
AIエンジニア育成からフェムテックまで - 東京都女性ベンチャー成長促進事業「APT Women」第9期が成果報告会を開催

東京都が主催する女性起業家支援プログラム「APT Women」の第9期成果報告会が2月10日、都内で開催されました。当日は9期生のうち教育、フェムテック、終活など幅広い分野で新規ビジネスに挑戦する女性起業家5名が登壇し、資金調達や、シンガポールやニューヨークプログラムでの成果などが報告されました。
事業概要と都の取り組み

東京都が2017年からスタートした女性起業家支援プログラム「APT Women」(アプト ウィメン)は、これまでに280名の女性起業家を輩出してきた日本最大級の支援プログラムです。Acceleration Program in Tokyo for Womenの略称である本プログラムは、経営やスケールアップに必要な知識・スキルの提供と、同じ志を持つ起業家や支援者とのネットワーク構築を目的としています。
グローバルアントレプレナーシップモニターの最新レポートによると、2023年には10人に1人の女性が新しいビジネスを始めており、フランス、日本、トルコ、UAEなどでは過去20年間で女性の起業率が3倍以上に増加。各国政府が女性起業家への支援を強化する中、日本でもその動きが加速しています。
プログラムは5月からの育成講座に始まり、8月の選抜で40名が国内プログラムへ進みます。9月から12月の国内プログラムでは、人材マネジメント、マーケティング、経営戦略などの講義に加え、ロールモデルとなる女性起業家から経験談を学ぶ機会も提供。
その後、選抜された各10名がシンガポールとニューヨークでの海外プログラムに参加し、グローバルな視点とネットワークを獲得します。
小池百合子都知事は成果報告会で、「これまでのAPT Women卒業生の企業価値総額は645億円増加している」と述べ、女性起業家の経済的インパクトを示した。また、今年度の東京都予算編成の3つのキーワードとして「デジタル活用」「手取り時間を増やす」「Women in Action(女性活躍の輪)」を挙げ、「女性のエネルギーを活かさないのは勿体ない」と語りました。
特に注目すべきは、投資や融資の在り方への言及です。「融資の判断は性別ではなく、事業内容や経営力で評価されるべき」と小池知事は指摘。「男性か女性かではなくて、中身を見てもらえるような土壌を育てていこう」と受講生へエールを送った。
第9期では、AI・フェムテック・終活など、社会課題解決に挑戦する起業家が多く参加。教育格差や離婚率上昇などの課題に取り組む事業も目立ちます。運営事務局によると、育成講座には延べ2,000名を超える方が参加し、女性起業家の裾野が着実に広がっているとのことです。
第9期生による成果報告
成果報告会では、40名の第9期生を代表して5名の女性起業家が登壇。教育、終活、フェムテック、パートナーシップ、人材育成と、多岐にわたる分野での挑戦と成果が報告されました。
AIで英語教員の負担を軽減する「TypeGO」

元英語教員の青波美智氏(Swell代表)は、深刻化する教員の労働問題に着目したサービスを展開しています。英語教員の残業時間が月100時間を超える現状に対し、AIを活用した学習支援ツール「TypeGO」を開発。
生徒の単語学習からアウトプットまでをAIが個別にフィードバックすることで、教員は管理画面でのデータモニタリングに専念できます。「手書きの5〜10倍のスピードで成績が向上する」という効果も確認され、マーケティングコストをかけずに口コミだけで全国80校、1万人の利用者を獲得しています。
TypeGOの特徴は、単なるタイピングツールではなく、生徒の英語力を総合的に把握・分析できる点です。どの生徒がどこでつまずいているのか、単語を見て理解できるレベルなのか、実用的に使えるのか、さらにその単語を使ってどのような表現が生まれているのかを、全てデータで可視化。教員の働き方改革に貢献しながら、生徒の学習効果も高めることに成功しています。
想いを届けるエンディングサービス「tayorie」

tayori代表の直林実咲氏は、終活の新しいアプローチを提案しています。終活の認知度は90%に達し、70%が実施意向を示すものの、実際の実施率は8%にとどまる現状に着目。「頑張らせない」「自分事化」「ポジティブな導線」をキーワードに、LINEで使えるサービス「tayorie」を開発しました。
大切な人への想いや情報を生前に登録しておき、日々の元気確認を経てエンディング判定となった際に、tayorieに預けられているメッセージが、指定の相手に自動で送信される仕組みです。2023年11月のリリース以降、2,700人のユーザーを獲得し、フォーブスや日本経済新聞にも掲載。イーストベンチャーズからの出資も決定しています。
サービスの特徴は、「死後の準備=終活」 というネガティブな印象を払拭し、「大切な人に想いを届けるサービス」として設計されている点です。亡くなった後に届ける便りだけでなく、誕生日や記念日にリアルタイムで届く便り、子供が20歳になったときに届く便りなど、日時指定の機能も3月上旬に実装予定です。従来の終活サービスとは異なり、生前から家族とのコミュニケーションツールとしても活用できる点が特徴です。
経血から月経不調を検出する医療機器開発

asai代表の浅井しなの氏は、自身の月経不調の経験から、婦人科系疾患の早期発見に取り組んでいます。月経不調による経済損失は年間6000億円に上り、婦人科系疾患の発見まで平均8年かかる現状に対し、経血から健康状態をモニタリングできる検査キット「 reanne 」を開発中です。
シンガポールプログラムでは18件の商談を実施し、現地投資家からの資金調達にも成功。2月中旬からは東京都内の医療機関と連携した大規模臨床試験を開始する予定です。
「 reanne 」は妊娠検査薬のような簡便さで使用できる医療機器として開発されています。毎月の経血に触れさせることで反応が起こり、婦人科系疾患の可能性を検出。従来は我慢することが当たり前とされていた月経不調のサインを、客観的なデータとして可視化することで、早期受診・早期発見を促進します。東京大学との共同研究で開発を進めており、今後のグローバル展開も視野に入れています。
カップルの対話を促進する「ふたり会議」

すきだよ代表の熱田優香氏は、夫婦関係の悪化予防に焦点を当てています。子育て世帯の6割以上が夫婦関係の悪化を経験し、7割のカップルが話し合えていない話題があるという課題に対し、カップルテックアプリ「ふたり会議」を開発しました。
英語学習アプリのように継続的に利用できる設計で、現在5.5万人以上がLINE登録。ベンチャーキャピタルからの資金調達も実現し、日経クロストレンドの「未来の市場を創る100社」にも選出されています。
「ふたり会議」の特徴は、かわいいハリネズミのキャラクターが毎週質問を届け、パートナーとの相互理解を深める仕組みです。「パートナーの尊敬するところ」「最近できていないけど2人でやってみたいこと」といった質問に加え、連絡頻度、愛情表現の方法、収入管理、育休取得など、重要だけど話しづらいテーマについても、自然な形で話し合いのきっかけを提供。カップルの73%が「初めて真剣な話し合いができた」と回答しており、今後はカップル・夫婦の価値観データを活用した送客や広告ビジネスも展開予定です。
グローバル人材育成プログラムの展開

Avintonジャパン代表の中瀬幸子氏は、日本のIT人材不足の解決に取り組んでいます。創業15年の実績を活かし、オープンソース技術の実践的教育プログラム「Avintonアカデミー」を全国20校に展開。
ニューヨークプログラムでは、ニューヨーク工科大学アントレプレナーシップ&テクノロジーイノベーションセンターとの連携を実現。プログラムの監修や人材交流について合意し、グローバルな産学連携の推進を目指しています。
「Avintonアカデミー」は、世界で需要の高まるオープンソース技術に特化した実践的な教育プログラムです。当初は自社の社員教育用に開発されましたが、学生がITスクールを卒業しても業界で即戦力として活躍できないという課題に着目し、2023年から教育機関への展開を開始。岩手大学地域共創教育センターのAI教育招聘講師就任や、全国専門学校の理系転換推進委員への就任など、産学連携の実績を重ねています。今後はAIを活用したプログラムのスケール化と、次世代の起業家・経営者の育成にも注力していく方針です。
今後の展望

今期のAPT Womenの特徴として、運営事務局を務めたブランスクム文葉は「教育・防犯・環境といった社会的インパクトを重視した事業が多い」と指摘します。シンガポールプログラムでは現地のMums@Work との交流が実現し、ニューヨークプログラムではニューヨーク市経済開発公社との連携の協力を得るなど、グローバルネットワークの構築も着実に進んでいます。
小池都知事は、この国際的な展開を高く評価。「世界を市場として捉える視点を持ち、日本発のイノベーションを世界に広げてほしい」と、第9期生への期待を寄せています。
すでにAPT Women卒業生によるコミュニティは、強力なエコシステムとして機能しています。Facebook上のアルムナイコミュニティでは、協業や、ブランディング、PRのサポートなど、期を超えた連携が次々と生まれています。この相互支援の仕組みは、新たな起業家を支える基盤としても注目されています。
2017年の事業開始から約8年、APT Womenの卒業生たちは、テクノロジーを活用しながら、教育、医療、ライフスタイルなど様々な分野で社会課題の解決に挑戦し続けています。第9期生の活躍は、日本における女性起業家の新たなロールモデルとなり、次世代の起業家たちへの道標となることが期待されています。
APT Women 公式YouTubeサイトでアーカイブ配信中
本イベントの模様は、APT Women 公式YouTubeサイトでアーカイブ配信中です。
https://www.youtube.com/watch?v=FaUm5xtgegc