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「控えめはもったいない」——山口県と東京都、二人のリーダーが語るローカル発スタートアップの育て方【Y!Pitch】

3月15日、東京・虎ノ門の TIB(Tokyo Innovation Base)で開催された山口県主催のピッチイベント「Y!Pitch」。
そのオープニングセッションに登壇したのは、山口県の村岡嗣政知事と東京都の宮坂学副知事だ。
モデレーターはゼロワンブースターの鈴木規文氏。

「東京都と連携で実現する山口県のスタートアップエコシステムの進化——ローカル発、グローバルを目指す」と題されたセッションでは、ものづくりの歴史を持つ山口県がスタートアップ支援の新たなフェーズに踏み出す姿と、それを後押しする東京都の構想が語られた。

高校生が世界に挑む
——起業家教育の手応え

山口県と聞いて、スタートアップのイメージを持つ人は多くないだろう。しかし村岡氏が語る山口県の産業基盤は、実は相当に厚い。

「大正時代からこの県はものづくりをするんだということで、工業養成を全国で最初に整備して、日本一の給水を作った。港も下関港から岩国港まで6つの国際拠点港湾がある。これだけあるのは北海道に次いで山口県が多い」(村岡氏)。

瀬戸内エリアには基礎素材産業を中心にコンビナート群が集積し、日本有数のものづくり県を形成している。
加えて産業人材の層も厚い。「工業高校で学んでいる生徒は実は日本一多い。
高専が3つあって、これも全国最多タイだ」(村岡氏)。

さらに自然災害が少ないという地理的優位性もあり、企業立地の投資額は3年連続で過去最高を更新中だ。
BCP(事業継続計画)の観点からも山口県の立地優位性は高く、新規投資が加速している。

一方で村岡氏は、県民性についてこう語る。

「山口の人は非常に控えめ。こんなにすごいですよということを言わない。私は自分の県民性を捨てて言っているんですけど、あまり言わないんですよね」(村岡氏)。

ものづくりの県らしく「いいものを作ったらそれでいいだろう」という職人気質が、対外的な発信を妨げてきた側面もあるという。

こうした産業基盤の上に、山口県はスタートアップ支援を着実に積み重ねてきた。
起業家教育では3年間で約2,000人の高校生・大学生を支援。ゼロワンブースターと協力したアクセラレーションプログラムで成長支援にも取り組んでいる。

村岡氏は「挑戦を応援する文化の醸成」と「自律的な支援体制の構築」を掲げ、単なる補助金の配分にとどまらない土壌づくりに注力してきた。
その成果は若い世代に表れている。
村岡氏は「最近の高校生は私たちの時代と全然違う。社会の課題やこれからの社会をどうしたいかという意識がすごく強い。環境を与えるとものすごくチームを作っていろんなことを考え出す」と語る。

成果も出始めており、「全国大会で結構な表彰を受けたり、タイで開かれた大会で大和教の高校が入賞したりということも出てきている。それが出てくると、同じ高校生が自分たちもやっていこうと。同じ地域の中でも広がっていっている」(村岡氏)。
挑戦の連鎖が地域の中で好循環を生み始めている。

そんな中、山口県のスタートアップ支援は新たなフェーズに入った。示されたのは4つの方向性だ。

1つ目は「伸ばす」。GX(グリーントランスフォーメーション)、大学発ベンチャー、社会課題解決型といった重点分野への集中支援を進める。
成長戦略づくりから資金調達、販路開拓まで、次のステージに上がるための伴走支援を行う。
2つ目の「ひらく」では、リバースピッチの手法で企業や自治体が抱える課題を開放し、課題解決力を有するスタートアップとの共創を具体化する。

3つ目の「つなぐ」は、山口県ゆかりの起業家・経営者6名をエコシステムアンバサダーに任命し、助言・紹介・ネットワーキングを通じて県外との知見とつながりを還流させる取り組みだ。
そして4つ目が「実装する」。
政府が進めるGX戦略地域の検討会で山口県が有望事例として紹介されたことを踏まえ、正式な指定の獲得を目指す。
瀬戸内のコンビナート群と新規投資、スタートアップを組み合わせ、脱炭素社会に必要な技術の実証・実装環境を整備する構想だ。

「発信しないと、つながりは生まれない」
——宮坂副知事が山口県に伝えたこと

セッション後半、宮坂氏の言葉には実感がこもっていた。
実は宮坂氏自身が山口県の出身で、高校まで山口で過ごしている。
「父は工場勤務で、ずっと山口県の工場だった。まさに工場があったおかげで僕は高校まで行って、大学に進むことができた」(宮坂氏)。地元には今も友人や後輩が残り、商店街で店を営んだり、2代目・3代目として事業承継に奮闘している姿を間近で見てきたという。

東京都の取り組みとして宮坂氏がまず紹介したのは TIB の実績だ。
1,600回を超えるイベント開催、38万5,000人超の来場者数。学生コミュニティ「TIB JAM」や、学校への起業家派遣などの「TIB STUDENT」も展開している。

とりわけ力を入れているのが若い世代の巻き込みだ。
グローバルイノベーションカンファレンス「SusHi Tech Tokyo」の運営には「 ITAMAE」と呼ばれる大学生チームが参画している。

「通常、ボランティアスタッフは大人が決めたことを現場でやってくださいという位置づけになることが多い。それをやめようという話をした。企画から全部任せた。ブースを1個渡して、ステージも1個渡して、どういうセッションをしたいのか、どういう人を呼びたいのか、全部自分でやってくださいと」(宮坂氏)。

卒業後に起業した者、あえて大企業を選んだ者、海外に渡った者と、進路は多様だが、自ら企画し実行した経験が確かな糧になっているという。

もう一つの柱が「TOKYO STARTUP GATEWAY」だ。
昨年は4,000人以上が応募し、その半数が高校生・大学生だった。
宮坂氏は「明らかに若い世代が、自分の夢を実現することが自分たちにできるんじゃないかと思い始めている人が増えている」と手応えを語る。

宮坂氏は TIB の位置づけについて「東京都のイノベーションベースではなく、東京にあるイノベーションベース。東京のために作ったんじゃない」と強調する。その上でネットワークの本質に踏み込む。

「ネットワークの価値はつながりの数ではなく、つながりの多様性だ。山口県の中だけで100人つながっているより、県内50人、東京20人、世界30人とつながっている100人の方がネットワークの多様性が多くて価値がある。控えめはもったいない。発信しないとつながりは生まれない。自分はこんな夢を持っている、こんな技術を持っていると言わなければ、相手に伝わりようがない。県民性があるかもしれないが、成長したいのであれば言うしかない」(宮坂氏)。

セッションの締めくくり、宮坂氏は起業家教育の本質について次のようなメッセージを送った。

「最大の教育効果があるのは、我々大人がアントレプレナーになることだ。何歳になろうが、自分の場所でアントレプレナーシップを発揮する。自分の親やおじいちゃんのような世代が腕まくりしながら、守りに入らず何か変えてやるんだとやれば、若い人もやろうかなとなる。上の世代がやらずに若い人に頑張れと言うと、心の中で"まずお父さんからやったらどうですか"となる」(宮坂氏)。

大人自身が挑戦者であること——それが次の世代を動かす最も強いメッセージだという指摘は、会場に深く響いた。

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