【起業家インタビュー】
ゼロワン起業家インタビュー【第二弾】は株式会社 農業総合研究所 及川 智正氏にお話を伺いました。
株式会社農業総合研究所 | 代表取締役社長 及川 智正 氏
半導体商社から専業農家へ転身
生産現場から販売現場まで実践した経験を活かし、起業。
全国を股に掛けた講演活動や農林水産省の委員も務める。
農業って生命の根源であって、日本の礎のビジネス
これが衰退するのは絶対に社会にとってマイナスだろうと
—農業総合研究所ではどのような事業をされているのでしょうか?
生産者と生活者の方を繋ぐ「ダイレクト農産物プラットフォーム」を作っています。「生産者の顔が見えて、新鮮な野菜と果物が手軽に買える」そんな仕組みをスーパーマーケットと生産者に提供する。
簡単なように見えて難しいことをやっているんですけど、地方に多い農産物直売所を都会のスーパーマーケットに入れることによって、全国の生産者の売り場作りをしている。そんな会社です。
—起業のきっかけ、経緯を教えてください。
元々東京農業大学出身で、卒業論文で選んだテーマが「5年後10年後100年後日本の農業はどうなるのか?」というテーマだったんです。そこで、論文を書くために農業の実態を調べてみると、農業に従事する人の年齢はどんどん上がり、農業に従事する人の数は減少していて、食料自給率が右肩下がりだと。このデータを見たときに危機感を感じたんですね。農業って生命の根源であって、日本の礎のビジネスだと思うのですが、これが衰退するのは絶対に社会にとってマイナスだろうと。これを、誰もどうにかしないのであれば、僕が社会に出てどうにかしてあげようと思いました。
それでどうしたかと言うと、大学卒業後、農業関係か食料関係の仕事に就こうとしました。大前提として社長になりたいとか、起業したいとは思っていなかったので。しかし残念ながら就職口が無くて、一度は産業用ガス商社の営業職に就くことになりました。
仕事は楽しくて、成績も良かったので、天職だとは思っていたんですが、やはり「農業がやりたい」という気持ちがあって。結婚を機に、男子には珍しく「寿退社」して、奥さんの実家である和歌山で農業を始めたのがスタートですね。
最初に僕が思ったのが「農業の仕組みが悪いんだろう」と思ったんですよ。仕組みが悪いから、衰退するんだと。ただ、仕組みと言ってもまずは現場でやってみないと見えてこないものがあるんじゃないかと考えて、まずは生産現場で3年間、経験しました。本当はこの辺りの話をじっくりしたいんですが、長すぎるので割愛すると(笑)最終的に思ったのは「一農家から日本の農業を変えていくってことは、かなり難しい」ということ。
では次に「販売現場から農業を変えられないか」と思い、大阪の千里中央に八百屋を出すことにしました。
—農家(生産)と八百屋(販売)どちらも経験されたのですね?
作るのもやった、売るのもやった。そこで経験してみて解ったのは、立場が変わると考え方って変わるんだということ。作っている時は、1円でも高く売りたいんですよ、だから値上げするわけなんですけど、今度は仕入れる側になったら利益を出したいから農家叩くんですよ。この水と油の関係は、両方やった人間じゃないとわからない。そして最後に、水と油が交わるところである「流通」をコーディネートしない限り、日本の農業は良くならないんじゃないか、と言う結論に達したわけです。
で、今から9年前に和歌山に戻ってきて一番初めに、日本の流通を変えるような仕事を探してハローワークに行ってみたんです。でも、そんな仕事は無かった!だったら自分でやるしかないと、泣く泣く会社を作っちゃったんですね。
普通、起業される方って、事業計画とか資金計画とかあると思うんですけど、当時の僕には全く無くて。ともかく「農業をどうにかしないと日本が悪くなる」って思いと、生産と販売現場を経験して感じた「繋げるところが重要だ」という思いだけでした。
—では、現在のビジネスモデルが確立されたのは?
当時は、何をやろうとかじゃなく「流通を変える仕事をしたい」しか考えていなかったので、会社を作ったけど、仕事は無いという状態でした(笑)でも年収ゼロじゃ家族を養っていけないじゃないですか。そこで最初に始めたビジネスが、農家の営業代行。和歌山県はみかんが有名ですけど、僕が良い販路を見つけてきてあげようと。契約書を結んで、各地のデパートやスーパーに営業した結果めちゃくちゃ売れまして。これは当たった!と思いましたね。でも、落とし穴があったんです・・。農家は目に見えないもの(この場合はコンサルティング)にお金を払わないんですね。僕が甘かったんです。困ったので、じゃあ現物報酬として、みかんを30箱下さいと言ったところ、みかんなら50箱でもいくらでも持って行けと言ってもらえて。それを和歌山県の駅前でゴザを広げて売ったのがうちの会社の売上のスタートです。グダグダでしょう?(笑)
でも「東京から来た兄ちゃんに野菜や果物を与えると高く売って来てくれるらしいよ」と、そこからちょっと噂になりまして。実はそれが「農家の直売所」に繋がったんです。
失敗の反対は「成功」ではなくて
「やらないこと」だと思っています。
—失敗体験はありますか?または失敗することをどう捉えていますか?
僕の場合、チーターが獲物を捕るために足が速くなったのと一緒で家にお金を入れるために目先のプレゼンを捕るしかなかったみたいな追い詰められた状況で、失敗を実験的に繰り返すとかそんな余裕はなかったんですが・・。
失敗の反対は「成功」ではなくて「やらないこと」だと思っています。成功しようとしているなら、まずやることですね。地方で講演したりすると「こんなビジネスプランどうですか?」って質問をくれる起業家の卵が結構いるんですけど、「色々言う前にまずやってくれ」と思いますね。やった上で、「お金がないです」とか、「人脈がないです」とかであれば、もしかしたら助けられるかもしれないけど、やる前からそのビジネスプランが良いか悪いかは正直わからないですからね。
僕自身、今でも「君のやっていることは正しいのか?本当に農業のためになっているのか?」って言われる機会がありますけど、正しいかどうかは自分で決めることじゃなく周りが決めることだと思ってるんです。重要なのは、自分は腹をくくって、信じ込んで、正しいと思うことを信念持ってやり抜くことですよね。周りがどう言っても。
—現在採用活動はされていますか?
はい。しています。当社のビジョンは「持続可能な農産業を実現し、生活者を豊かにする」日本から世界から「農業がなくならない仕組み」を作りたい。
でもそれは僕だけじゃ絶対できません。ひとりの1日の時間は24時間しかないですからね。でも、1000人の仲間がいて、その人達からそれぞれ1時間ずつもらった、1000時間ですよね?そうやって世の中を変えていくしかないのかなと思っているので、もっともっといろんな方に農業に関わってもらいたいです。
—採用したい人物像などはありますか?
「社員」はいらないんです。日本の農業を一緒に変えたいと思える、「仲間」が欲しい。なので、そういう同じ気持ちを持てる人と働きたいと思っています。僕ら経営陣は、楽しく仕事をできる環境を整備したいと思っているんですが、最終的に楽しく思えるか思えないかは自分次第です。土日のために仕事に耐えるとかじゃなくて、仕事をもっともっと楽しむために土日に全力で遊ぶ。みたいな心持ちを持ってくれたらなと。
大学の先生をやらせてもらう機会があるのですが、学生が「社会に出たくない」って言うんですよ。社会に出ても楽しいことがないと思っているみたいで。当社では現在、新卒採用も行なっていますが、実は、上場を決めた理由の一つに、農業は良い仕事だって若者を含め、多くの人に知ってもらいたいという意味がありました。農業ベンチャーでも上場できるし、良い業界だという情報発信できればと思っています。
できないと思っているだけで
情熱さえあれば世の中にできないことはないですよ
—会社としての今後の展望や実現していきたいことはありますか?
長い目で見ると、「農業を深掘り」することが僕らの仕事なんじゃないかと思っています。その中で、今皆様に一番喜んでいただいているビジネスである「農家の直売所」と言う事業を全国に広めていきます。この事業を生産者にとっても、スーパーにとっても、もっと使いやすくしていくこと。あと、農業って流通だけじゃないと思ってるんですね。僕らの一個前には生産があって、もっと川上にいくと種苗業とか。川下に行くとスーパー小売業、外食産業があったり、直接お客様に届けるBtoCだったり。こういうビジネスにも手をかけていきたいなと。
また、農業以外でも、新しく物販の委託販売プラットフォームを作っていきたいと思っています。
ご存知の通り日本というのはいい技術を持った小さいメーカーってたくさんあるんですよ。その人たちに、アナログで、リアルで売れるプラットフォームを提供することができれば、職人、起業家ってもっと増えるんじゃないかと思うんです。
—起業したいと思っている人へメッセージをお願いします。
これは自信を持って言えますが、今は「良い時代」です。
諸先輩方が頑張って切り開いてくれた今の時代を、もっと良くしていくのは次の時代の起業家たちです。だからまずは、実行すること。実行してからがスタートですね。まずはスタート地点に立つことだと思います。あとは、情熱が大切です。私自身、その場その場で情熱を燃やしたからこそ今があります。できないと思っているだけで、情熱さえあれば世の中にできないことはないですよ。あと若い人は、「体力があるうちに限界を超えておくこと」も重要です。その経験は、30、40歳になった時に楽しい思い出に変わります。そう思えていれば、次のステージに行けると思いますね。