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INTRAPRENEUR MEETUP 2025秋レポート 明治×富士通の社内起業家が語る、「想い」と「会社の論理」をつなぐ技術——現場を支えるイントラプレナーのリアルに迫る

事業会社の中で“ゼロ”から新しい事業を生み出す——。
 その最前線に立つイントラプレナー(社内起業家)は、日々、社内の制度や文化、既存事業との摩擦を乗り越えながら、未来の事業を形づくっている。

01Boosterが主催する「INTRAPRENEUR MEETUP 2025秋 ~明治×富士通の社内起業家が語る、新規事業のリアル~」では、食品、ヘルスケア、テクノロジーという異なる領域から集まった社内起業家たちが、立ち上げの苦労、社内での葛藤、組織を動かすための工夫、そして自らのパーパスまで、等身大の言葉で語った。

本イベントは、大企業の新規事業担当者・事務局だけを招待した“完全クローズド”のミートアップ。会場はほぼ満席となり、「社内から事業を起こす」同じ立場の参加者同士が深く共鳴し合う一夜となった。

明治×富士通——異なるキャリアが重なる「社内起業」という選択

登壇したのは、

 ・株式会社 明治:土師智寿氏(インナーガーデン事業責任者)
 ・富士通 Japan:藤里央氏(ヘルスケア領域の新規事業担当)
 ・第一三共ヘルスケア:時久航一氏(オープンイノベーション&CVC立上げ統括/モデレーター)

それぞれのキャリアはまったく異なる。

土師氏は飲料開発畑からスタートし、プロテイン飲料など複数のヒット商品を生んできた“ものづくりのプロ”。ベンチャー共創プログラムへの参加を転機に、新規事業領域に飛び込んだ。

一方、藤里氏は、保険業界で商品開発に携わった後、ヘルスケア領域へキャリアをシフト。「人々の行動変容につながる事業を生み出したい」という強いパーパスを軸に、社内新規事業に挑戦している。

共通するのは、“自分の想い”と“会社の戦略”を接続しながら事業を前に進める姿勢だ。

「好きだからやりたい」を超えて、「会社としてやる理由」をつくる

新規事業は、どうしても「担当者がやりたいこと」に寄りやすい。
 一方で、社内起業家に求められるのは、
会社がなぜやるべきかを言語化する力
“今”やる合理性を示す力

の2つだ。

明治:腸内環境の市場を「いま」攻める理由

土師氏は、インナーガーデンの立ち上げについてこう語る。

腸内細菌検査コストの低下
デジタルによる個人データ返却が可能になった
コロナ禍収束後の検査キャパシティの変化

これらの社会変化が“今だからこそ成立するモデル”を後押しした。
単なる“面白いアイデア”ではなく、
 「なぜ明治が取り組むのか」「なぜ今なのか」
 をセットで説明できなければ、社内は動かない。

富士通:想いを「会社のミッション」に翻訳する

藤里氏も、個人のパーパスだけでは社内は動かないと強調する。

「新規事業は好きだけでは進まない。“会社としての必然性”とつなげて初めて、周囲を巻き込むことができる」

富士通内でも、「個人の想い型のテーマが多く、引き取り部署がない」
 ことが長年の課題だったという。

その構造課題に対し、藤里氏は「最初から引き取り部署側の人間として挑戦する」というアプローチで突破口を開いた。

この“翻訳能力”こそが、社内起業家の武器になる。

落とし穴:新規事業は“企画より裏側が10倍大変”

土師氏のエピソードは、多くの参加者が深くうなずいたポイントだ。

インナーガーデンは、「腸内検査+パーソナルケア商品」のセットモデルとして展開している。

しかしその裏側には、一般ユーザーには見えない膨大なオペレーションがある。

  • ユーザーは検査代と商品代を一括支払いするが、最初に提供されるのは検査キットのみ
  • ユーザーが「今日はベストの腸じゃない」と感じると採便が遅延
  • それに加え、検査は最短2週間、うまくいっても会計処理の月跨ぎ
  • 更に未提出対応や検査不備によるイレギュラー対応によるオペレーションの複雑化
  • 特商法・個人データ・薬事法対応
  • 複数の外部企業との役割分担と連携調整

「言葉だけ聞けばシンプルですが、実現しようとすると想像の10倍大変。
 今ならセット販売にはしないかもしれません(笑)」

このリアルな言葉に、会場がどっと沸いた。

新規事業の本質は、 「言葉上の企画」ではなく「仕組みの実装」であることを、あらためて痛感させられる。

抵抗勢力は“敵”ではない。
攻略すべきは「真ん中の人」

企業規模が大きいほど、新規事業は社内政治の影響を強く受ける。

藤里氏は、富士通のような歴史ある大企業では「積極的な反対派」よりも「中間層」が最も扱いにくい と語る。

その攻略法として紹介されたのが、下記3点

 徹底的なインプットで“新規事業の専門家”として振る舞う
 相手の得意・不得意を見極め、補完関係をつくる
 会社が恐れているリスク/欲しているKPIに情報を合わせる

「『新規事業に関しては自分の方が詳しい』と思えるレベルまで学ぶ。 その上で、上司の弱い部分を補完できると、一気に風向きが変わる」

「味方を増やす」というより、“組織が意思決定しやすい状態をデザインする”という発想だ。

新規事業の本質は「文化づくり」——腸内タイプと行動変容の未来

セッション終盤、登壇者の言葉は未来に向けて広がっていった。

明治・土師氏:
「血液型のように、自分の腸内タイプを誰もが知っている社会をつくりたい。
 腸内環境は健康のベース。これは“文化”になり得る」

食品メーカー各社と連携しながら「短鎖脂肪酸市場」を育てる取り組みも始まっており、
 業界横断の動きがすでに生まれつつある。

富士通・藤里氏:
「いつか、健康診断の中で“歯科検診が当たり前にある世界‘’に変えられたら、
 そこで行動変容が起きるかもしれない」

共通していたのは、
 “事業”という枠を超えて、未来の生活者の行動や文化を変えたい という強い意思だった。

 INTRAPRENEUR MEETUPの価値——「同じ立場だから話せる」場所

今回のイベントが特別だったのは、
 参加者の9割以上が“大企業で新規事業に取り組む当事者”だったこと。

テーマオーナー、新規事業部のメンバー、プログラム事務局、CVC・事業開発部、R&D・DX担当 など、多様な立場のイントラプレナーが集まった。

ネットワーキングでは、

「社内でここまで本音を共有できる場はあまり無い」
「自社と同じ課題を抱えていることが分かって救われた」
「他社の事務局と直接話せたのが大きい」

といった声が多く聞かれた。

INTRAPRENEUR MEETUPは、単なるイベントではなく、
 “イントラプレナー同士が未来の事業を共創するコミュニティ”を目指している。

INTRAPRENEUR MEETUP 2025秋は、社内起業家が本音で語る貴重な場となった。

登壇者が共通して口にしたのは、

「社内新規事業は、企画よりも“実装”が難しい」
「想いだけでは動かない。会社の論理に翻訳する必要がある」
「仕組みを理解し、社内政治を設計できる人が事業を前に進める」
「事業の最終形は“文化”として根付くかどうか」

という、現場ならではのリアリティだ。

そして何より、 “自分はひとりではない”と実感できる夜だった。

事業を創る挑戦は続く。
 次のINTRAPRENEUR MEETUPでは、再び新たな実践者同士の対話が生まれるだろう。


イベント名: INTRAPRENEUR MEETUP 2025秋
 日時: 2025年11月25日(火) 19:00〜21:00(受付18:30〜)
 場所: 有楽町
 参加費: 無料(事前申込制)
 対象: 大手企業の社内新規事業担当者/制度事務局/企業内イノベーター 等

※次回は2026年春に開催予定

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