「現在の延長線上にはない未来を考える」加藤順彦氏が語る、事業創造0→1とは

2018.03.12

今回の0→1インタビュー、起業家の皆さんはよくご存じのポール加藤さんです。日本でいくつかの会社を経営された後、2008年にシンガポールへ移住、永住権を取得され、現在は実業家・エンジェル投資家としてご活躍されています。

加藤さんとの最初の出会いは、事業家向けのあるイベントでした。その時にお話しされている内容に惹きつけられ、またその熱量に圧倒されたのをよく覚えています。

加藤さんが、数多くの経営者や企業と接する中で気づかれた、良い経営者に共通する素養や、新規事業創造するために必要な考え方、国内外のスタートアップ事情について、気づけば約2時間にわたるロングインタビューとなりました。30年以上の実業・経営から得られた加藤さんのお話、経営者や事業創造に携わる方には必読の内容となっておりますので、ぜひご覧ください。

3/123/1611話、全5話構成)    

   ■ゲスト
加藤順彦Yorihiko Kato
事業家。LENSMODE PTE LTD1967年生まれ、大阪府豊中市出身。関西学院大学在学中に株式会社リョーマ、株式会社ダイヤル・キュー・ネットワークの設立に参画。株式会社徳間インテリジェンスネットワークを経て1992年、有限会社日広(現GMO NIKKO株式会社)を創業。2008年、NIKKOGMOインターネットグループ傘下入りに伴い退任しシンガポールへ移住。2010年、シンガポール永住権取得。移住前は個人エンジェルとして、日本国内30社超のスタートアップの第三者割当増資に応じるとともにハンズオン支援(うち9社はその後上場)。現在はシンガポールを拠点に、日本人の起こす企業の資本と経営に参画。主な参画先は、ホームIoTKAMARQ、新興国農家むけサービスのAGRIBUDDY、仮想通貨取引所のビットバンク、ASEANでの採用ソリューションSMS24/7、美容とヘアメイクのハウトゥコンテンツYUYU Beauty等。著書に『シンガポールと香港のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版社)『若者よ、アジアのウミガメとなれ 講演録』(ゴマブックス)。http://amzn.asia/8hJiNUf
 
■インタビュアー
辻孝次Koji Tsuji
IT代理店にてNTTKDDIの企画営業業務、Yahoo!ショッピング出店舗へのマーケティング業務。ライフスタイル関連の新規事業企画、テレビ局・飲料メーカー・ゲーム会社などのPR・コンテンツ企画開発運営、ネットコンサルティングに携わる。2011年に独立し、新規事業立上げ支援、プロダクトのUIUX設計、エンジニア育成アカデミー運営、企業の人材育成。2012年に孫泰蔵氏の第2 SeedAccelerationProgram MOVIDAScholarship に選出、女性向けショッピングSNS事業創造。オールアバウトにて新規事業立上げ、プロデュースに従事。2017年に01Booster参画し、大手企業、スタートアップ、大学研究技術の事業創造支援に携わる。

辻孝次(以下 辻) このインタビューは、事業創造01インタビューということで、事業創造経験者の方にインタビューをさせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします。


加藤順彦氏(以下 加藤) よろしくお願いいたします。いまの話で言うと、リクルートのように新しい事業を生み出す、考え続ける風土、遺伝子みたいなものについては考えているんですね。僕はリクルートが大好きなんですけれど、あの会社は毎年新規事業のコンテストとかNew RING30くやっていると思うんですけれど。


  やられていますね。


加藤 会社の風土として、ちゃんとリソースを考えた上で、新しい事業を考える癖がついているとじるんですよ。リクルートグループの強みとか、その事業創造のフィロソフィーとかを理解している人じゃないと、New RINGは通過しないと思うんですね。


     僕の好きな経営者、シニフィアンの朝倉祐介さんは、マッキンゼーを辞め、起業していた会社を2011年にミクシィが取得し2013年に社長になったです。


   当時のミクシィは、ピークを割って盛り下がっていた段階で、業績は低迷していました。そのタイミングで、彼は社長になる前に役員会に対し普通はやらない内容を提案したんです。それが「現行事業に固執せずに、新しい事業に積極的に取り組」ことだった。



加藤 当時主事業であったSNS mixiの強みを研究して、トレンドとの掛け算の中で、てそうな領域をあぶり出し、そこにリソース投下する施策ではない、ってことをえたんですよね。 


   足元事業成長の芽を考えなミクシィのリソスとしてあるのは、ヒトとカネ、ブランドだとじた

  

   つまりSNSとしてのmixiに置いておいて、いろんな事にチャレンジしたんですよ。出会い系のYYCを買収したりとか。その中の1つに、ソーシャルゲームというのがあって。それがご存知の通り大当たりして、ミクシィは1年くらいで利益めちゃめちゃ伸びた。1タイトルのみですよ。企画は外からの持ち込み。岡本吉起さんというカプコンの元専務が持ち込んで、のちの社長の森田さんらと始めたのがモンスターストライク。これがまぁ記録的なヒットになって、全て変えちゃったんですよね。 


   現在の延長線上に未来をえないというところからスタートして、イケてそうなら、かりそうなら何でもやると。だからmixiとは何の関係性も無い、モンスターストライクを始められた。それが大当たりしてソシャゲの会社になっちゃったと。一時期は時価総額が5,000億円超えてね。


  あの勢いはすごかったですね。


加藤 就任時、時価総額200億円ってた会社が、5000億円超えた。そして朝倉さんは、わずか1年ちょっとでミクシィを辞めるんですよ。


大企業の強みは既存事業ではなく、“ヒト”と“カネ”があること 

加藤 僕、その朝倉さんが社長になる直前…201212月にIVSInfinity Ventures Summit)のとき、夜中の先斗町のバーで初めて会ったんです。そしてその時にたまたま「この後、僕がミクシィをえていこうとうんです」みたいなお話を聞く中で、どういう経営を目指すんですか?と聞いたら、「ミクシィの最大の強みは、手元現金が130億円あること」だと。実際、時価が200億円切るか切らないかの時に、現金がそれくらいあったわけですよね。


  潤ってますね。


加藤 翌年の社長就任時純資産は160億円あった。PBR1ちょいです。でその時、彼はバーのソファ横で今の事業の延長線上に未来があるとえるべきでないってるんです」とっていた。まさしく彼はそれを訴えたことで社長に抜擢された方だった。まぁ凄い意思決定ではありますが。 


   ちなみに僕はその夜、まったくピンときてませんでした。いや「この人はナニ、妙なこと言ってるのかなぁ」みたいに感じてた。(笑) 


   かたや、あの夜の彼は「ヒトとカネは潤沢にあるミクシィには、ほぼ終わっているmixiというソーシャル・ネットワーク事業があるだけ。なのに足元のSNSを基軸に考えるから何もかも突き抜けたアイデアにならないんです」と。


   本業があって、新事業があってみたいになっちゃうと、本業の延長上に新事業があるべきみたいな話に、ついついなりがちなんですよね。うちの会社はいまバス会社なので、強みを活かして、バスのシェアリングエコノミーをやろうとか、AIを、IoTをやろうとか。イケてる感じのキーワードと、元々やっている本業の掛け合わせみたいなところに、どうしても新規事業の担当者が行きがちになるし、ある意味どの企業でも当たり前にそうなっていると思うんですよね。 


   なぜなら、その会社でやる必然性がなくなっちゃうから。今うちの会社そば屋なのに、ペンキ塗りとIoTをかける仕事なんて、そもそもやる理由がない、というわけです。


   だから一般的に言うアクセラレータープログラム、大企業のリソースを使ってというれの中では、カネ以外の大企業の元々持っているリソース、つまり祖業・現業を無視できないんですよね。


   朝倉さんはモンストという、稀代のゲームがまれるサイコロをげた。彼はゲームプロデューサーでもなければ、ゲームの達人でもゲームビジネスに精通している訳でもなかった。でも朝倉さんがいなければ、絶対モンストは生まれてないとうんですね。    


   何故かというとmixiのあらゆる進化可能な延長線上にモンストはないからです。延長線のに、モンストがないところに、彼が社長になって本業と関係がなくても構わなくてもいいから、利益がでそうな新規事業をやろうと。



   世界のトヨタも、創業期の織機とは違う自動車で成功していますし、web業界だと、Googleは検索エンジンとは違う自動車業界に参入していたり、国内だとLINEがコミュニケーションから始まり、ゲーム、天気予報、写真、決済、人材、シェアサイクリングなど、常に時代の流れの中で、今後価値が大きくなる領域に01挑戦されていますね


加藤 そうですよね。アクセラレータープログラムや新規事業創生の話によく呼ばれて行くんですけど、例えば大分なら、この大分県のリソースを使って、×01するために、×IoT、×AI、×VR、×ソーシャル、シェアリングエコノミー、という話になっちゃうんですよ。


   特に大企業のおカネで来る人、ミッションとしてやる人は、やっぱり当たり前のように、「大企業のリソースをある一定以上生かしてやりなさい。」という圧力が掛かっているのかなと思うんですね。 


   朝倉さんの例をなぜ最初に挙げたかというと、そういった例のほうが、実はイケてることのほうがあるんじゃないかと、前から思っていたんですね。だから企業の01は、まずはそこから考えたらどうだろうといつも思います。


   モンストの場合は、元々関係ないですからね。岡本さんというカプコンの元専務の企画なんですよ、モンスト自体が。なぜまれたかというと、ミクシィにおカネがあったからだとうんです。アイデアすら社内から生まれてないわけです。


  そういった企業文化と異なるものを、社内から生み出すのは中々難しいので、ミクシィのように社外から募ったほうが良いですね。


こちらは1/5記事目になります。
「現在の延長線上にはない未来を考える」加藤順彦氏が語る、事業創造0→1とは vol.1
社内を活性化したければ、別領域のスタートアップを買収せよ vol.2
スタートアップする時は、まずメガトレンドを見るべし vol.3
国内のスタートアップ環境は、過去50年で最高 vol.4
後悔しない、人生の岐路に立ったときの考え方 vol.5


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