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マッチングで終わらせない。和歌山で始まる宇宙産業参入の実践― Kii Space HUB 令和7年度事業報告会レポート ―

和歌山県が推進する「Kii Space HUB」の令和7年度事業報告会が開催された。

本取り組みは、スペースポート紀伊を核に、地域企業の宇宙産業参入を促すだけでなく、その先の事業化までを見据えて設計されている点に特徴がある。

今年度はセミナーやワークショップを通じて、参加企業が自社技術と宇宙市場の接点を探り、仮説検証を重ねながら具体的なアクションへと踏み出した。

本記事では、事業報告会で共有されたポイントと、和歌山で生まれつつある「宇宙産業参入の実践モデル」をレポートする。

宇宙を核に、地域から産業が立ち上がる

「Kii Space HUB」は、和歌山県が主導し、株式会社ゼロワンブースターおよび一般社団法人SPACETIDEが連携して運営する取り組みである。スペースポート紀伊という地域資源を起点に、宇宙産業の裾野拡大と地域企業の宇宙産業参入を目指し、令和7年度よりスタートした。

本年度は、キックオフイベント、テーマ別セミナー、アクションワークショップと段階的にプログラムを設計し、延べ約840名が参加。単なる知識提供にとどまらず、「実際に事業をつくる」ことに踏み込んだ点が大きな特徴となっている。

特にワークショップでは、製造業やIT企業、支援機関など多様なプレイヤーが参画し、講座でのインプットに限らず、展示会への参加や宇宙企業への直接的なアプローチ、メンタリングなどを通じて、自ら仮説を立てて検証するプロセスが実践された。

宇宙産業はもはや遠い世界ではなく、地域企業が主体的に関わる現実のビジネスとして動き始めている。

宇宙ビジネスは「グローバル前提の実業」へ

― SPACETIDE 佐藤氏講演サマリー

事業報告会では、SPACETIDEの佐藤氏より、地方発宇宙ビジネスの潮流について講演が行われた。

ポイントは大きく3点に集約される。

① 宇宙産業は急成長フェーズから「競争・実装フェーズ」へ
この10年で宇宙スタートアップ数は約10倍に拡大し、民間による投資総額は数百億円規模、政府の宇宙予算も約1兆円へと増加。
一方で現在は、期待先行のフェーズから「成果が求められる実業の時代」へ移行している。

② 地方からの参入は可能、ただし“グローバル視点”が不可欠
宇宙ビジネスは本質的にグローバル市場。
地方発であっても、
・国際動向の理解
・サプライチェーンへの接続
が重要となる。

③ 成功の鍵は「官民連携 × 民間の主体性」
北海道・福島・茨城などの事例からも、
・自治体の強いコミット
・民間企業の主体的な動き
の両輪が産業形成を加速させている。

和歌山においても、スペースポート紀伊という強みを起点に、同様の構造が生まれつつある。

各社の挑戦:宇宙産業は
“延長線上の挑戦”から始まる

今回のワークショップ参加企業の取り組みから見えてきたのは、宇宙産業が特別なものではなく、「自社の強みの延長線上」にあるという点である。

例えば、太洋テクノレックスはフレキシブルプリント基板の技術を活かし、衛星内部配線の高度化に挑戦。小ロット・短納期対応という自社の強みが宇宙開発と高い親和性を持つことを見出し、ニーズの具体化を進めている。

シマファインプレスは、精密加工技術を武器に展示会やネットワーキング機会へ積極的に足を運び、実際の宇宙機関連試作部品の受注に至るなど、サプライチェーンへの参入を現実のものとし始めている。

阪和電子工業は静電気計測技術を応用し、宇宙機器の信頼性という新たな課題領域への展開を模索している。

また、ODECは金属3D造形技術により、従来工法では難しい複雑構造部品の製造を実現し、ロケットや衛星関連部品での実績を積み上げている。

さらに、狩野氏による取り組みでは、配送管理システムと衛星データを組み合わせた物流サービスを検討。災害対応というテーマから出発しつつも、ユーザーヒアリングを通じて課題を再定義し、平時の物流価値と組み合わせた形での事業化へと方向転換を図っている。

シティコンピュータは、AIとBPOの知見を活かし、衛星データを現場で使える形に変換する領域に着目。技術と運用の間をつなぐ存在として、スペースシフト社との連携により、農業・行政・GX 分野でのサービス化の共同検討を進めるなど、新たな役割を担おうとしている。

これらに共通しているのは、「宇宙ありき」ではなく、自社の技術や強みを起点に宇宙市場との接点を見出している点である。

「マッチングではなく、仮説検証」
から生まれる事業

本取り組みで特筆すべきは、単なるマッチングやイベントにとどまらない点にある。

参加企業は、自社技術の再定義から始まり、市場仮説の構築、宇宙プレイヤーとの対話、展示会や訪問を通じた顧客探索、さらには試作や実証といった一連のプロセスを自ら回している。

その過程では、仮説が否定されることも少なくない。しかし、その結果を踏まえて方向性を見直し、次の打ち手を考える。このサイクルこそが、事業化に向けた実践そのものである。

こうしたプロセスを自ら回し、主体的に事業を前進させている。これは、従来の「受け身の支援施策」とは一線を画す。

和歌山から、宇宙産業のエコシステムへ

令和7年度を通じて見えてきたのは、宇宙産業が“特定企業のもの”ではなく、

  • 地域企業
  • スタートアップ
  • 支援機関
  • 行政
  • 教育機関

が一体となって形成されるエコシステム型産業であるということだ。

スペースポート紀伊という物理的拠点に加え、人材・技術・ネットワークが結びつき始めた今、和歌山は「宇宙産業が生まれる地域」として確実に歩みを進めている。

次年度以降、この流れがどこまで加速するか。その挑戦は、すでに始まっている。

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