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山口県発8社が東京で勝負——Y!Pitch で語られた技術と挑戦【Y!Pitch】

山口県が主催するスタートアップピッチイベント「Y!Pitch」が2026年3月15日、TIB(Tokyo Innovation Base)で開催された。医療、環境、宇宙、音楽、建設、エネルギーと多彩な領域から8社が登壇し、それぞれの技術と事業構想を語った。各社の取り組みについてご紹介する。

廃棄物に「憧れ」をプラスする
——アクタプラス

山口県出身の吉本龍太郎氏が率いるアクタプラスは、不要とされたものに憧れと価値を加えるスタートアップである。
社名は「塵芥(ちりあくた)」に由来する。
吉本氏の家業は山口県で約60年続く廃棄物処理業で、従兄弟の橋本季和子氏と2名で創業した。

同社は毎年、文部科学省・環境省後援の公募展「ACTA+ ART AWARD」を開催し、毎回100名を超えるアーティストがエントリーする。
現在国内外500名以上のアーティストネットワークを擁しており、素材軸(ペットボトル、木端材、ジーンズ、工場の廃棄端材など)とデザイン・テイスト軸(モノクロからビビッドまで)の2軸で、あらゆる要望に応じたアート制作が可能な体制を築いた。

「サステナビリティ投資の多くは技術・ハードが中心で、ソフトや文化に関する投資はほとんど行われてこなかった。その結果、多くの方々がサステナビリティに関心はあるけど、買うことではないという状況になっている」(吉本氏)。

事業は B2C のアート作品販売と B2B の企画・アートディレクション提案の二本立てである。
TRUNK (HOTEL) yoyogi park の客室アート、MAZDA TRANS AOYAMA のアートディレクション、オリックスグループ全国20ヶ所の宿泊施設プロジェクトなど実績を積み上げ、大手との取引も広がった。

東京ミッドタウンでは廃棄物からアートの森を作る「神秘の森」イベントを開催し、伊藤忠や松井証券も参画。
クラウドファンディングは開始3日で100万円を集め、最終的に300%を達成した。

「今は物売りからエンタメ、自社企画へと事業を転換していく。これからは私たちが格好良い世界観を作り、そこに一緒に共創していく事業を作る」(吉本氏)。

脳の創薬を「失敗させない」
——ADDVEMO

脳神経内科医として山口大学病院に勤務する竹下幸男氏が立ち上げた ADDVEMO は、社名が「ACCELERATING DRUG DISCOVERY BY VESSEL MODEL」の頭文字に由来するとおり、ヒトの脳血管モデルによる創薬支援を事業の核に据える。
TYS テレビ山口(2026年1月)でも紹介された同社が開発するのは、脳血管を再現した事前評価系「cuBe kit」である。

脳を対象とした創薬は、開発に20年、費用に3000億円を要し、成功率はわずか3万分の1という極めて困難な領域だ。

「一つの脳の薬を作るのに20年かかって、成功率が3万分の1しかなくて、費用が3000億円かかっている。これは本当に脳創薬の最大のボトルネックと言われていて、人類が今まで生きてきて、ここのボトルネックは一切変わっていません」(竹下氏)。

根本的な原因のひとつが、人の脳の血管を再現した事前評価系が世界に存在しなかったことにある。

cuBe kit は3層の細胞を直接接触させる技術により、脳血管における薬の通りにくさの再現に成功したヒト脳血管モデルだ。動物実験を経ずにヒト細胞で素早く、再現性高く、数値で比較できる点が強みである。

さらに高いヒト外挿性を持つ細胞株の産業化に日本で初めて成功し、ロボットによる量産性も世界初の成果だという。
2025年11月には山口大学との包括契約を調印し、2023年5月には大手経済紙にも取り上げられた。

現在ベータ版を共同研究先に提供中で、今年秋の販売開始を予定している。
経営面では共同代表に経営専門のメンバーを迎え、研究と事業開発の両輪で推進する体制を整えた。
竹下氏は2.5億円のシリーズ A 調達を目指しており、ボストンに軽量ハブを構築して品質と短納期を担保する計画だ。

看護師が届ける「病気に支配されない選択肢」
——ジニーズランプ

一般旅客自動車運送事業の許可を取得し、宇部山陽小野田消防局の認定事業者でもあるジニーズランプは、看護タクシー、民間救急、看護師同行サービス、教育事業、委託事業を展開する。
「病気・介護に支配されない選択肢を創る」をミッションに掲げる同社の代表取締役、白石知之氏が事業を語った。

日本人の平均寿命は84歳だが、健康寿命は73歳。
この差の11年間は、何らかの医療管理や介護を受けなければ日常生活もままならない期間だ。

「皆さんの人生には、病気や介護に支配された22年間が待っています。介護する側11年間、される側も11年間、合計22年間が人生のクライマックスには待っている」(白石氏)。

同社が着目するのは、この期間における移動や外出の課題である。
看護師が運転する福祉タクシーや民間救急サービスに加え、旅行への同行や通院の付き添い代行など、医療保険ではカバーしきれない保険外の看護師同行サービスを提供している。

こうしたサービスを広くマッチングするプラットフォームが「らんぷのナースさん」だ。
現在11名の看護師が登録しており、県内30名の登録を目指している。
同社が見据えるのは、シニア世代の生活産業51.1兆円(みずほコーポレート銀行産業調査部調べ)と、ビジネスケアラーによる経済損失9.1兆円(経済産業省調べ)という2つの市場である。

公的保険外ヘルスケア産業の市場規模は2025年に20.6兆円、年間平均成長率3%で2050年には43.1兆円に達すると予測されている。
今後はナースの増員と教育体制の整備を進めつつ、行政・公的医療・観光業界との連携を強化し、エリアを拡大していく計画だ。

トンネル現場の安全判断を AI で
——ドボクリエイト

「ご安全に」——トンネル工事現場で日々交わされるこの挨拶は、単なる挨拶ではなく、現場で働く人々の思いだ。
創業8年のドボクリエイトは、大手ゼネコンを含む水資源機構での数値解析支援実績を持つ。
「トンネル現場の OS」をコンセプトに掲げる同社の技術部長、岸田展明氏が登壇した。

岸田氏は山口大学でトンネル工学を学び、設計コンサルタント、国の研究所を経て、20年間トンネルと向き合ってきた。

建設技能者数は161万人減(約4割減)となり、残る技術者の3割が55歳以上。
技術者の急激な減少により、ベテランの経験と勘に依存してきた安全管理体制の維持が困難になりつつある。
DX でデジタル化や効率化は進んだが、最も肝心な安全判断だけが取り残されている。

「この挨拶は単なる挨拶ではなく、トンネル工事現場で働く人々の思いだ。その思いを、私はテクノロジーで守る」(岸田氏)。

同社が開発する「Tunnel-think」は、地盤の安全性を「安全率」という一つの数字で提示し、その根拠となる数値解析の結果を AI が解説するシステムだ。
核となる独自特許技術「EasyFDM」は、従来1ヶ月・200万円かかっていた解析を0.5日・50万円で完了させ、工数98%短縮、コスト75%削減を実現した。

ロードマップとしては Ver.1(2027年)で安全管理、Ver.2(2028〜29年)で現場管理の中核、Ver.3(2030年)で熟練技術者の判断の再現を目指す。
現在10社で試験導入が進み2社と契約を締結。主な取引先は大手ゼネコンなど20社以上に上る。

チームは数値解析を専門とする代表取締役の森本真吾氏(大学の元助教)、顧問の渡邊博氏(建設現場40年、トンネル現場の所長経験者)、山口大学の学生で構成される。

衛星データを「社会の当たり前」に
——New Space Intelligence

2021年11月に山口県で創業した NSI は、7カ国29名のグローバルチームと博士号保有者7名を擁する衛星データ企業である。会長の長井正彦氏は山口大学教授、副社長/CSO の市川ドルジュ氏は共同創業者だ。
サービス分野は災害対応、インフラ監視、離島監視、環境保全、地盤沈下、衛星データ校正と多岐にわたる。
代表取締役 CEO の長井裕美子氏が登壇した。

異なる衛星から得られるデータにはそれぞれ地上のズレや衛星由来のボケがあり、AI だけではカバーしきれない品質のばらつきが存在する。
NSI が開発するのは、地上に設置したミラーリフレクターを用いた校正技術だ。
AI では作れない「現実」の基準点をもとに、バラバラな衛星データをあたかも同じ衛星で撮影したかのように変換する。

「この4つの圧倒的な価値——観測頻度が上がる、コストが下がる、見逃しが減る、サービスを継続して使っていただける——これは私たちの技術があってこそ成し得るもの」(長井氏)。

同社はこの技術をベースに、衛星データの選択・統合・解析・提供までを一連で自動化した「衛星データパイプライン」を構築している。

JR 東日本との実証実験を進めているほか、能登半島地震では建物倒壊の解析に技術を活用し、全壊・半壊の強度解析を実施した。

「広域を網羅的に見られるのが衛星の大きな利点だ。例えば JR さんの7400キロの路線を全部見ることができる。変化があったところをお知らせすることで、そこにモニタリングに行っていただく、ドローンを飛ばしていただくということができる」(長井氏)。

経済産業省から5年間で15億円の支援を受け、JAXA 基金も2件が決定した。
東京にも拠点を開設し、地理空間情報解析市場2027年17兆円規模に向けて Phase 1(国内展開)から Phase 3(グローバルリーダー・IPO)へと段階的な成長を計画している。

海水と淡水で24時間発電
——ブルーウォーターエナジー

「POWERED BY OCEAN, FOR EARTH」をタグラインに掲げるブルーウォーターエナジー(BWE)は、2025年4月に山口県宇部市で設立された。
COO は徳島大学工学博士で、NEDO NEP 採択、とくしま創生アワードグランプリの実績を持つ。
代表の吉崎万莉氏が、逆電気透析発電(RED 発電)という新たな再生可能エネルギー技術について語った。

RED 発電は、イオン交換膜技術を用いて海水と淡水の塩分濃度差から発電する仕組みだ。
太陽光や風力と異なり天候に左右されず、24時間365日の安定発電が可能である。

設置面積は太陽光の50分の1、風力の200分の1で済む。

「これまでの再生可能エネルギーで一番の課題だった安定性、そして省スペース、どちらも叶える再生可能エネルギーだ。分散型自立電源として各地に設置でき、災害時、どこかが壊れてもどこかは生きているという形で重要な施設に電力を送り続けられる」(吉崎氏)。

ポテンシャルは9,000TWh——世界の電力需要の約30%をまかなえると試算されている。

同社の技術は山口大学大学院理工学研究科の教授が率いる研究に基づく。
日本海水学会会長も務めた同教授のイオン交換膜研究により世界最高出力を達成し、従来比3倍の出力向上を実現した。
現在、内閣府 SIP の支援により大型 PoC を実施中で、来年度には東京都での大型 PoC も予定されているという話だった。

音楽プロモーションをデータで変える
——BabyJam

山口県下関市豊前田町に本社を置き、東京(目黒区大橋)にも拠点を構える BabyJam は、従業員20名の音楽スタートアップである。
Alliance(JP)には元オリコン・エンタテインメント代表取締役社長の西山靖人氏、Alliance(Global)には元ユニバーサルミュージックの鈴木貴歩氏が名を連ねる。

元バンドドラマーの田村亮二氏が CEO を務め、三井住友信託銀行出身の亀谷典氏が COO/CFO、フルスタックエンジニアの黒川和馬氏が CTO として経営を支える。

「制作や配信のデジタルインフラは整いつつある一方で、プロモーションやマネジメントといったところは依然として属人的で、主要なデジタル基盤が存在していないのが現状だ」(田村氏)。

同社は独自データベースと機械学習解析を組み合わせた音楽プロモーションプラットフォームを運営し、3年間で累計1万2千組、3千名以上のプロモーションを実施した。
80社以上の法人、200組以上のトップティアアーティストとの取引実績を持ち、国内主要レーベルはほぼ全てが顧客だ。
楽曲収益予測、ライブ動員予測、物販需要予測、広告効果予測の4つのシステムを展開し、いずれも精度90%以上を達成している。
そんな田村氏が次の成長ドライバーとして語ったのが「NORDER Finance」の構想である。

「将来収益を前提に資金を先払いするアドバンスモデルを展開する。指定した期間で予測されるストリーミング収益をもとに資金提供し、指定期間内の権利を預かることで回収する。アーティストにとっては貸し付けでも投資でもない、権利が返ってくる第三の資金調達手段だ」(田村氏)。

成長ロードマップとしては NORDER APP から予測システム、NORDER Finance、そして IP/NORDER Agent へと段階的に事業を拡張する計画だ。
現在ファンド組成を金融機関や事業会社と進行中である。

テレビで「ゼロ操作」の
オンライン診療を届ける
——メディモニー

山口県宇部市に拠点を置くメディモニーは、2024年4月設立のスタートアップである。代表取締役の吉田透氏は、2023年1月の検証開始以来、山口大学・山口県との連携を重ねてきた(2024年1月改善、2024年8月対話を経て現在始動)。

テレビを通じたオンライン診療システムで、日本に500以上ある医療過疎地区の課題に正面から取り組んでいる。

オンライン診療の患者利用率は12.3%(2024年)にとどまり、医療機関の普及率も15.2%(2023年)と低い。
その大きな要因が高齢者のデジタルデバイドである。

「スマートフォンを持っていますかと聞くと皆さんガラケー。アプリがインストールできますかというと、電話しか使わない。ビデオ通話の接続が複雑で使えない」(吉田氏)。

同社の解決策はシンプルだ。
テレビにデバイスを接続し、患者側は自動接続、操作はすべて医師側が行う「ゼロ操作」のオンライン診療を実現した。
高齢者が日常的に使い慣れたテレビとリモコンという既存のインターフェースを活用することで、デジタルデバイドを根本から解消する設計である。

現在5つの医療機関で導入され、30人以上の患者が継続的に利用、100回以上の診療を実施し、患者・医師双方の評価は100%を達成した。
一方で吉田氏が最大の課題として挙げたのは導入支援だ。

「当初システムさえ入れればある程度広がるかと思ったが、現場に行ったときに、プランニング、システム構築、設置、運用ルール、サポート、これを全て対応しないと回らない。皆さん『やってみたいけど大変そうだから嫌だ』と言われる」(吉田氏)。

同社はこの一気通貫の導入支援を提供し、システム導入のハードルそのものを取り除く仕組みとして展開している。
医療過疎地区500カ所に「当たり前の医療」を届けられるか、今後の展開が注目される。

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