細胞培養の「職人芸」を DX で解放する——沖縄発 NexCulture、米国の細胞・遺伝子治療市場に照準【Ryukyu Launchpad 2025】

本稿は沖縄県主催のスタートアップ支援プログラム「Ryukyu Launchpad 2025」(米国コース)の Demo Day に登壇したスタートアップのピッチをお届けする。
細胞培養のプロセスを IoT と AI で自動化・デジタル化するプラットフォームを開発しているのが NexCulture(ネクスカルチャー)だ。
うるま市に拠点を置くこのバイオスタートアップは、もともと富山県の阪神化成工業の社内新規事業部門として2018年に始まった。
琉球大学との共同研究を経て、沖縄県の助成金を累計約1億5,700万円獲得。2025年に独立してスピンアウトし、沖縄の金融機関3社から1億円を調達している。
グローバル戦略責任者の Mikhaela Juntado 氏がピッチで語ったのは、米国初訪問で得た生々しい市場の感触と、沖縄の再生医療エコシステムを世界につなげるビジョンだった。
50年変わらない現場に IoT を持ち込む
細胞・遺伝子治療(CGT)市場は2040年に820億ドル規模に成長すると見込まれている。
がん、血液・免疫疾患、脊髄損傷、心不全など幅広い領域で適用が拡大しているにもかかわらず、細胞培養の実務は過去50年間ほとんど変わっていないのだという。
オペレータのバラツキとエラー、記録業務の負担、ワークフローの不透明さ——研究者が夏休みも休日も細胞の状態を気にかけなければならない現実が、治療法のスケールアップを妨げている。
NexCulture が提供するのは3つのコンポーネントで構成されるプラットフォームだ。
既存のインキュベータに組み込める自動観察・記録デバイス「remocell」が細胞培養の画像を自動撮影してクラウドにアップロードし、SaaS の「NexCulture Plus」が AI画像解析で評価結果を自動的に標準化する。
RFID タグによるエンドツーエンドのプロトコルトレーシングも備え、AI が継代のタイミングやコンタミネーション検知をアラートで知らせる。
国内では大阪と東京で PoC が進行中で、沖縄でも新たな PoC がまもなく始まるという話だった。
「誰も知り合いがいない市場」での2週間
今回の渡米は単なる視察やネットワーキングではない。
米国市場参入に向けた「仮説検証フェーズ」と位置づけ、ターゲットセグメントの特定、参入障壁の可視化、現地パートナー候補の発掘を目的とした2週間だった。
米国は初めて、会社としても商業化に近づいている段階——そんな状況でJuntado氏が掲げた目標は3つ。
ローカライゼーション課題の洗い出し、基盤となるネットワーク構築、業界特有の市場インサイトの獲得だ。
ロサンゼルスでプログラムに参加し、テキサス州サンアントニオにも足を延ばした。
事前に仮説ベースでターゲットセグメントを定義し、LinkedInなどを活用して接点を構築。
2週間でCGT領域の主要プレイヤー45社を顧客ディスカバリー候補として整理し、優先順位付けを行った。
一部企業とは実際に面談を行い、市場構造や導入検討プロセスに関するヒアリングを実施。
短期間ながら、ターゲットセグメントの具体化、ローカライゼーションにおける論点の整理、今後アプローチすべき企業群の明確化という成果を得た。
これは本格展開前に不確実性を下げる初期検証フェーズとなった。
沖縄をアジア太平洋の再生医療ゲートウェイに
今回の検証を踏まえ、2026年はターゲットセグメントを絞り込んだ再検証フェーズに入る。
5〜6月および9〜10月に再渡米し、導入要件の具体化とパートナー候補の選定を進める。
2027年度には米国で1〜2件のPoC契約獲得を目指す。
同時に、現地でのローカライゼーション体制を構築し、技術・規制・商流の各面で参入条件を整備していく。
チームには米国側アドバイザーも参画。
2026年5月までにHIPAAコンプライアンス体制の基盤整備を目標に掲げるなど、米国医療・バイオ市場への参入準備を着実に進めている。
「沖縄のエコシステムと助成金の支援があったからこそ、会社として歩み出すことができました。沖縄で本当に居場所を見つけ、誇りを持って活動しています。細胞治療をより早く、より低コストで、より高品質に患者さんに届けるための適切なインフラを構築することに情熱を持っています」(Juntado 氏)。
富山の医薬品容器メーカーから沖縄に渡り、スピンアウトを果たした細胞培養 DX スタートアップ。
その米国市場への挑戦は、同時に沖縄のバイオクラスターを世界につなげる試みでもある。