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人間の関係性は、料理と密接に関係している

「料理は誰もが使える魔法である」クックパッド住氏が語る、食に秘められた力 1/2記事


プロフィール

【ゲスト】住 朋享
クックパッド株式会社 国内事業開発部
クックパッド株式会社 国内事業開発部。人々の様々な食の課題を新しいテクノロジや新規事業によって解決し「誰もが料理を楽しんで幸せになる未来」を創出するため、クックパッドアクセラレータの立上げ、社内新規事業推進などオープンイノベーション推進を行っている。 前職のニフティではスマートフォンアプリのプロデュース、2014年にIoT/ヘルスケアをテーマにシリコンバレー駐在などを経て、2015年クックパッドに入社。 その他、東京都が運営するインキュベーションスペースASAC及び日本土地建物が運営するSENQにてベンチャーメンタリングを担当。ASAC第三期ベストコミットメントメンター賞受賞。
※プロフィールは初回掲載時(2017/10/25)のもの

目次

  1. 食と料理、人間の関係性は密接している
  2. 人間の食生活を変えることで、多くの人を救える
  3. 自分のこだわりを実現してくれるスマートキッチン
  4. AIや IoTは、人の創造性を拡張する
  5. ビジョンの実現は、単独ではできない

食と料理、人間の関係性は密接している

——それは面白いですね。いつ頃開催されたのですか。

住さん:今年の6月です。人間の関係性は、実は料理とすごく関係していると思っています。昔は、そんなに食べ物も豊富じゃない時代に、ちょっと醤油を借りに行くとか、お米を借りに行くとか当たり前だったんですよね。しかもコンビニもあまり発達していなかったので、足りなくなったからといってすぐに買いに行けないわけです。

でも、今はコンビニでも買えるし、誰かにモノを借りるくらいなら買ったほうがいい。いつでもどこでも買える状況になっている。料理や食にまつわる環境が、個人主義で成り立つようになると、みんな人間関係が遠くなっていくんですよね。

——確かに言われてみると、ご近所さんとの付き合いが減ってきたのと、食の便利や個人主義の増加は、タイミングとして連動しているように見えますね。不便があった時代のほうが、お互い助け合うので、コミュニケーションが生まれてコミュニティも育まれやすい。

住さん:そうそう、連動しているんですよ。食と料理の環境と人間のコミュニティ、コミュニケーションは、すごく密接な関係があります。昔のような近所付き合いであったり、コミュニティが形成されるように変えるためには、食はすごく重要です。

どのような形かはわからないですけど、自分の「個」だけで食べる生活より、周りの人が作ったものを食べたり、振る舞ったりするほうが、得意な料理が発見できたりして、色んな人の美味しい料理も食べられるため豊かな生活になる。その価値観が育まれていけば、人のコミュニケーションも変わるはずです。

——先ほど、現在は簡単や時短のレシピ提供がメインの価値になっているというお話がありましたが、本来は料理の本質的な価値を届けて浸透させていきたい。食は人間関係に大きな影響を与えるもので、コミュニティ形成に重要な役割を担っている。

一方、日本国内で一番食のファンを集めている存在がクックパッドさんです。ということは、それが出来る一番大きな存在。食の本質的な価値を伝え、人々の食を変える=人間関係を変える=社会を変える、とイコールで繋がり、クックパッドアクセラレータのキャッチである「地球をつくる」という壮大な可能性を秘めていますね。

住さん:まさにその通りです。料理の力で日本の人々がもっと幸せになっていき、その範囲がもっともっと広がっていったら、世界の人々の生活も、僕らは変えることができると思っています。

例えば、発展途上国は農業も結構未発達で、ポケットにあるお金の分だけ作物を植えるとか肥料をまく、ということをおこなっていて取高がすごく低いんですよ。

農業のやり方から、流通から、食べる体験まで変えていくと国が変わります。従って、世界を変えられるポテンシャルを持っているものは、料理とか食にまつわることだと思っています。

人間の食生活を変えることで、多くの人を救える

——食べ物は、そもそも体を組成するためのものなので、そういったところも含めて、全て変えられる可能性がありますね

住さん:ですよね、ほんとそう思います。以前創業者の佐野が言っていましたが、戦争を無くすよりも、人間の食生活を変えるほうが救われる人間は多いという話をしていたんですよね。

戦争で亡くなる方は多いですけど、それよりもはるかに多くの方が食生活の関係で、病気になって亡くなる方が多いんですよね。なので、戦争を失くしましょうってことをする以上に、人間の食生活を豊かに変える、正しい方向に変えることが、より一層多くの人間を救えるわけなんですよ。

——同感です。私の義父が医者で、食と脳・身体の研究を40年しているんですけど、食が人に与える影響の大きさを検証結果から日々感じています。

住さん:影響大きいですよね。大きいですけど、その「正しい食生活しましょう」というのは実は結構難しいです。知識も必要ですし、色々選べないといけないし、考えないといけないことがすごく多いんです。

冷蔵庫の中に何があるとか、自分の健康状態、自分の家族の好みってなんだろう、近くで売っているものはなんだろうとか、たくさん考えないといけないことがあって。

人は、そういったたくさんの要素を組み合わせてレシピを選びます。それらを考えるのがすごく大変なので、いつも作っているものを、人は食べる。食べてしまうんですよね。

——確かにメニューが限られてきますね。

住さん:そうなんですよ。あと今のクックパッド、ある程度こだわって探そうと思うと結構レシピを探すのが大変なんですよ、20~30分とか掛かっちゃって。

——これだけたくさんの方に使っていただき、今まで仮説検証を繰り返してきたけど、まだまだ最適な手段になっていない、と。

住さん:全然なっていないと思います。それがもっと短い時間で自分に合っているものが見つけられるようになっていくと、もっと健康的なものをつくってみよう、もっと美味しいものを作ってみようなど、チャレンジしやすくなるので、そこの体験は絶対必要だと思っています。

それが価値観ごとに違うはずで、健康になりたい、もっと有機野菜を食べたい、もっと美味しいものをこだわって作りたい、郷土料理を作りたいなど、色んなものがあると思っています。

今のクックパッドは、時短簡単で人気のレシピが最短で見つけられる、という体験に特化しているため、もっと健康にいいものや、もっと自分に合った美味しいものを探そうといった違う体験に特化したものを作ろうと思うと、違うサービス、ノウハウが必要だと考えています。

そういうのは、そういうことができる人が必要だと思うんですよね。だから、クックパッドアクセラレータで応募してくださるベンチャーの方々と一緒に、そういう価値観を創っていきたいです。

——今までは、マジョリティから強い要望のあった、時短簡単を最優先して提供していた。それが今後は、よりパーソナルに、それぞれに最適なものを提供しようとされている。料理の本当の価値を届けようと試みているのですね。

:そうですね。パーソナルなものを提供したり、今後発達するであろうAIや音声認識の中で、どのような調理体験が人々に最適なのかというのは、正直やってみないとわからないなと思っています。

やらないとわからない中、やる人があまりいないため、「そういうことがしたい」「未来はこういう世界になるでしょう」と一緒に考えるベンチャーも、応募してくださると嬉しいですね。

自分のこだわりを実現してくれるスマートキッチン

——そういったベンチャーとは想いが共有できそうですね。マジョリティにいけばいくほど、未来の世界では自分で作らずロボットに、となっていく可能性があります。一方、冒頭にあった、自分の好きな人が作ってくれた料理というのは、かけがえのないものだったりするじゃないですか。今後AIやキッチンロボットが発展していった時、その辺りはどのように進めていこうとされているのですか。

さん:これは僕の考えなんですけど、AIやIoTは、オートメーションだとあまり思っていないんですよね。オートメーションと、最適な考えに近づくというのは、違うことだと考えています。

例えばインターネットもそうですが、インターネット上にはありとあらゆる知識が集積されているので、調べればまあまあ最適な答えが見つかるじゃないですか。でも昔はインターネットがなかったので、口伝で聞いたり、本に載っていることなど、限られた情報しかなかったです。

AIやIoTが何をしてくれるかというと、先ほど食について考えなければいけない要素がたくさんあるとお伝えしましたが、人間はその要素を全て考えきった上で判断するのはものすごく大変なんです。

例えばスーパーで売っているものが目に入ったら、これで思いつく自分の作れるものは何か、自分の頭で思いつくものを作ろうとします。本来、家族の健康状態や好み、冷蔵庫内の食材の在庫、調理スケジュール、旬の食材などなど、考えるべき事はものすごいたくさんあるのですが、それほどたくさんのことを人間はいっぺんに考えきれないんですよね。その考えきれないことを、なるべく考えられるようにサポートしてくれるのが、AIだと思っています。

あとスマートキッチンやIoT調理に関しても、今までは火力の調整などを細やかにできないわけですよ。例えば、一定の中火で焼いて、火が通ったら完成、という感じです。それがスマートキッチンになると、火のコントロールも中まで温度が通りきらないように、モニタリングしながら、初めは中までじっくり熱を入れて、最後は強火でカリッと焦がすとか。

今までは出来なかったこだわりなどを、ちゃんと実現してくれるのがスマートキッチンやIoT調理で、オートメーションとは違います。確かに手間は掛からなくなるんですけど、僕が最近家に導入したコンロだと、餃子を勝手に焼いてくれるんですよね笑。

——便利な世の中になりましたね笑。

住さん:火加減を勝手に調節してくれるんですよ。そうすると、今までは餃子につきっきりで焼かないといけなかったものが、隣で別の一品が作れるようになるんです。同じ調理時間でたくさんのメニューが作れるようになる。

あと例えば、みんなに餃子を振る舞うとき、一皿では足りないので、何皿分か焼くじゃないですか。そうすると、皿に出している間に焼かないといけない状況なので、こっちで食べている間に、おかわりを焼くことができる。要はみんなと一緒に食べながら勝手に餃子が焼き上がっている状況が生まれます。

——誰かが見る必要がないので、みんなで一緒にいる時間が増える。コミュニティの形成につながりやすくなり、ますます食が楽しくなりますね。

住さん:そうなんですよ。家族の会話とかも変わっていくと思うし、食卓に上がる品数が増えます。それはオートメーションという見方もありますが、僕はオートメーションではないと思っていて、人間が料理をこだわって作りやすくなることだと考えています。

——焼き加減を絶妙にコントロールしてくれて、美味しい料理ができる。みんなに美味しいと言われたら、また作りたくなりますね。

AIやIoTは、人の創造性を拡張する

住さん:あとよく話すんですけど、僕が好きなビールIoTがあるんですね。

——ビールIoT?発酵を自動で行うのですか。

住さん:そうなんですよ。ビールは、酵母と麦芽を発酵させて作るじゃないですか。あれって温度や発酵させる度合いで、実はビールが変わるんですね。いわゆるホワイトエールとか、IPAとか、色々なクラフトビールがあるじゃないですか、苦さとか柑橘系とかの。あのようなテイストは、発酵度合いで変わるんですよね。それをパラメータを設定して、その通り発酵させる。すると、自分好みのビールが出来上がっちゃう。国内で使うと酒税法違反の可能性もありますけど笑。

——自由自在に作れるんですね。

住さん:そこからさらに、IoTレシピコミュニティが出来てきていて、「この麦芽と酵母を、このパラメータでやるとソーセージと合うぜ」みたいな。

——なるほど、面白い。IoTの出現により、新しい創造的活動が生まれていますね。

住さん:今までは、中火で焼きましょう。だったのが、「火のコントロールを、こうしてこうすると、今までより上手くできるぜ」みたいなことが起こるわけです。

——PCが生まれたことで、新しい創造的活動ができるようになったように、キッチンのIoTが出てくることによって、より料理の創造的活動の枠が広がっていきますね。

住さん:そうなんですよ。スマートキッチンやIoTやAIは、より人間の創造性を拡張してくれるものだと思っています。

——まさにジョブズが言っていた、サイエンティフィックアメリカンのエネルギー効率の話ですね。人は道具を得ることによって、圧倒的にパフォーマンスが上がる。AIやIoTを得ることにより、創造性が拡張され、可能性が広がる。

住さん:まさにその通りだと思っています。料理の可能性を、AIやIoTなどと共に広げてくれる人が今欲しいですね。

ビジョンの実現は、単独ではできない

——今回のクックパッドアクセラレータをプレスリリースした際、やはり色んな方が反応されているんですよね、特にIT業界。WebでBtoCサービスを運営され、力を持たれているクックパッドさんが、今回始めたのはインパクトがあると思います。

個人的にも色んな方から質問を受けたりしたので、反響を感じています。説明会にも多方面の方がたくさんいらしているので、応募が楽しみです。また次回のイベントもどうぞよろしくお願いします。(※2017/11/1イベント終了)

住さん:ありがとうございます。やっぱり料理ってすごく広いですし、色んなものに関係しているので、クックパッド1社単独でやるのは結構難しいです。

——壮大なテーマですものね笑。

住さん:そうですね笑。壮大なので、壮大なことを一緒にやるような仲間を見つけたいと今回思っています。

——クリステンセンの”イノベーションのジレンマ”で語られていたように、出島を作って外とコラボレーションしていかないとイノベーションは生まれない。どの企業も、社内の人たちだけでは事業創造は困難ですよ。ということでしょうか。

住さん:そうですね。ただ、単純に投資がしたいとか、ただ事業創造をやらなければいけないとか、そういう感覚ではあまりないんです。本当に料理というものの価値に、合宿などを通じて改めて気づき、その価値を広げていきたい、人の気持ちを豊かにしていきたいという考えに基づいてですね。

——そういったビジョンのもと、一緒に航海してくれる仲間を、社内外問わず募っている。まさにONE PEACEですね笑。

住さん:そうですね笑。

社内で価値を育む、クックパッド大学とは

——先ほど、社内でまだ十分に浸透していないというお話がありましたが、社内に対しても、今まさにこのビジョンを共有されていらっしゃるということですか。

住さん:はい、やっています。そこは僕だけじゃないんですけど、別の施策があって僕も関わっています。昨日もちょうどクックパッド大学というのがありました。

全6回なのですが、昨日は「これからのローカルらしさが息づく食卓を作る」というテーマでした。ローカルらしさの価値が何で、なぜ人はあまり注目しなくなってきているのか、その根本課題は何かを掘り下げました。毎回一つの課題にフォーカスして、クックパッド社員とその分野で活躍されている社外の方とを半々くらい募って実施しています。

——専門家の方もいると、かなり知識も深まりますね。インプット型のイベントですか。

住さん:構成としては、前半が3人ほどのスピーカーによるインプットセッションで、後半がそれを受けてグループワークで課題の深掘りですね。初回は、レシピの歴史を学び、これからのレシピが果たす役割について考えました。レシピがなぜ生まれ、各時代でどんな役割を担っていたのかなど、過去から現在までの歴史を振り返りながら話したりしました。

そして今後ライフスタイルや価値観が変化する中でレシピはどう変わっていくのだろうか、というディスカッションをしました。そういう料理にまつわる課題の深掘りと可能性の探究をみんなでワークショップ形式でやったりしています。

こういった取り組みを通じてわかることは、みんな価値観が違うんですよね。僕はこれまでお話したような価値観を持っているわけですけど、人によっては可能性を感じるポイントが違います。自分は料理の再現性が大事だと思う人もいれば、食の多様性や個性の担保がすごく大事だと思う人もいる。料理にまつわる様々な課題に注目し、それぞれの価値観を持ってみんなで課題の深掘りができる場が、クックパッド大学なんですよ。

——素敵ですね。大学はどれくらいの頻度で行われているのですか。

住さん:だいたい隔月のペースですね。2017年7月に初回を開催して全6回なので、来年の5月頃に完了します。

——地元の料理などの特化したテーマをやりつつ、その時に先ほどのコミュニティなどのテーマも一緒に話し合われるのですか。

住さん:コミュニティなどはまた別ですね。先ほどの課題マップの、特定の部分に特化して今回はワークショップやろうかという感じです。領域ごとの理解を深めるという試みです。そこってなんだっけ?、なぜこうなっているんだろう?、どうすれば変えられるんだろう?というように考えるワークショップですね。

「どうなるとそこが変わるのか」というのがゴールになっているので、必ずどのようなサービスが存在すると、その課題が解決するかという流れになっています。

——その課題の最適な手段を見つけていこう、というワークショップを繰り返している。

住さん:そうですね。課題の理解からも全部ワークショップをしていて、背景や根本課題をディスカッションして聞く。昨日の場合は、「ローカルなレシピってなぜ失われているのか?」を、ワークショップでみんなで分解しました。

原因とか背景とかを全部書き出していき、「それを解決するには、どういうサービスが必要なんだろう?」というのを出すのがアウトプットです。

——まさに0→1のところを、みんなでやられているのですね。

住さん:課題の深い理解と、どうすれば解決できるのかをセットでやっています。料理の課題を解決しましょうと言っているんですけど、まずはそこを深く知らないといけないので、かなり理解が深まります。

——では最後の質問になります。改めて住さんにとって「料理」とは何ですか。

住さん:んーそうですね、料理とは人間の根源であり、世界を変える可能性を持っているものですね。

——今までのお話がその言葉に集約されていますね。この度は、お話ありがとうございました。

クックパッドアクセラレータ

応募サイト:https://cookpad.01booster.com(応募は終了しています)

インタビュー前編:「料理は誰もが使える魔法である」クックパッド住氏が語る、食に秘められた力

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