5カ国のパートナーが語る「日本のスタートアップの売り方」と海外展開支援の未来【Ryukyu Launchpad 2025】

本稿は沖縄県主催のスタートアップ支援プログラム「Ryukyu Launchpad 2025」Demo Day で実施されたパネルセッションをお届けする。
8社のスタートアップがピッチを終えた後、ステージに上がったのは米国、インドネシア、ベトナム、シンガポール、韓国——5カ国で日本のスタートアップの海外展開を支援するパートナーたちだ。
01Booster 取締役の川島健氏がモデレーターを務め、LA 拠点のアクセラレーター LaunchStarz Co-Founder & Co-CEO の Kenny Lum 氏、シンガポール・インドネシア・マレーシアに拠点を持ち、アジア10カ国にネットワークを有する Meet Ventures パートナーの Farhan Firdaus 氏、ベトナムのイノベーションエコシステムを牽引するアクセラレーター InnoLab Asia CEO の Cong Thang Huynh 氏、シンガポールで JSIP を共同創業した中村貴樹氏、そして01Booster 韓国担当の Patrick Jeon 氏が登壇した。
テーマは大きく3つ。
各国市場と日本の違い、海外から見た日本のスタートアップの強み、そして沖縄エコシステムとの連携の可能性だ。
「直接的 vs 間接的」
——各国市場で求められる営業スタイルの違い
最初のテーマは、日本市場と各国市場の違いをどう克服するか。
真っ先に口を開いた Kenny 氏が指摘したのは、米国市場の「直接性とスピード」だった。
「日本では根回しがあって、意思決定に時間がかかります。しかしアメリカでは、とにかく外に出てミーティングを取るというマインドセットに切り替えなければなりません。日本のスタートアップにとって最大のカルチャーショックは、この直接性とスピードだと思います」(Kenny 氏)。
投資家の視点では、スケーラビリティも重要だという。グローバルに展開できるのか、2〜3倍ではなく「10x」の成長を語れるのか——日本国内だけを見ていては投資家との対話が成立しないのだ。
一方、東南アジアでは事情が異なる。
ベトナム市場を担当する Thang 氏は、現地の大企業が単なる調達先ではなく「共創パートナー」としてスタートアップと組む文化があると指摘した。

Japan Drone Organization(以下「JDO」) のベトナム進出を支援した経験を踏まえ、「大企業はポテンシャルがあると判断すれば、共創やプログラム開発もしてくれます。そして中小企業はもっとスピーディで、価格がよければ商品をすぐに購入してくれる」と語る。
ベトナムでは検証コストが日本より大幅に安く、失敗しても再挑戦しやすい環境がある。
01Booster 韓国担当の Patrick 氏は、韓国市場ではできるだけ早く結果を見せることが求められる一方で、日本とは「似ているようで全然違う国」だという認識が重要だと強調した。
ビジネスツールも異なり、韓国では KakaoTalk がビジネスコミュニケーションの主流だ。

「できるだけ早いレスポンスが求められます。具体的には、日本でのビジネスコミュニケーションよりも数段早いスピード感です」(Patrick 氏)。
シンガポールを担当する中村氏は、投資家の視点から独自の論点を加えた。
シンガポールは市場規模が小さく、周囲のインドネシアやマレーシアへの展開が前提になる。さらに Exit の難しさがある。
「日本では東証に比較的容易に上場できますが、シンガポールの株式市場は主要な Exit とは見なされていません。会社を売却して Exit するのが非常に難しい」。だからこそ、大企業に「匂いを嗅がせる」——つまり将来の買収可能性を意識させるアプローチが有効だという話だった。
インドネシアの Farhan 氏は、米国とは異なり、インドネシアでは「間接的な」コミュニケーションが重視される商習慣に特徴があると語る。
パートナーシップの交渉の際には、誤解を避けるために双方ができるだけ率直に意見を交わせるよう働きかけた経験もあり、文化の違いを橋渡しする仲介者の役割が極めて重要だと強調した。
「インドネシア市場には多様なステークホルダーがいます。政府系企業、コングロマリット、ファミリービジネス、そして中小企業。幅広いビジネス機会がある一方で、レイヤーがたくさんあるのです」(Farhan 氏)。
品質・準備力・適応力
——海外から見た「日本のスタートアップ」の武器
各国市場の違いが浮き彫りになった上で、川島氏が投げかけたのは「逆に、日本のスタートアップの強みはどこにあるのか」という問いだ。
Thang 氏が JDO の事例で挙げたのは「適応力」だった。
当初ベトナムに提案したビジネスモデルは現地ではまったく通用しなかったが、対話を重ねる中で戦略を大きく転換した。
「最初は苦労しました。何を言うべきか、何を言うべきでないか。でも、現地パートナーと率直に話し合ううちに、理解が深まり、最終的に大きな変化を受け入れてもらえたのは本当に嬉しかったです」(Thang 氏)。
準備の良さに加え、現地の声を聞いて柔軟に方向転換できる姿勢が、日本のスタートアップの強みだという。
Kenny 氏は米国における「日本品質」の人気の高まりを指摘した。
食品やアニメだけではない。
日本のスタートアップが持つ完璧主義と高品質な製品が、米国市場で競争優位になりつつあるのだという。

興味深いのは、日本のスタートアップの「謙虚さ」に対する見方だ。
「日本ではプロダクトの完成度が80%なのに『まだ早い、まだ20%です』と言われる。でも、実際には準備ができているんです。私たちが『準備できている』レベルを示すと、自分たちの製品がどれだけ進んでいるか気づくことがよくあります」(Kenny 氏)。
Patrick 氏は視座を一段上げ、「インターナショナル」と「グローバル」の違いを問いかけた。
各国にローカライズして展開するのか、1つの製品で世界中を獲りに行くのか——この戦略の選択が海外展開の成否を分けるという指摘だ。iPhone のようにローカライズしない「グローバル」な製品もあれば、スターバックスのように各国メニューを持つ「インターナショナル」な展開もある。
日本のスタートアップは、自分たちがどちらの戦略を取るべきかを見極める必要があるのだという。

モデレーターの川島氏も、もう一つの強みとして「営業力」を挙げた。
アジア全般で見ると、スタートアップの展示会で日本のスタートアップはブースの前で積極的に人を捕まえにいく。この貪欲さは、アジアの他の国のスタートアップにはあまり見られない特徴だという。
「ビジネスの地・沖縄」としての認知拡大が鍵
── 海外エコシステムとの連携強化へ
最後のテーマは、沖縄のスタートアップエコシステムとの連携だ。
Ryukyu Launchpad を通じて初めて沖縄と関わったパートナーも多い中、それぞれがこの地域の可能性をどう見ているのか。
JSIP の中村氏は、すでに沖縄市のコザスタートアップアーケード内に日本法人を設立し、OIST とも MOU を締結している。

「まだ初期段階です。今後は、スタートアップ支援者——特に行政や皆さんのようなプレーヤーと、プログラムの設計段階から一緒に取り組みたい」と語った。
国内スタートアップのシンガポールでの「グローバルな売り方」を支援できるのは、テマセク傘下の投資会社を経た中村氏ならではの強みである。
Patrick 氏は、率直に語った。
「韓国では、沖縄はビジネス拠点というよりも、ハネムーンの行き先という認識のほうがまだまだ根強くあります。ビジネスで訪れるという発想がないからこそ、その認識を変えることに価値があると考えます」(Patrick 氏)。
Thang 氏は、沖縄のスタートアップだけでなく中小企業がベトナムで PoC を行う支援もできると提案した。
「沖縄はちょっとしたハワイのようで、日本、アメリカ、中国の文化がミックスしている。地球上でもこういう島は珍しいです」。
そして最後に具体的な要望を付け加えた——ホーチミンから沖縄への直行便の実現だ。
物理的な距離を縮めることが、ビジネスの距離を縮める第一歩になるという。

Farhan 氏は、沖縄とインドネシアの産業構造の類似性に着目した。
パーム油を除けば、農業や水産業など共通する産業基盤がある。
「こうした類似性は、テクノロジー移転の土台になります」と指摘し、Strout の平林氏への支援を今後も続けることを約束した。
Kenny 氏は、エコシステム全体の底上げを強調した。行政だけでなく、教育機関や中小企業、Lagoon KOZA(ラグーンコザ)のようなスタートアップ支援者が一体となって取り組むことが重要だという。
特に沖縄の中小企業について「ここの中小企業は外に出る準備ができている。
アジアに行きたいなら東京を飛ばしてアジアに行く、アメリカに行きたいなら東京を飛ばしてアメリカに来る。
私たちはその支援ができます」と語った。
5カ国のパートナーが口を揃えたのは、沖縄という地域が持つ独自のポテンシャルだった。
観光地としてのブランドに加え、OIST を中心としたディープテックの知見、アジア各国へのアクセスの良さ、そして文化的な親和性。
Ryukyu Launchpad が築いたネットワークは、スタートアップの海外展開支援にとどまらず、沖縄の産業全体をグローバルにつなげるハブとしての役割を果たし始めている。