事業創造に関わるすべての人に

メルマガ登録

死亡率30%を10%に変えた養殖家が、次はインドネシアへ——Strout が「技術だけでは足りない」と学んだ理由【Ryukyu Launchpad 2025】

本稿は沖縄県主催のスタートアップ支援プログラム「Ryukyu Launchpad 2025」(インドネシアコース)の Demo Day に登壇したスタートアップのピッチをお届けする。

2030年までに世界の水産物の60%以上が養殖由来となり、市場規模は3,000億ドルを超える。この急拡大する養殖産業で、AI と IoT を活用した陸上養殖の DX に挑むのが Strout だ。
CEO の平林馨氏は元 PwC のコンサルタントだが、静岡で70年続く家業のニジマス養殖を継ぎ、年間約100トンを生産する「養殖家」の顔も持つ。
Ryukyu Launchpad を通じてインドネシア市場を攻めようとした同社が現地で掴んだのは、テクノロジーだけでは通用しないという現実だった。

70年の養殖知見を AI に載せる——
死亡率60%から10%へ

陸上養殖は環境を制御しやすい反面、統合的な設計と確実な販路がなければ単なる高額なインフラに過ぎない。
Strout はこの課題に対し、養殖場の設計から運用、販売までを一気通貫で手がける「End-to-End」のアプローチで解決策を示す。
70年にわたり蓄積された養殖の知見を独自ソリューションである「Sakana Edge」に統合し、IoT センシングと AI 予測分析で運用を最適化する。

「統合的な設計と確実な販路がなければ、陸上養殖は単なる高額なインフラに過ぎません。私たちにそれができるのは、世代を超えた養殖の知識と販路を持っているからです。生産機能だけでなく、販売機能も持っています」(平林氏)。

成果は数字に表れている。静岡の陸上養殖場では、カワハギの死亡率を30%から10%へと大幅に改善した。
単価は1kg あたり8ドルから24ドルへ、利益率は5%から15%以上に引き上げた実績を持つ。
国内では静岡、沖縄、青森、宮城で事業を展開し、OIST イノベーションのアクセラレータープログラムにも参加している。

毎月のインドネシア訪問で見えた「3つの学び」

世界最大の養殖市場でありながら、生産性やオペレーションに大きなギャップが存在するインドネシア。
平林氏は2024年10月からほぼ毎月現地を訪問し、ジャカルタ、ボゴール、ブレベス、バリと各地で計10件のビジネスミーティングを重ねた。
3社との MOU・NDA 締結に至ったが、それ以上に大きかったのは「3つの学び」だ。

「3つの学びがあります。1つ目は、テクノロジーだけでは不十分で、オペレーション、販売、IoT すべてを統合した設計が必要だということ。2つ目は、農家への直接融資にはリスクが伴うこと。3つ目は、インドネシアでビジネスをするなら30〜40%の利益率が必要だということです」(平林氏)。

こうした学びから、同社はビジネスモデルを根本から再設計した。
当初はアセットオーナーに養殖場を建設してもらい運営と販売に特化する予定だったが、「裏切られるリスクがある」という現地の声を受け、現地パートナーとのジョイントオペレーションによるプロフィットシェアモデルへと方向転換したのだ。

ニジマスとマングローブガニ——
2つの「高付加価値魚種」で100億円を狙う

戦略魚種として選定したのは、ニジマスとマングローブガニの2種だ。ニジマスについては、種苗を日本で生産・輸出し、インドネシアで成魚生産したものを国内市場向けに販売する計画を進める。
マングローブガニについては、日本市場で高値で取引される状況を活用し、インドネシアで効率的な繁殖・孵化を行うため、養殖家に AI を用いた飼育管理技術を提供しながら日本向けの輸出を目指す。

今後は PoC の実施と商業化の検証を経て、日本だけでなくインドネシアの投資家からもプレシリーズ A の資金調達を計画している。
コンサルタントと養殖家という二つの顔を持つ平林氏が率いる Strout は、テクノロジーだけでは通じないインドネシアの現実を知った上で、それでも日本が誇る養殖技術の海外展開に挑もうとしている。

facebook twitter line
記事のタイトルとURLをコピー コピーしました コピーに失敗しました