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北陸発、地域インフラ×スタートアップの共創が加速、NGAS-Accelerator Program 2025で6社が成果発表

日本海ガス絆ホールディングス株式会社は3月17日、富山市の市民プラザにて「NGAS-Accelerator Program 2025」の成果発表会(DemoDay)を開催した。
同プログラムは、グループ会社の日本海ラボとゼロワンブースターが共同運営するオープンイノベーションプログラムで、ウェルビーイング、脱炭素、省エネ、不動産活用等をテーマに掲げる。3期目となる今回は、採択されたスタートアップ6社と同社グループのカタリスト(社内伴走メンバー)が約6カ月間にわたる共創活動の成果を披露した。

今期の特徴として、新田洋太朗社長は2つのアップデートを挙げる。

一つはカタリストの社内公募制への移行だ。「自分の手で新しい価値を生み出し、お客様や地域の役に立ちたいという思いを持ったメンバーたちがこのプログラムを前に進めてくれた」(新田氏)。
もう一つは戦略起点のテーマ設定で、経営陣との議論を通じてエネルギー・暮らし・地域課題解決の重点領域を明確化した上で募集・選考を行った。

廃棄物処理、設備保全 DX、外国人材定着支援、スマートホーム、不動産、施設管理。テーマは幅広い。6社の発表を順に追う。

JOYCLE、ごみを運ばず、燃やさず、資源化する
分散型インフラ

JOYCLE チームの発表は、カタリストの金谷氏と伊藤氏による地域のごみ処理実態調査の報告から始まった。
医療機関の感染性廃棄物に着目し、JOYCLE BOX の導入を前提に試算したところ、処理コストを約3割削減できる可能性が見えてきたという。
さらに、ガス管の主流素材であるポリエチレンの廃材を加熱エネルギー源として活用できないか、災害時にガスによる分散型電源と組み合わせて被災地のごみ問題を解決できないかといった検証も行った。

Image Credit: JOYCLE

JOYCLE の小柳氏は、焼却炉の老朽化とドライバー不足という全国的な課題を指摘する。

「運んで燃やすサプライチェーン自体が限界に来ている。オンサイトで資源循環ができるインフラがあればコストも CO2も削減でき、ドライバーの負担も減らせる」(小柳氏)。

同社が開発する JOYCLE BOX は、電気で稼働する小型のごみ資源化装置だ。
液体・金属以外の燃えるごみ全般を10分の1に減容し、滅菌・炭化して資源化する。
IoT センサーを介したクラウドシステム「JOYCLE BOARD」(特許出願済)で環境・経済・安全のパフォーマンスを可視化できる点が特徴で、電気駆動のためデータによる自動制御が可能だ。

共創期間中には、富山市廃棄物対策課とのコミュニケーションを開始し、市内の産廃業者2社とコンタクト。
うち1社から強い関心を得た。また富山市内の病院で2,000万円以上の産廃処理コストが発生していることを確認し、数百万から1,000万円近いコスト削減の可能性を見出した。
並行して北海道石狩市や北九州市でのおむつ処理実証にも成功しており、北陸エリアでも十分通用するインフラであることが他地域で証明されている。

病院の感染性廃棄物はキロあたり100円台から300円と処理単価が高く、赤字経営の病院が多い中、コスト削減のインパクトは大きい。

小柳氏が見据えるのは、日本海ガスの既存メンテナンスのサプライチェーンに乗せたレンタルサービスだ。

「北陸から世界に発信できる新しいインフラを一緒に作っていきたい」(小柳氏)。

国内では9機の購入意向を得ており、量産体制を整えた上でタイ、フィリピン、ベトナム、中東などへの海外展開も視野に入れている。

M2X、地域密着型の DX 伴走支援で
製造現場を変える

M2X チームは、日本海ガスの山崎氏が「地域の DX、私たちが一緒に変えていく」というテーマを掲げて登壇した。世の中は DX から AI へと加速する一方、企業の現場ではベテラン技術者の技術継承と属人化、導入・定着の課題、現場に寄り添うパートナーの不足という3つの壁がある。「だからこそ今必要なのは、地域に密着した伴走支援だ」と山崎氏は語る。

Image Credit: M2X

M2X の岡部晋太郎氏は、東京大学卒業後に総務省で IT 政策を担当し、ボストン・コンサルティング・グループを経て2022年に起業。現在4期目を迎えている。
同社が手がけるのは、工場の設備保全に特化したクラウドサービスだ。点検計画から実行、故障対応、予備品の在庫管理、設備台帳まで、紙とエクセルに散らばっていた業務をひとつのアプリケーションにまとめた。

北陸は製造業が集積する一方、DX を担う人材はまだ足りていない。日本海ガスの地域ネットワークと M2X の製品を掛け合わせれば、この課題に応えられるのではないかと考え、半年間で3つの取り組みを実施した。

まず Web セミナーを開催し、136名の申し込みと95%の満足度を獲得。
37件の個別相談希望も集まった。次に新新薬品工業での PoC(実証実験)では、設備保全担当者3名に M2X を1カ月間導入。スマートフォンでの現場撮影・即時記録とチーム内のリアルタイム情報共有により、対応スピードが大幅に上がった。
さらにグループ会社サプラの空調機器メンテナンス業務でも有効性を検証し、保守サービスに DX を掛け合わせる新たな事業の芽が見えてきた。

活動を通じて予想外のニーズも掘り起こせた。
製薬業界からの引き合いが特に強く、GMP(製造管理基準)への対応要請が急務であることが判明。
岡部氏は「来月以降、GMP 対応の新製品をローンチするところまでつなげることができた」と成果を語る。

ビジネスモデルは代理店スキームを採用するが、単なる販売代理ではない。
M2X がプロダクトと技術を提供し、日本海ガスが導入と伴走支援を担う。山崎氏は自社の DX 実践経験を強みに挙げる。

「kintone を使って販売管理システムを自社構築し、全国大会にも出場した。成功体験だけでなく失敗経験もたくさんしているからこそ、顧客目線での提案ができる」(山崎氏)。

岡部氏は「まだ存在を知らないお客様が多い中、日本海ガスの地域ネットワークを通じて最初の一歩を踏み出せたことは非常に大きかった」と手応えを語る。

KUROFUNE、外国人材の
「定着」にコミットする新モデル

KUROFUNE チームは、富山県が有効求人倍率で全国上位にありながら外国人材の活用が17位にとどまるというギャップに着目した。
日本海ガス絆ホールディングスのネットワークを活かし、行政や地域企業28社へのヒアリングを実施。
外国人採用のニーズは高いものの、支援機関の選定が難しく、高い人材紹介手数料がネックになっていること、採用後の定着支援が企業の大きな負担になっていることが見えてきた。

KUROFUNE の倉片稜氏は、業界構造そのものに問題があると指摘する。
特定技能ビザは2019年に創設された比較的新しい就労ビザで、現在16分野(2027年から19分野に拡大予定)で受け入れ可能だ。1日あたり約380人が増加し、2029年3月までに80.5万人の受け入れが見込まれている。
しかし技能実習制度と異なり転職が自由なため、3年の満了後に東京や大阪など条件の良い地域へ人材が流出してしまう。

Image Credit: KUROFUNE

「一番儲かっているのは中間支援業者。人材紹介で収益を得る構造では、人を辞めさせて新しい人を紹介した方が儲かる。定着させるインセンティブがなかった」(倉片氏)。

この構造を変えるために開発されたのが「KUROFUNE PASSPORT」だ。

同アプリは、特定技能の法定支援業務をデジタル化するとともに、多言語チャット機能で日常の困りごとを相談できる仕組みや、病院・銀行への同行依頼機能を備える。
企業の管理画面ではすべての支援状況が可視化され、人事担当者や経営者の負担を軽減する。
料金設計も振り切っており、人材紹介手数料は0円。定着支援の月額利用料で収益を上げる構造とした。

倉片氏によると、転職理由の上位は「労働条件・給与」「友達がいない」「余暇の少なさ」の順だという。
友人やコミュニティができれば、そう簡単には土地を離れない。そこに定着支援の勝ち筋がある。

共創の具体的成果として、ビジネスマッチング契約を締結し、すでに特定技能人材2名の紹介機会を創出。
日本海ガスが運営するインキュベーションオフィス HATCH でのイベント登壇など PR 機会も生まれた。
倉片氏は「5年後10年後、富山県って人手不足だったっけと言えるような事例をこの地域に作っていきたい」と意気込みを語った。

 

mui Lab、スマートホームで
「もっとつながる」北陸の暮らし

mui Lab チームは「もっとつながる!北陸未来のくらし計画」と題し、ガスのイメージである「温かみ」を軸にスマートホームを通じた地域密着型サービスの構築を目指した。

日本海ガスにとって悩みの種は、対面による作業機会が年々減り、特に子育て世帯や中間層との接点が十分に確保できていないことだ。
ライフスタイルの多様化に伴い、顧客の困りごとも変化している。
これらに対応するため、京都発のスマートホームスタートアップ mui Lab との協業に至った。

mui Lab の小田氏は、「人と自然とテクノロジーが穏やかに調和した心ゆたかなくらし」をミッションに掲げる同社の事業を紹介。
代表製品の「muiボード」は天然木のスマートホームコントローラーで、家の中の家電やエネルギーをコントロールできる。「左側の近未来 SF 的なスマートホームではなく、馴染みのある家具に囲まれた空間に最新テクノロジーをうまく調和して入れていく」(小田氏)のが mui Lab らしさだ。
静岡ガスや北海道ガスとも資本業務提携を結んでおり、エネルギー事業者との協業実績を持つ。

Image Credit: mui Lab

アクセラ期間では2つの検証を行った。
1つ目は北陸地域におけるスマートホームの認知度・受容性調査で、ガス展でのヒアリングとグループ社員約600名へのアンケートを実施。
スマートホームという言葉自体は多くの人が知っているものの、実際に導入している家庭は少なく、「導入した生活のイメージがつかみづらい」「設定が難しそう」の2点がハードルになっていることが判明した。

2つ目は、カタリスト4名の自宅にスマートスピーカー、スマートロック、赤外線センサーを導入する実証だ。
結果は全員が「手放せない」と回答。
帰宅前にエアコンを遠隔操作する快適さや、スマートロックで鍵を出さずに施錠・解錠できる利便性が、生活に自然に溶け込んだという。

富山ならではの発見もあった。
都市部では子どもの見守りが中心になるスマートホームだが、富山ではクマの出没対策として屋外カメラのセキュリティニーズが強いという。
小田氏は「ガス点検で顧客の自宅に自然に上がれる業態はガス会社くらい。その接点を活かしてネットワーク設定やデバイス導入までサポートできれば、サービスの幅はさらに広がる」と今後の可能性を語った。

住宅テックラボ、不動産ビッグデータで
北陸の「住まい」の価値を上げる

住宅テックラボの梶宏輔氏は「北陸地域の住まいの価値向上を目指す」というテーマのもと、日本海ガスの不動産事業参入の可能性を探った6カ月間の成果を報告した。

チームメンバーの自己紹介では、宅建士資格を取得した古川氏や、農業用地の売却に苦労しているという大野氏のエピソードが会場の笑いを誘い、不動産に関わりを持つ4人ならではのチーム構成が印象的だった。

住宅テックラボは創業4期目。北海道から沖縄までの不動産ビッグデータを基盤に、金融機関向け AI 担保査定ツールと不動産会社向け SaaS を展開する。
家主名簿の提供(オーナーサーチ)、賃料・売買査定(ちんさてくん・家売くん)、営業代行まで川上から川下までワンストップで提供している会社は他にないという。

Image Credit: 住宅テックラボ

共創期間では2つの活動を展開した。
1つ目は、日本海ガスと取引のある不動産会社16社へのニーズ調査。
困りごとをヒアリングし、住宅テックラボのツールで解決する道筋を探った。
2つ目は、日本海ガスが所有する不動産物件を適正価格で売却できるかの検証だ。
自社がオーナーの立場でサービスを活用することで、不動産の知見と新たなビジネスモデルのヒントを得ることを狙った。

具体的な成果として、地場の不動産会社・光陽興産との3社セミナーが来月の開催で決定。
住宅テックラボが2,160件の家主リストを提供済みで、空室対策セミナーとガスの優位性提案を組み合わせた企画を進めている。
第2社、第3社の候補先もすでにリストアップされており、横展開の可能性は高い。

梶氏は「本来はこの6カ月で具体的に物件を売買するところまで行きたかったが、不動産事業は奥が深い。ただ、日本海ガスがすでに物件を保有していること自体が大きな気づきだった。これはすぐキャッシュになる」と率直に語った。
今後はまずオーナー業への参入を検討し、買取再販、さらに地場の不動産会社と組んだ売買仲介へと広げていく構想だ。

空室対策の定石は、条件交渉(賃料・敷金礼金の見直し)と設備・リフォームの2つ。
梶氏は「日本海ガスは内装工事もできるので相性がいい」と話す。ガス工事で内装にも手が届くインフラ企業ならではの座組だ。

COSOJI、施設管理の「アマゾン」が
北陸で実証を重ねる

6社目の COSOJI チームが掲げたテーマは、「地域インフラと現場の困ったをつなぐ新しい施設管理モデル」。

COSOJI の宮川氏は、施設管理業界が抱える3つの課題、アナログな業務、多重下請け構造、属人化を指摘。

「1万円の作業が3万円になり、報告書は来ない、完了まで1カ月かかる。これが業界の当たり前になっている」(宮川氏)。

同社はこの構造をテクノロジーで変える「施設管理のアマゾン」を目指す。
全国3万5,000人の作業クルーを抱え、ほうき1本の清掃から始まった事業は現在、全国約10万施設の管理にまで拡大している。

2020年創業ながら全国8拠点に展開し、社内にエンジニアチームも擁する。
作業品質のチェック、文字校正、検針データの読み取りには AI を実装しており、作業者の手間を軽減している。

トライアルの実証概要を報告した日本海ガスの石原氏によると、2025年12月から2026年3月の4カ月間、富山県内の不動産管理会社5社が参加。
有料での実施とし、実際のニーズを正確に把握することを重視した。
管理会社が COSOJI のプラットフォーム上で業務を発注し、日本海ガスグループのスタッフが受注・作業・完了報告までをシステム上で完結させる仕組みを検証した。

結果、合計36件の作業を実施。
内訳は入居前点検11件、共用部の定期巡回点検17件、落葉清掃など軽清掃6件、修繕対応2件。
修繕対応の2件は、巡回点検で発見した不具合を管理会社に報告し、見積もりから修繕完了まで一気通貫で対応したものだ。

参加した管理会社からは「操作が直感的で業務委託の流れがイメージしやすかった」「巡回・点検の結果が即日データとして報告されるため確認や振り返りがしやすかった」「不具合発生時に一気通貫で日本海ガスにお願いできるようになるとさらに助かる」といった声が寄せられた。

Image Credit: COSOJI

大手管理会社向けのサービスは進んでいるが、従業員10人以下の小規模事業者は手薄になりがちだ。
日本海ガスの地域ネットワークを活かせば、まさにそこに入り込める。

北陸から新しい事業の種を

各チームの発表を終え、新田社長は6社それぞれに具体的なコメントを返した上で「すぐにサービス化できるものもあれば、もう少し構築が必要なものもある。しかし今回の半年間の共創活動を決して無駄にすることなく、新しい事業、新しい領域にまだまだチャレンジしていきたい」と締めくくった。

平田純一副社長は、2020年の日本海ラボ設立からインキュベーションオフィス HATCH の開設、そしてアクセラレータープログラム3期にわたる道のりを振り返り、こう語った。

「これまで本当にたくさんのスタートアップの皆様と関わらせていただき、弊社社員もメンターとして関わらせていただいて、共に成長できたと思っている。本当に感謝申し上げる」(平田氏)。

平田氏はさらに、今回の成果発表会が一過性のイベントではないことにも触れた。

「これが終わりではなく、皆様のパートナー企業として、実証実験の継続や事業化に向けた支援を続けていきたい。今回の出会いから、地域課題の解決に向けた強固なネットワークが築けた」(平田氏)。

3期を重ねたプログラムは、「まずやってみよう」の段階を過ぎ、契約締結や具体的なサービス設計にまで踏み込むフェーズに入った。北陸のエネルギー企業とスタートアップが互いの持ち場で汗をかく。
その積み重ねが、地方発の共創モデルとして形になりつつある。

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