転倒を「検知」ではなく「予防」する——OIST 発 Sage-Sentinel、米国エイジテック市場での勝ち筋を探る【Ryukyu Launchpad 2025】

本稿は沖縄県主催のスタートアップ支援プログラム「Ryukyu Launchpad 2025」(米国コース)のデモデイに登壇したスタートアップのピッチをお届けする。
世界保健機関(WHO)によれば、医療を要する重篤な転倒は65歳以上で年間3,700万件に上る。
日本の外傷登録では65〜79歳の外傷原因の56.7%、80歳以上では78.9%が転倒によるものだ。
市場には転倒を「検知」するデバイスは多数存在するが、転倒した後にわかっても本人の怪我は防げない。
この課題に対し、AI とウェアラブルデバイスで転倒の3〜5秒前に予測・警告するシステムを開発、プロトタイプの完成に至っているのが、沖縄科学技術大学院大学(OIST)発の Sage-Sentinel Smart Solutions だ。
2022年に OIST のアクセラレータープログラムから生まれた同社は、2024年12月にプレシードラウンドを完了。
Ryukyu Launchpad の米国コースを通じて、エイジテック市場への本格参入に向けた戦略を練り上げた。
「転倒後」ではなく「転倒前」
——わずか数秒が分ける明暗
Sage-Sentinel の技術的基盤は、共同創業者陣の専門性に裏付けられている。
CEO の Khashayar Misaghian 氏はモントリオール大学で視覚科学の博士号を取得し、神経科学とマシンビジョンを専門とする。
CSO の Jocelyn Faubert 氏はモントリオール大学の教授で、査読付き論文を200本以上執筆し、神経トレーニングソフトウェア「NeuroTracker」を開発した発明者でもある。
共同創業者で CFO の J. Eduardo Lugo 氏は物理学の博士号と EMBA を有し、理論物理学・実験物理学の双方で専門性を持つ。
光学分野の特許・特許出願を36件以上保有し、脳計測用光学イメージングデバイスや人間のパフォーマンス関連技術の開発・技術移転にも多数携わってきた。
この神経科学・光学の専門家チームが開発したのが、腰部に装着する小型ウェアラブルデバイスである。
カメラなど外部機器を組み合わせるものではなく、戦略的に配置されたセンサーを内蔵したベルト型デバイスによってデータを収集する仕組みだ。
ベルトに内蔵された IMU センサーと AI ソフトウェアが高齢者の身体動作をリアルタイムに解析し、転倒リスクを検知すると音と振動で装着者に警告する。
作動するのは転倒の3〜5秒前というわずかな時間だが、その数秒が高齢者を寝たきりにさせるかどうかを分ける重大な時間だと同社は説明する。
“84件” のヒアリングが形にした米国市場戦略
米国コースでの活動は、投資獲得、米国市場の理解と GTM 戦略の策定、パイロットパートナーの発掘という3つの目標で進んだ。
起業家や投資家ら84件のヒアリングを通じて、米国・日本市場双方に対する視点が形成され、米国市場でのポジショニングと戦略を確立するに至った。
具体的な成果として、米国の2社と相互 NDA を締結。
1社はスタートアップ向けの戦略・マーケティングサービス企業、もう1社はニューヨーク拠点の医療グレードのデバイス製造・量産企業だ。
同社が「最も価値ある成果」と振り返るのは、プログラム終了後もメンターからのサポートが継続していることだという。
AI とヘルスケア業界の専門家によるメンターセッションでは、ポジショニングと GTM タイムラインの最適化について助言を受け、FDA の医療機器認証パスや投資トレンドが市場ポジショニングに与える影響といった知見も得た。
単発のイベントで終わらない継続的なメンターシップが、米国市場参入の足掛かりになっているのだ。
「次はもっと絞る」
——幅広く探ったからこそ見えた反省
プログラムを経験した上での反省も率直だった。「もう一度参加できるなら」という問いに対し、同社は2つの方向性を示した。
「1つ目は、AARP(全米退職者協会)のような医療に特化した組織ともっと関わること。2つ目は、AI セクターからの投資を狙うことです。今や弊社のプラットフォームを1つのアプリケーションに限定せず、AI プラットフォームとして提供する準備ができているからです」(Misaghian 氏)。
幅広く探ったからこそ見えた反省——転倒予防という明確なポジショニングと、OIST で磨かれた神経科学の知見を武器に、FDA の医療機器認証パスを見据えながら米国エイジテック市場に挑む同社の次の一手は、より焦点を絞ったものになるだろう。