KOCCA×FuturePlay×ゼロワンブースター、デモデイを開催——日本市場に挑戦する韓国のコンテンツ系スタートアップ6社が日本語でピッチ
ゼロワンブースターは9月、韓国のアクセラレーターFuture Playと提携し、韓国コンテンツ振興院(KOCCA)主催の「KOCCA Launchpad Japan Program」の運営事業者として、6社のスタートアップの日本展開を支援することを発表した。
本プログラムでは、オンラインでのローカリゼーション支援やビジネスマッチングに加え、ビジネスイベントやデモデイの開催など、多岐にわたるサポートが行われた。本稿では10月31日に開催されたデモデイの模様をお伝えする。
このデモデイには、日本から投資家として、株式会社バンダイナムコエンターテインメント 021 Fundの岩崎覚史氏、株式会社フロンティアインターナショナルベンチャー投資室 室長の椎葉圭吾氏も参加し、日本での市場展開にあたっての参加した韓国スタートアップにアドバイスを提供した。
登壇したスタートアップ6社は次の通りだ。韓国の本社、および、日本市場展開を視野に入れた現地担当者らにより、ピッチは日本語で行われた。ピッチ終了後には、このプログラムのプロジェクトマネージャーを務めるFuturePlayのDongjoon Kang氏に話を聞くことができた。
bemyfriends
bemyfriendsは、グローバルファンプラットフォーム「Weverse」の開発経験を持つメンバーが立ち上げたスタートアップだ。グローバルファンダムのためのプラットフォーム「b.stage」を提供している。
従来のSNSではファンの属性データや購買データを十分に把握できないという課題に着目し、アーティスト/IPが自身のファンを深く理解し、効果的なビジネス展開を行えるプラットフォームを開発した。
サービス開始から3年で月間アクティブユーザー数は300万人を超え、200以上のチームが利用している。K-POPアーティストだけでなく、ミュージカル、eスポーツチーム、俳優など、さまざまな分野の有名人やブランドに採用が広がっている。日本でも、2024年10月に俳優の中川大志がオフィシャルファンクラブとして、NMB48がグローバルファンダムの拡大を促進するために活用を開始している。
プラットフォーム上では、コンテンツ配信やライブ配信、双方向コミュニケーション、アンケート機能などを提供。これらの機能を通じて収集したファンの行動データを分析し、効果的なマネタイズにつなげることができる。グッズ販売、デジタルコンテンツ配信、チケット販売なども一元的に管理可能だ。
A.pla
A.plaは、スマートフォンのカメラひとつで高精度な3Dモーションキャプチャーを実現するAI技術を持つスタートアップ。従来のVTuber配信では、高性能PCや専用機材が必要だったが、同社の技術により、スマートフォンだけで指の動きまで含めた精密なモーションキャプチャーが可能となった。
NAVER、LINE、サンドボックスなど大手企業との提携を進めており、韓国では100万フォロワー以上のVTuberが同社のソリューションを採用している。また、既にVTuberとの広告事業を行なっており成果を出している。
基盤技術としては、AIによるリアルタイムモーションキャプチャーに加え、ヒューマノイドロボットの制御やゲームのNPC動作生成にも応用可能なモーションデータセットを保有。VTuber向けサービスを入り口としながら、将来的にはロボット開発企業へのデータ提供など、技術応用の幅を広げていく方針だ。
AuroraFive
AuroraFiveは、グローバルファンが韓国の有名人に気軽にギフトを贈れるプラットフォーム「Shook」を提供するスタートアップ。海外からのファン心理を贈る際の高額な国際配送料や、確実な配送の確認が難しいという課題を解決。韓国国内のギフトメーカーと提携し、国際配送料なしでギフトを届けられる仕組みを構築した。
サービス開始から約2年で、38カ国、60万人以上のユーザーを獲得。ギフト取引件数は4万2000件を超え、中には300万円規模の取引も発生している。最低価格は5000円程度からで、ファンからの贈り物に対して有名人が直接リアクションを返すことで、継続的な利用を促している。
収益モデルは、ギフト価格の5%の利用手数料と、ギフトメーカーからの18%のコミッション。当初は韓国の俳優向けサービスとしてスタートしたが、現在は歌手、スポーツ選手、クリエイター、漫画家など、さまざまな分野の有名人が参加している。今後は日本やアメリカなど、他国の有名人も参加できるようプラットフォームを拡大していく計画だ。
Berapt
ウェブトゥーン作家とイラストレーター向けのファンダムビジネスに特化したサブスクリプション型コミュニティサービス「Shoulder」を展開するBeraptは、K-POPのファンダムビジネスの成功モデルをウェブトゥーン市場に応用することを目指している。
同社のサービスは、作家とファンの双方向コミュニケーションを可能にし、コミュニケーションそのものがコンテンツとなり、作家に安定した収益を生み出す。 デジタルポイントを活用したファン向けコンテンツ販売システムが特徴で、追加収益を生み出す。韓国での実績として、サービス開始から1年半で12万ユーザーを獲得し、4億ウォンの決済額を達成。月間1500万ウォン以上の収益を上げる作家も輩出している。
また、新人作家の発掘・育成にも注力しており、オーディションプロジェクトを通じて新たな才能の発掘を行っている。現在は日本市場への展開も視野に入れており、日本のウェブコミック市場を新たな成長機会と位置付けている。
PLINGCAST
女性向けオーディオコンテンツプラットフォーム「PLING」を運営するPLINGCASTは、成人向けコンテンツ市場における女性向けコンテンツの不足という課題に着目したサービスを展開している。同社は女性の想像力や好みに合わせたストーリー性のあるオーディオコンテンツを制作・配信している。
韓国では51万人の女性会員を獲得し、アプリストアで注目を集めている。コンテンツ制作においては、専門チームによる企画から制作、分析までの一貫したシステムを構築。665作品という業界最大規模のオリジナルコンテンツを保有し、多数の声優やクリエイターと協業している。
同社のビジネスモデルは定額制ではなく、ポイントチャージ制を採用。ユーザーは好きなコンテンツを個別に購入できる。韓国でのサービス成功を基に、2023年12月に日本市場に進出。K-カルチャーに興味を持つ女性をターゲットに、韓国語音声コンテンツに日本語字幕を付けて提供している。今後は日本語音声コンテンツの制作も予定している。
VCAT.AI
韓国発のAIマーケティングソリューション「VCAT.AI」は、製品のURLを入力するだけで広告用の動画や画像を自動生成できるサービスを展開している。2019年設立で、シリーズBまで総額約20億円の資金調達を実施。2024年7月に日本法人を設立し、楽天やニッセンなどのEコマース企業との連携を進めている。
同社の特徴は、製品詳細ページのURLから画像やテキストを分析し、ブランドガイドラインに準拠した広告クリエイティブを自動生成する点にある。約2,000種類のテンプレートを用意しており、企業の要望に応じてカスタマイズも可能だ。韓国では、ネイバー、ロッテ、Eコマース最大手のクーパンなどが導入。特にロッテは同社のシステムをデザインシステムに組み込み、全世界500店舗の広告素材を自動生成している。
日本市場では大手企業向けのエンタープライズプランを主軸に展開。佐川急便などと提携し、リテール企業向けにサービスを展開する戦略を取る。2024年10月時点でMRR1,000万円を突破し、11月にはARR2,000万円を達成。2025年第1-2四半期には5,000万円規模の売上を見込んでいる。
韓国発スタートアップに日本進出支援、
プログラムPMのDongjoon Kang氏に話を聞く
韓国コンテンツ振興院(KOCCA)とFuturePlayは、韓国の有望なスタートアップの国際展開を積極的に支援している。2024年は日本、シンガポール、フランス、UAE、アメリカ、インドネシアの6カ国でプログラムを展開。各国の特性に合わせた支援を提供している。
FuturePlayのプロジェクトマネージャーDongjoon Kang氏は、プログラムの意義について次のように語った。
「まず、現地企業や投資家とつながる機会を得られることが、チームにとって非常に重要です。次に、現地のVCや投資家からの投資検討機会を得られることも大きな利点です。ゼロワンブースターのような現地アクセラレーターに評価を支援してもらっています。」(Kang氏)
冒頭に挙げた支援対象国は、経済力、文化的な親和性、技術的な適合性に基づいて、KOCCAが選んでいるそうだ。KOCCAは、K-POPをはじめとする韓国コンテンツの普及を世界に展開するために支援する韓国政府の機関だ。
「経済面以上にコンテンツ面での関係性を重視しています。例えばインドネシアは経済規模では他の国々に及ばないかもしれませんが、韓国のコンテンツやK-POPへの関心が非常に高く、それが選定の大きな理由となっています。」(Kang氏)
日本でのプログラムについては、参加した6社それぞれが日本市場への進出や日本のファンへのアプローチを目指している。ビジネス展開において、資金調達も重要だが、最も現実的なKPIは事業提携やPOC(実証実験)の実施だという。
「ゼロワンブースターを通じて、各チームは10社以上の日本企業との面談機会を得ています。政府機関との面談も含めると、1週間でさらに多くの企業とつながることができました。」(Kang氏)
このプログラムは5年以上の歴史があり、対象地域は年々変化している。日本はアメリカと並んで最も長い歴史を持つ重要な市場として位置づけられているそうだ。
「日本には漫画やアニメなどの強力なレガシーコンテンツがありますが、これらのコンテンツ企業は今、最新技術の導入という課題に直面しています。モーションキャプチャーなどの最先端技術の活用が必要とされており、その解決策として韓国のスタートアップとの協業に大きな可能性があると考えています。」(Kang氏)
韓国のスタートアップにとって、本プログラムは単なる投資機会の獲得以上の意味を持つ。現地企業とのビジネスマッチング、市場展開の足がかり、そして長期的なパートナーシップの構築など、多面的な価値を提供している。
「特に今年の日本プログラムは非常に充実した内容となりました。ゼロワンブースターとKOCCA、そしてFuturePlayの3者で良いパートナーシップを築くことができました。私は、韓国のスタートアップが持つ優れた技術力に、より多くの日本企業が注目してくれることを願っています。
日本の伝統的なコンテンツ企業と韓国の技術系スタートアップが協業することで、新しい価値が生まれると確信しています。この日韓協業の取り組みが、両国のコンテンツ産業の発展につながることを期待しています。」(Kang氏)