方や、65歳以上の方もいれば、20歳以下の方もいます。本来の社会はもっと多様な人々で構成されており、それぞれの多彩な色があるはずなのに、そのような人たちが端に追いやられた、モノクロな社会になっているように感じました。

私がクレヨンとつけたのも、いろんな色を使って自分たちの色をキャンバスに描けるような社会、資本主義一辺倒ではないもっとカラフルでフェアな社会を作っていきたいと思ったからです。


──著名なコンサルティングファームやテック系企業で働かれていて、その立場や地位を捨てて作り上げたい世界観にいたった経歴をさらに深堀していきたいのですが、きっかけはありますか?

クレヨン・森屋氏:きっかけは2つあります。1つ目は子どもが生まれたということです。小さいころから社会課題には興味がありました。しかしそれはあくまでも本やテレビの中のこと、統計的な数値でしかなく、実感が伴っていませんでした。

しかし自分の妻が妊娠し、子どもが生まれたことで、それまでは頭で理解してていたものを自分ごととして体験し、まだまだ解決されていない社会課題や不便があることを身をもって感じました。

2つ目は当時勤めていた上司からの助言です。社会人になるとお金を稼がなくてはいけないし、自分の市場価値を上げなくてはいけない。子どもを授かり、身をもって世の中の不便を経験すると、小学校の頃に描いていた社会に対する思いがもっと強くなりました。当時勤めていた企業で上司と面談をしていた時、その方に自分の考えを伝えました。「自分は、社会の待機児童問題や育児事情に課題を感じ、仲間とともに政策提言をしたいと考えている」と。するとその上司に、「政策提言なんかしても意味がない。そんなに強い思いがあるなら会社を辞めて行動した方が良い。

行動でしか世界は変わらない。金は後からいくらでも稼げるけど時間は取り戻せない。自分も若いころは起業したいと思っていたが、結局怖気づいてできなかった。そのことを今でも後悔している。」と言われました。

上司としてではなく、人生の先輩としてのその言葉に魂が揺さぶられ、起業への強い後押しとなりました。

私の小学生の頃の夢は、詩人か政治家でした。詩人は浮世離れしたイメージで、政治家は権力まみれのイメージのため、一般的には相反するイメージを持たれると思うのですが、私の中では共通したイメージがありました。それは優しくも心に響く言葉で夢や理想を語り、人々を勇気づけ、共感者を増やし、時には行動を促し、様々な人生に彩りを与えていくというイメージです。

2つのきっかけを通して、小学生の頃から自分の中にあった思いがより鮮明に蘇り、そしてその心の声に沿って生きたいという思いが強くなりました。


自分のやりたいことは自分が動かないと出来ない

──スペインでMBAを取得されたり、海外でのご経験があるとお見受けしましたが、旭化成・中村さんのご経歴を教えてください。

旭化成・中村氏:私は、2004に旭化成に入社し、7年間サランラップの営業、企画を担当しました。その後、7年間は化学品の欧州地域開拓を担当し、その後、一年間スペインに留学しました。帰国から二年半、本務としては半導体部門の経営企画を担当しています。

私は、留学前から新しいアイデアややり方を発想・実行するのが好きだったのですが、それらをビジネスに昇華する知識や経験が乏しかった。なので、MBAではアイデア→事業化へのプロセスを中心に学びたいと思い、アントレプレナーシップに強いスペインのIE Business Schoolを選びました。

留学中は、スタートアッププロジェクトに没頭し、留学先で最大の起業イベントでファイナリストになりました。この過程を通じて、スタートアップのエコシステムやオープンイノベーションなどを一通り学び、体感するに至りました。

また、留学先で著名なアントレプレナーシップの教授から、「これまで何千人という起業家を見てきたが、お前ほどパッションがある奴は見たことがない」と言われ、お世辞でしょうけど(笑)それでもパッションであれば世界で戦っていけるだけのレベルはあると感じ、パッションを軸に今後の人生を組み立てていく確信を得ました。

留学でのスタートアッププロジェクトの取組を通じてわかったのは、自分のやりたいことは自分が動かなきゃできないということ。「やるか、やらないか」、頭で考えて評論するだけでは何も達成できないということです。

留学から帰ってきてすぐに、旭化成起業家クラブという旭化成公認の有志コミュニティを立ち上げました。Microsoft Teamsをプラットフォームに現在は300人くらい、事業部長クラスから新入社員まで所属しています。

旭化成は社員約4万人の会社で様々な部署がありますが、例えば、DXやAI活用など、ある切り口で見たら他部署でも同じことを担当し、同じ悩みを抱えている人がいる。そういう人達が気軽に繋がり、情報共有しお互いの課題を解決出来たらいいなと。

今では、イベントの投稿やこの指とまれ的な募集など、所属メンバーそれぞれがクラブの場を主体的に活用し、ネットワーク効果を発揮したプラットフォームとして活性を高めています。


会社を動かす粘り強さとロジカルな行動力をお互いに補完し合う

──お二人の出会いのきっかけについて教えてください。

クレヨン・森屋氏:2019年3月頃に行われたMBAピッチイベントに登壇して当時開発中だったアプリで叶えたい世界観やビジョン、ビジネスモデルをピッチしました。

まだリリースもしていないアプリだったのですが、こんな世界を作りたいということをピッチして、そこにたまたま磨樹央さんがいらっしゃって、一緒にやってみませんかとお声がけいただいて、連絡を取り始めました。

旭化成・中村氏:色々ピッチされている方はいたのですが、唯一、良いな!と思ったのは森屋だけだったんですよね(笑)。

提供する側とされる側の間で有効に価値交換が行われていないというのは、本当にそうだなと思いました。例えば集合住宅なら、同じマンションの方に「10分買い物に行ってる間、子供を見てもらう」とか、「室外機の調子が悪いのだけど、同じマンションの人に解決法を聞く」とか。こういう解決策って、困ってる人にとっては大きな価値ですが、もう解決しちゃってる人にとっては、その価値を価値と認識することも、可視化する機会もない。とってももったいないなと。これを、コミュニティ形成とテクノロジーで解決するのは、有意義で面白いと感じました。

そういう気付きと視点を与えてくれた森屋さんを直観的に好きになりましたね。あと、森屋さんはエンジニア出身でテッキーなんですが、その点も含めてこの人は私と補完関係にあると感じ、「私とこの人は絶対に組んだほうがいい」と確信しました。そこから執拗にメールを送りました(笑)。

クレヨン・森屋氏:私はエンジニアとコンサルタントというバックグラウンドのため、論理的にプロジェクトを遂行していくことは得意な一方、磨樹央さんは営業力に長けて、人を動かすのがうまい。つまりお互いがお互いを補完できると感じました。

磨樹央さんのすごいところは口だけで終わらないところですね。

実際にそのあとも何回もメールが来て、そして会社まで動かしていく粘り強さ、推進力や突破力には驚かされました。私がビジョンや理想を語ると、共感して下さる方は何人もいました。

しかし、磨樹央さんのようなレベルで行動し、結果を残してくれる方はなかなかいません。前述した「行動でしか世界は変わらない」という上司の言葉と「夢を語り、共感者を集め、行動を促す」という小学校からの思いが磨樹央さんの行動力と重なりました。

旭化成・中村氏:一緒に作りたいビジョン・世界観は既にありましたし、森屋さんの人柄、そして能力的に補完していることで一緒にやる安心感がありました。

ロジカルだけど行動が伴わない評論家は沢山見てきましたが、森屋さんの「ロジカルで、かつガンガン行動する姿勢」が頼もしくて、こういう稀有な人は逃しちゃダメだと感じました。

 

こちらは1/2記事目になります。

【対談】大企業とスタートアップが共創して叶えたい世界 旭化成×クレヨンの挑戦(後編)

大企業とベンチャー企業によるオープンイノベーションが増加している。相互に補完し合える関係となるべく、先日掲載したインタビュー前編に引き続き、大企業「旭化成・中村氏」とスタートアップ「クレヨン・森屋CEO」のこれまでの協業に関して具体的な活動内容と今後の共創活動についてお伺いした。


※旭化成が主催し、01Boosterが運営推進しているLIFE CO-LAB.(旭化成アクセラレーター)の応募締切は6月18日(金)まで。詳細はこちらをご覧ください。

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