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【対談】大企業とスタートアップが共創して叶えたい世界 旭化成×クレヨンの挑戦(後編)

大企業とベンチャー企業によるオープンイノベーションが増加している。相互に補完し合える関係となるべく、先日掲載したインタビュー前編に引き続き、大企業「旭化成・中村氏」とスタートアップ「クレヨン・森屋CEO」のこれまでの協業に関して具体的な活動内容と今後の共創活動についてお伺いした。


スタートアップと大企業が共創し、相互に補完し合う関係

──協業を通じて、どのような結果・効果・成果が生まれていますか?

旭化成・中村氏:クレヨンさんのサービスであるfiikaについて事例を挙げてみます。

fiikaというサービスは産休・育休中で主に一時的に社会から離れている方を1stターゲットとしています。例えば、第一子が生まれた人。良い保育園を探そうと思ってもなかなか見つからないんだけど、一回過去に探したことがある人はそのノウハウを持っている。でも、一人っ子の家庭だったら、保育園を探す際に培ったノウハウは自分の為にはもう二度と使わない。もったいないですよね。その知見を活かし・共有するためのママ友とプレママ友の繋がりを作るアプリをクレヨンが開発・運営しています。

一方で、集合住宅は一つの密接な共同空間で多くの人が暮らしており、同じような世帯構成、環境下におかれている。fiikaは「ママ」を軸にしていますが、「集合住宅」を軸にした価値交換も同じようにできるのではないかと考え、マンション用のアプリを共同でやりませんか?という話を森屋さんに持ちかけました。

PoC時のアプリをクレヨンが、PoCの対象である集合住宅を旭化成ホームズグループが提供し、PoCの中でアプリの機能開発や利用促進のための様々な施策を両社メンバーで行っています。


世の中のペインを大企業とスタートアップで一緒に解決したい

──どんなことを補完しあい、何を得ていると考えていますか?

旭化成・中村氏:クレヨンに提供頂いているものは主に二つあります。

一つ目はアプリの提供と開発。お互い「集合住宅用アプリ」は初の試みなので、業務委託という形ではなく、一緒にPoCを重ねながらUI・UXを作っていくということが必要でした。これができるパートナーが森屋さんであり、クレヨンでした。

二つ目は、スタートアップ的な思考や進め方ですね。大企業だけでやると、小回りが利きづらく、どうしてもスピード感が失われがちだと思っています。これを緩和するためには、自社だけではなく、スタートアップと組んだオープンイノベーションという手法は活用できると感じていました。文化や進め方の違いなどでぶつかることはありますが、結果的にアジャイルに動けており、効果は十分に出ていると思います。

クレヨン・ 森屋氏:大きく2つあります。

1つ目は、実際の集合住宅という場を提供してもらっていることです。我々のようなスタートアップだとなかなか大手不動産デベロッパーさんが開発する集合住宅にはアクセスできないので、その場を使わせてもらっているのは非常に有難く感じています。

2つ目は法務のような、アーリーステージのスタートアップが持てないような組織からのアドバイスを利用させて頂いている点です。スタートアップは、独自の提供価値の開発に注力するあまりに、その他の周辺領域の部分がおろそかになりがちです。スタートアップでは気づきづらい点に関して助言を頂けることは助かっています。

──なるほど。それは中村さんや根本さん(旭化成所属のもう一人の共創プロジェクトのご担当者)のお力も大きいということでしょうか。

クレヨン・森屋氏:磨樹央さん、根本さんは旭化成さんのメンバーというよりも、一緒のチーム運営メンバーというイメージが強いですね。「補完しあっているか」という質問に対して彼らが頭に浮かんでこないぐらい、チームメンバーとして当然の感覚になっています。

旭化成・中村氏:クレヨンのfiikaアプリと世の中に提供したい価値感を伝えたところ、それに強く共感し、「旭化成ホームズ内の新規事業アイデアコンテストで提案しよう!」と声をあげてくれたのが、まさに根本さんでした。

そこから、旭化成ホームズの事業構想と社内アセットに、fiikaアプリと提供価値を融合できたのは、根本さんの知見と視点があったからこそ。アイデア構想時点からのパートナーとして今までずっと一緒に走り抜いてきてくれました。他にも、クレヨン・旭化成ホームズグループの様々な協力者、PoC対象である集合住宅の入居者の方々、沢山の仲間に支えられて、ここまでやってこれました。

世の中の課題の解決、そしてお客様を笑顔にするためにやってきたので、そういう場面に触れる時は、心の底からやってよかったと思えます。

こういった補完関係の中でPoCを進めているわけですが、入居者それぞれの価値観やフェーズによって求められることも変遷しているのがとても興味深いです。

例えば、引っ越してすぐのフェーズならば、まず住戸設備の使い方がPainになることが多い。ほぼ同時に、周辺の環境(スーパーや飲食店)の情報も必要になる。

そのあとで、他の入居者との関わり方や自治などに興味が展開されていく。しっかり入居者に寄り添い、それぞれのフェーズでのくらしを支援していくところに我々はフォーカスしています。


出資するということは社内外を動かすレバレッジ

──出資もされたということについて少し深堀してみたいのですが、なぜ出資されたのでしょうか?

旭化成・中村氏:クレヨンが必要なタイミングに重なったということが大前提ですが、私としてはアライアンス形態を出資にする明確な狙いがありました。出資することで旭化成側は、出資者としての責任と利害が生じます。

出資先であるスタートアップの成功が自社の利益に繋がるわけですから、スタートアップのスピード感やユーザーファーストの考え方に対し、「出資先がやりたいって言っているからやりましょう!」と言いやすい。良い意味で、出資は社内をアジャイルに動かすためのレバレッジになると感じていました。

だから出資という形にしたかった。業務委託では、金銭関係で結ばれた業務指示になってしまう。それでは、一緒にユーザーの課題に向き合うというスタンスが取りにくくなると思いました。


──森屋さんは、投資家や事業会社から出資を受ける点で決め手になった部分はありますか。

クレヨン・森屋氏:資金とアセットとメンバーという3つが決め手です。出資を受ける前までジレンマがありました。会社員を辞めても、私はコンサルティング業務を受注することによって、支出を抑えるぐらいの売上を個人としてはあげることは可能でした。ただしやはりコンサルティングは自分の時間の切り売りなので、自分のやりたいことが出来ないという歯痒さがありました。

そこで、ある程度自分がコミットできる資金が確保できることに加えて、アセット活用や協業する仲間ができるということがVCにはない、事業会社からの投資ならではの大きなメリットであると感じました

ただし、その3つよりも大きい1番の決め手は実は磨樹央さんという存在です。

作りたい世界観があって、それをやるために必要なツール・アセットを持って来るだけの突破力がある。たとえ扉が閉まっていたとしても、様々な手段を使ってこじ開けていく感じです。

磨樹央さんがいれば、資金とアセットとメンバーという3つは後からでもついてくるだろうと思っています。


かけがえのないパートナーとして今後も伴走しながら共創活動

──今後どのような世界の実現のためにどんな挑戦や事業拡大をしていきたいですか?

クレヨン 森屋氏:現在、集合住宅一棟でアプリを導入していますが、アクティブ率はとても高くなっています。1つ目としては、それを面に拡げスケールさせていくというのが、短期的に達成したいことになります。

2つ目としては、どうやって社会的な価値を資本主義的な価値に変換していくか、つまりマネタイズに紐づけていくかというところです。私はもともと社会課題を解決したいという思いで起業しましたが、社会課題として残っているのは往々にして、金が稼ぎづらい領域です。狭小のコミュニティの醸成は、役所や自治体の仕事と思われがちです。私はこの変換をSDGsやトークンエコノミー等と絡めて、資本主義との繋がりを広げていきたいです。

3つ目は、体験的価値を追及していくことです。私は機能的価値では人々の行動変容を促していくのは難しいと思っています。機能的な価値が”what”, 例えば情報・モノ・スキルのシェアだとすれば、体験的価値は”how”に該当します。例えばそれはゲーミフィケーションかもしれないですしトークンエコノミーかもしれない。現在の市場のルールでは価値交換が起こりづらいところに対して、どんな施策を打ったら人々が動機付けされて価値交換が促進されるのか。それは私が小さい頃から夢見ていた、「人々を勇気づけ行動を促す」詩人・政治家像に繋がります。

そのような価値交換の仕組みをITで実装して、社会にインストールしたいと思っています。例えば育児で疲れ果てて自尊心を失っている女性や、定年退職されて社会との距離を感じている高齢者が、今日よりも明日ワクワクするようになるのは、機能的価値ではなくて体験的な価値だと思っています。体験的な価値訴求をより追及していくことでもっと愛されるプロダクトを作っていきたいです。



──非常に思慮深いですね!是非中村さんも教えてください。

旭化成・中村氏:私も、森屋さんの考えと同じで、集合住宅を価値提供のセンターピンに、成功事例を横展開していきたいです。その中で、更に見えてくるコミュニティ・自治・地域のニーズや課題があると思います。狭小地域内の集合住宅という点と点を線で繋げながら、更に近隣の店舗・行政施設・戸建てというように広げていき、最終的に地域SNSのプラットフォームにしていけたらと考えています。

日本では、人口減少・少子高齢化・地方空洞化・公助の限界が、これからさらに加速していくことは間違いありません。一方で、デジタルネイティブは増え、サステナビリティへの気運の高まりなど、デジタルプラットフォーマ―を後押しする土台は整いつつあります。これら世の中の大きな潮流をバックグラウンドに、2025~2030年には、まだ日本では誰も成し得ていない価値ある地域SNSとして市民権を得られればと考えています。それを達成するのに大事なのが、デジタルとアナログの両輪での取組だと思っています。

我々の強みの一つである「徹底してユーザーに寄り添う」というスタイルを貫きながら、泥臭く仲間を増やしていければと考えています。

もう一つ、GOKINJOでの取組を通じて達成したいのは、「日系大企業を変革する」ということです。バブル崩壊から失われた30年間、日系大企業の相対的企業価値、世界でのプレゼンス、イノベーション創出力は向上していません。しかしながら、終身雇用や年功序列の旧態依然の企業形態は文化的・政治的背景からも根強く残っている。

これは日本人ならではの美徳でもあると言えますが、これからはリバースメンタリングのように「若い力・新しい発想がむしろ大企業の経営戦略の軸の一つになりうる」ということを、経営陣にもわかっていただきたい。

そのためには、制度変更や若手有志活動などの間接的な取組だけでなく、「日系大企業(中堅・若手)社員による明確な市場価値創造」が命題だと感じています。

それを実現するためにも本取組をクレヨンと共に成功させたいと強く思っています。

──お忙しい中インタビューにご協力頂き、有り難うございました!


こちらは2/2記事目になります。

【対談】大企業とスタートアップが共創して叶えたい世界 旭化成×クレヨンの挑戦(前編)

人びとの“いのち”と“くらし”に貢献することを理念に、世の中にイノベーションを起こすことで、昨日まで世界になかったものを生み出していく旭化成株式会社(以下、旭化成)。日本を代表する大企業として、様々なスタートアップ企業との協業を進めるなか、フェムテックを推進するクレヨン・森屋CEOと出会い、コラボレーションを開始した。


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