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事業会社発スピンオフが日本のイノベーションを加速する——先駆者たちが語る成功のカギと課題
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事業会社からのスピンオフ・スピンアウトが新たなトレンドとして注目を集めています。10月15日から18日に幕張メッセで開催されたCEATEC2024では、大手企業で実績を持つ事業家たちが登壇。スピンオフの価値や課題、そして日本企業の文化に適合した新しいイノベーション手法としての可能性を語りました。
登壇したのは日本経済団体連合会の森紫苑氏、リコーの事業共創プログラムから生まれたTONOME代表取締役社長の小笠原広大氏、スズキの次世代モビリティサービス事業部でスタートアップ事業開発に携わる齊藤直樹氏の3名。モデレートはゼロワンブースターキャピタル取締役・パートナーの浜宮真輔が務めます。
スピンオフ台頭の背景にある「事業会社の新規事業増加」
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近年、日本の大手企業における新規事業開発の出口戦略として、スピンオフが注目を集めています。ゼロワンブースターキャピタルの浜宮は、「7、8年前から学生起業家が増え、その後に事業会社やコンサル出身の起業家が増えた。そして今、スピンオフ・スピンアウトが新たなトレンドとして台頭してきている」と説明します。
スピンオフが台頭する背景には、ここ3、4年の間に多くの事業会社が新規事業やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を立ち上げ、そこで育った案件の次のステージを模索する必要性が出てきたことが要因のひとつです。
経済産業省への出向経験を持つスズキの齊藤氏は、「社内で事業化できずに折れてしまう技術が6割程度ある」と指摘。これは必ずしも技術や事業性の問題ではなく、社内の判断基準やスピード感との不適合が原因となっているケースも少なくありません。
こうした状況を踏まえ、日本経済団体連合会(経団連)では積極的な支援体制を整えています。経団連産業技術本部の森氏は、「会員企業を対象に『スタートアップフレンドリースコアリング』という活動を実施しており、その評価項目の一つとしてカーブアウト・スピンオフへの取り組みを盛り込んでいる」と説明しました。
実際にリコーからスピンアウトしてTONOMEを設立した小笠原氏は、「スピンオフは日本の企業文化に合っている」と言及。完全な独立ではなく、親会社との関係性を保ちながら新しい挑戦ができるとして、その広がりに期待を寄せます。
スピンオフがもたらす大企業とスタートアップへの価値
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スピンオフのメリットについて小笠原氏は、「事業戦略の柔軟性が高まること」を挙げます。会社の株式のマジョリティを持つことで、意思決定の自由度が増し、事業にコミットできる環境が整うためです。
小笠原氏は「細かなピボットや戦略変更をしたいときに報告が不要になる。また、1つのプロダクトで売上を立てる必要がなくなり、多様な事業を模索できるようになる」と話します。
一方、スピンオフには大企業にスタートアップ文化をもたらす効果もあると言います。リコーでは「TRIBUS」という新規事業創造プログラムを通じて、社内から新規事業のアイデアを募り、審査を経て事業化を認める仕組みを構築。小笠原氏も、このプログラムの事務局として制度設計に関わった経験を持ちながら、後に自らプログラムに応募して採択され、スピンオフを実現しました。
スズキの齊藤氏は、スピンオフをオープンイノベーションの一形態として捉え、「よくある外にある技術を中に取り入れるインバウンド型のオープンイノベーションに対して、これは中にある技術を外に出すアウトバウンド型のオープンイノベーションだ」と説明します。
つまり、スタートアップ投資であり、人材育成であり、社内技術の新たな活用でもある多面的な価値を持つ取り組みとして位置づけられるというわけです。
また浜宮は、スピンオフのもう一つの重要な価値として、親会社とスタートアップ間のカルチャーギャップを橋渡しする効果を指摘しました。
「スタートアップとの連携では文化のギャップが多くて合わないケースが多いが、スピンオフの場合は社内の人間とのコミュニケーションになるので、コミュニケーションの不調和も少なくなる」(浜宮)。
この文化的な親和性は、その後の事業提携やオープンイノベーションを進める上で大きなアドバンテージとなり得ます。
スピンオフ経験者が語る「課題と苦悩」
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スピンオフが持つ可能性は大きい一方、事業家たちはさまざまな課題に直面します。スズキの齊藤氏は、その課題を2段階で説明します。
「1つ目はそもそもスピンオフをしてくださいと言われても、どうやってやるのかがわからない。社内からどのように外に出すべきか、そもそも誰がサポートするのか、そうした仕組みやルールが整っていないケースが多い」(齊藤氏)。
2つ目の課題は、より実務的なものです。「人も資金も知財も出ていってしまう中で、その経済合理性を社内でどう設計するのかが問われる。また、もし出資するのであれば、資本政策で切り出していくなど具体的な整理も必要となる」と語ります。
この点において浜宮は、投資家の立場から別の課題を指摘します。「取締役会への参加など慎重な検討プロセスが必要になるため、出資まで相当な時間がかかる。スピンオフした起業家が株式を大量に保有し、その事業をイグジットさせた後に数十億円の個人資産が生まれる可能性もあるため、判断が難しい」とリアルな視点を共有しました。
一方、実際にスピンアウトを経験した小笠原氏は、「出る側はそれほど大変ではなかった」と振り返りつつも、「出る側と本社でサポートしてくださる方たちがいて初めて、この選択肢が実行できる」と語ります。
経団連の森氏は、特に研究開発部門からのスピンオフについて、固有の課題があると語ります。
「本社で長年研究開発を行ってきたものをスピンアウトさせるとなると、そこまでの投資や設備を使ってきた部分を、どう考えるのかに難しさがある」(森氏)。
先行事例に見るスピンオフ成功のカギ
リコーのケースは、日本企業におけるスピンオフ成功の重要なカギを示唆しています。小笠原氏は成功要因を「TRIBUSという新規事業創造プログラムが基盤となり、リコーとしての挑戦でもあるというストーリーを持って進められたこと」と述べました。
また、当時のリコーの山下良則社長(現会長)のオープンな姿勢と、中期経営計画で掲げられた「挑戦」という姿勢が、TRIBUSをスタートさせる大きな後押しとなったと言います。
さらに制度面でも「本業に支障をきたさない許容可能な損失範囲を定めておくことで、チャレンジしやすい環境になった」と実体験を述べました。
スズキの事例では、新規事業からスピンオフへの進化が見られます。齊藤氏は2020年に「社内新規事業チーム設立」に着手したものの、社内で新規事業を進める難しさに直面したと言います。その実体験を活かし経済産業省への出向、カーブアウトガイダンスの策定に関わり、それを自社に持ち帰る形で、スピンオフの制度設計を進めてきました。
一方、経営層の理解を得るためのアプローチとして、浜宮氏は「カルチャーフィットの少なさや、コミュニケーションの容易さなどの利点を説明することが重要」と述べました。実際にゼロワンブースターキャピタルでは、スピンオフを増やすための教育プログラムを無償で提供し、すでに60社以上が参加しています。
スピンオフの波をつくる「コミュニティ」の重要性
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スピンオフは、日本企業の文化に適した新たなイノベーション手法として、さらなる広がりを見せる可能性を秘めています。
森氏は経団連が掲げる「スタートアップ躍進ビジョン」に言及。「我々はスタートアップの数もユニコーンなどの成功のレベルも10倍にする目標『10X10X』を掲げている。それを支えるのは、一つひとつの会社のカルチャーやコミュニティだ」と述べました。
小笠原氏も自身の経験から「日本はパッションが高いスピンオフ経営者たちとのネットワークが構築しやすい」と語ります。
スズキの齊藤氏も、コミュニティ形成の重要性を強調。「新規事業やスピンオフに取り組んでいると、間違いなくそこにはコミュニティがある。まずは、そこに参加し情報収集をして、社内に前向きな形で伝えながら理解を得ていくことが大切だと思う」と語ります。
最後に浜宮は「スピンオフの普及はまだまだこれから。難易度も高いため、一人ひとりが考え行動し、トレンドをつくることが重要」と述べ、エコシステムの形成、発展の重要性を語り、セッションを締めくくりました。