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放課後の価値を再定義する ── ウィライツが描く学童保育の未来

ウィライツ代表取締役の村上竜一氏

共働き世帯の増加に伴い、学童保育の需要が高まる中、おやつの献立作成・配送サービスや学童管理システム「Smile-3」などを通じて、学童保育の環境改善に取り組むウィライツ。「放課後を通じ、ひとりひとりの人生を豊かに」をミッションに掲げる同社代表取締役の村上竜一氏に、創業の背景や事業の展望、そして放課後の時間がもつ可能性について聞いた。

森永製菓のプログラムから始まった創業物語

村上氏が起業を決意したのは、およそ10年前のこと。教育業界で働いていた村上氏が学童保育に関心を持ったのは、少子高齢化による塾業界の競争激化が背景にあった。

「塾業界は小学4年生以上の生徒獲得で競争していましたが、当時は少子高齢化により教育事業者全体が変革を求められていました。そこで低学年、つまり1〜3年生に早い段階からアプローチする方法を考えていたとき、学童保育という場所を知ったんです」(村上氏)。

実際に学童保育の現場に入った村上氏は、共働き世帯の増加に伴う需要拡大を肌で感じ、この市場の可能性に気づいた。

転機となったのは森永製菓が実施したアクセラレータープログラムだ。

当時は起業したいと漠然とした思いを抱えていたものの、具体的なビジネスプランは持っていなかった。そんな中、学童保育での経験と森永製菓の食の知見を組み合わせることで、おやつを軸にしたビジネスの可能性を見出すことになる。

そしてアクセラレータープログラムの最終発表日を翌日に控え、村上氏は人生を賭けた決断を下した。

その翌日、起業家として臨んだピッチで村上氏は見事優秀賞を獲得。運命の分岐点で自らの直感を信じた彼の選択は、ウィライツ誕生の決定的瞬間となった。

村上氏がウィライツを創業した背景には、「放課後の時間をもっと良くしたい」という強い思いがあった。

「進学塾や学童保育の仕事の中心には、常に子どもがいました。実際に学童保育に携わってみて、子どもにとっても、働く職員の方々にとっても、また自治体や保護者の方々にとっても、満足のいく環境が作れていないと感じました」(村上氏)。

子どもたちが楽しく過ごせる場所であると同時に、保護者が安心して仕事に集中できる環境を作ること。そして学童保育に携わる職員の負担を軽減し、より子どもたちとの時間に集中できるようにすること。村上氏のミッションには、こうした複合的な視点から「放課後」の価値を高めたいという願いが込められる。

「学童保育」に特化したサービス展開

ウィライツで提供するおやつの献立表

ウィライツが手がける事業の中核は、学童保育向けの「おやつの献立作成・配送サービス」だ。創業のきっかけともなったこのサービスは、管理栄養士・栄養士が作成した献立をもとに、発注から配送までを一括で代行するというシンプルな仕組みだ。

「献立を作る上で大事にしているのは、子どもたちに喜んでもらえること。管理栄養士や栄養士が作成していますが、健康や栄養に特化するというより、子どもたちが楽しく食べられる献立を意識しています」(村上氏)。

特にアレルギーを持つ子どもが増えている現状を踏まえ、商品の原材料情報をメーカーや卸店から集約し、原材料表を作成して提供しているという。

もう一つの主力サービスが、学童保育向けクラウド管理システム「Smile-3」だ。これは子どもたちの入退室記録やコミュニケーションツールとしての機能を持ち、いわば連絡帳のデジタル化だと村上氏は説明する。

「おやつサービスは競合が少ないのですが、入退室サービスに関しては多くの競合がいます。ただ、その多くは保育園向けのシステムを学童用に調整したもので、学童に特化したシステムはまだ少なかったんです」(村上氏)。

このサービスも、おやつ配送を利用していた顧客からの要望を受けて開発されたという。

さらに、食育イベントなども展開。これもまた顧客からの相談をきっかけに始まったサービスだ。お菓子メーカーと連携し、小学校低学年の子どもたちにも理解できるレベルに落とし込んだ内容で、学童保育施設に出向いたり、オンラインでの食育イベントを実施してきた。

村上氏が学童保育に特化した戦略を選んだ背景には、明確な理由があった。

「保育園児向けサービスの場合、たとえば0歳児と5歳児では食べるものが違うため、提供する商品が多岐にわたり、ターゲットがぼやけてしまう懸念もありました。また、保育園市場はすでに充足しつつあり、どこかで成長が頭打ちになると予想していました。一方、学童保育はこれまでの保育園と同様にまだ数が足りず、質の向上も求められている。認知度も低く、他社の参入も少なかったので、学童に特化することを選びました」(村上氏)。

コロナ禍が転機に── 450施設以上に拡大した事業基盤

創業から10年、ウィライツの事業は450施設以上への導入実績を持つまでに成長した。しかし、その道のりは決して平坦ではなかった。当初、東京都内のすべての自治体に飛び込み営業をしたものの、ほとんど成果が得られなかったという。

しかし数年後、良好な反応を得られなかった自治体から、「あのときの資料をもう一度見せてください」と連絡が来るようになった。きっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大。

「コロナ禍では、子どもが学童を利用できるか、職員が出勤できるかという問題が浮上しました。おやつは必ず食べるので、職員が買い物に出る感染リスクを下げるため、外出せずに商品を調達する方法が求められるようになったんです」(村上氏)。

コロナ以前は、おやつを皿に出して提供するスタイルが一般的だったが、感染リスクへの懸念から、ウィライツが提供する個包装の商品に需要が高まった。

現在では年間黒字化も達成。その要因について村上氏は、学童保育市場自体の右肩上がりの成長に加え、既存顧客の施設拡大に伴う受注増が大きいと説明する。

「初期には数施設だった顧客が、年を重ねるごとに10施設、20施設、30施設と拡大していきました。『来年また施設が増えるから、よろしく』という形で既存顧客の拡大に伴って伸びたことは大きいですね」(村上氏)。

特筆すべきは解約率の低さだ。解約事例は非常に少なく、村上氏が記憶の中から思い出せる程度しかないという。発生した数少ない解約事例も、おやつの提供方法の見直しや、自治体の入札制度により別業者へと切り替わったケースがほとんどだった。

このような成長を支えたのは、スイッチングコストの高さもあるという。学童施設は自治体の許可を得たり、保護者に周知したりする必要があり、簡単にサービスを切り替えることが難しい。そのため、さまざまな要望に応え続けることで、結果として解約を防いでいるのだ。

これからの放課後と学童保育の可能性

学童保育を取り巻く環境は、この10年で大きく変化してきた。村上氏はその変化について、こう語る。

「自治体が示している数値でも学童の施設数はまだ伸びている状態です。変化している点としては、民間の参入が広がっています。教育事業者が学童支援に参入してきていますが、継続するのが難しく、効率化やアウトソースを検討されるプレーヤーも増えてきました」(村上氏)。

かつては外部の力を借りることに消極的だった学童保育の現場も、徐々に外部サービスを活用する機運が高まっているのだ。

共働き世帯の増加に伴い、保護者と学童保育の関係性にも変化が生じている。

「学童の成り立ちは保護者が立ち上げて子どもを預かる形が出発点でした。学校にPTAがあるように、学童保育にも父母会があったのですが、今はそうした父母会が減っています。『預けているのだから、ちゃんとした品質を担保してほしい』というサービスとしての期待が高まり、保護者との関係性は以前より希薄になっている印象です」(村上氏)。

その一方で、保護者からサービスへの直接的なフィードバックはほぼ皆無だという実情がある。村上氏の観察によれば、保護者にとっての最大の価値は、子どもが嫌がらずに学童に通い続けてくれることだ。

保育園選びでは15園から20園程度を見学して慎重に選択するケースも珍しくないが、学童保育については選択肢自体が極めて限られている。子どもが「行きたくない」と言えば親の仕事にも直結する影響が出るため、子どもたちが楽しく通える環境づくりが何よりも優先される課題なのだ。

これからの放課後と学童保育の可能性について、村上氏は「現在の学童保育の形がベストとは思っていない」と語る。

「学童を利用する子どもたちは何らかの家庭事情があり、子どもの意思で通う場所ではありません。学童を利用していない子どもの中にも、利用したいという子はいます。就労状況や親のコンディションに関係なく、必要とする子どもたちが等しく過ごせる放課後の場を作りたい。一方、放課後は子どもたちの自由時間です。大人の都合で子どもたちが窮屈に感じることなく、自由に過ごせる放課後をつくっていきたいと考えています」(村上氏)。

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