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研究・開発・技術に「事業化」が求められる時代― 花王の現場から見えた“技術と事業のギャップ”【勉強会レポート】

研究・開発・技術部門に「事業化」が求められる時代。
しかし現場では、「良い技術はあるが事業にならない」という声が多く聞かれます。

本記事では、花王株式会社 研究所の角尾氏、永宮氏を迎えて開催された勉強会の内容をもとに、研究と事業の間にある構造課題を整理します。

また、株式会社ゼロワンブースター代表 合田ジョージの視点も交えながら、研究・技術の事業化に必要な考え方を紐解きます。

勉強会の概要

本勉強会は、成功事例の共有ではなく、「なぜ事業化が進まないのか」を当事者の視点から整理することを目的に開催されました。

当日は、大手企業の研究・技術部門を中心に約30名が参加し、対話形式のセッションとテーブルディスカッションを通じて、各社の課題を持ち寄りながら議論が行われました。

登壇者

研究・技術の事業化はなぜ進まないのか

勉強会で繰り返し挙がったのは、次のような声です。

・良い技術はある
・研究は進んでいる
・しかし事業にならない

この背景には、研究と事業の間にある構造的なギャップが存在しています。

研究と事業はそもそも「別の仕事」

研究には大きく3つの役割があります。

・将来の事業を生むテーマ創出
・既存技術の事業化
・事業としてのスケール

しかし多くの企業では、これらが分けて設計されていません。

株式会社ゼロワンブースター代表の合田は、この点について「研究と事業は本質的に異なる営みであり、同じ前提で扱われていること自体が問題」と語っています。

また、花王の角尾氏からも、「研究はあくまで知の探索であり、必ずしもすぐに事業に結びつくものではない。一方で事業は市場の成立が前提になるため、同じ前提で扱うことには難しさがある」という指摘がありました。

花王に見る「技術起点」の事業創出

こうした構造課題に対し、参考になるのが花王の取り組みです。
同社では、事業ではなく技術を起点にし、界面科学を軸に複数領域へ展開しています。

花王の研究開発<科学と技術の融合>

ポイント
・事業ドメインで研究を縛らない
・技術を軸に用途を広げる

研究者が市場と接続しているか

もう一つの重要な論点が、「研究者と市場の距離」です。
多くの企業では、研究者は研究所内で技術開発に集中し、実際のユーザーや現場に直接触れる機会は限られています。

その結果、

・技術としては優れているが
・誰のどの課題を解決するのかが曖昧なまま

研究が進んでしまうケースも少なくありません。

一方、花王では、研究者自身が生活者や現場に足を運び、課題を直接観察する取り組みが共有されました。
この違いは、単なるプロセスの違いではなく、研究の質そのものに影響を与えます。

・課題の解像度が上がる
・研究テーマの質が変わる
・事業視点が組み込まれる

結果として、研究と市場の距離が近いほど、事業化される可能性が高まると考えられます。

なぜ多くの企業では進まないのか

勉強会の議論を通じて明らかになったのは、事業化が進まない要因は技術ではなく、組織や制度に起因する「構造課題」であるという点です。
特に、多くの企業に共通して見られるのが以下の3点です。

① 評価制度の不整合

多くの企業では、研究と事業で評価軸が大きく異なっています。

・研究:中長期での成果や技術蓄積
・事業:短期での売上・収益

この評価のズレにより、
研究は「事業化を前提としないテーマ」に寄りやすく
事業は「短期で成果が見えない技術」を扱えない

という状態が生まれます。

結果として、技術と事業が十分に接続されないまま分断されてしまうケースがあります。

② 組織の分断

研究所と事業部が組織的に分かれているケースも多く見られます。

その結果、

・研究側は技術を生み出すが
・事業側はそれを活用しない(またはできない)

という構造が生まれます。

現場では、「研究は研究、事業は事業」という暗黙の分離が存在し、技術が十分に活用されないまま終わってしまうケースも見られます。

③ 意思決定の曖昧さ

もう一つの大きな課題が、事業化の意思決定の所在です。

・研究テーマの方向性は誰が決めるのか
・どのタイミングで事業化を判断するのか
・失敗の責任はどこにあるのか

これらが曖昧なまま進むことで、
事業化の意思決定が十分に行われない
技術の価値が事業として翻訳されない
という状態が発生します。

花王 永宮氏からも、
「研究と事業では時間軸や評価の考え方が大きく異なるため、その接続には難しさがある」
という現場視点のコメントがありました。

これらの課題は特定企業に限ったものではなく、多くの企業に共通して見られる傾向です。

研究・技術の事業化とは何か

勉強会での議論を踏まえると、研究・技術の事業化とは、単に技術を製品化することではなく、
技術・組織・評価制度といった複数の要素を統合し、事業として成立させる「構造」を設計することと捉えることができます。

具体的には、

・どの技術をどの領域で活用するのか
・誰が意思決定を行い、どのように評価するのか
・どの時間軸で投資し、どのように成長させるのか

といった要素を一体で設計する必要があります。

つまり、研究・技術の事業化は「技術の問題」ではなく、「構造設計の問題」であり、この構造をどのように設計できるかが、企業の競争力を大きく左右します。

現場での取り組みに関する示唆

構造的な課題が大きい一方で、勉強会の議論の中では、現場レベルでの取り組みに関する示唆も共有されました。

①技術の活用可能性を言語化する

技術が事業に接続されない背景には、「技術の価値が事業として翻訳されていない」という問題があります。
このため、技術をどのような用途に活用できるのかを整理することが、接続の起点となり得ます。

②組織間の接続をつくる

研究と事業の分断に対しては、

・研究人材を事業側に送り込む
・人的な接点を持つ

といった取り組みの重要性も議論されました。

③技術の適用領域を広く探索する

さらに、

・技術の用途を広く洗い出す
・複数の業界に当たる

といったアプローチの重要性も共有されました。

これらは個別の手法というよりも、研究と事業を接続するための「具体的な試行」として位置付けることができます。

まとめ

今回の勉強会で議論された内容は、特定企業の事例にとどまらず、多くの企業に共通する構造的な課題を示しています。

構造をどう設計するか。
その中でどのような接続を生み出すか。

この両面をどのように捉え、実践していくかが、今後の研究・技術の事業化における重要な分岐点となります。

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