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地域特性を活かしたVC投資の新潮流 〜関西発ディープテックとヘルスケアに見る成長機会〜
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昨今の日本のスタートアップ、VC業界は、グローバルで見てどのような状況にあるのか。10月16日、幕張メッセで開催されたCEATEC 2024において、「VC & CVC投資トレンドパネルディスカッション - 国内外の機会を探る -」が行われました。
01Boosterキャピタルの高田信一朗をモデレーターに、京都キャピタルパートナーズのベンチャー投資部部長代理・村田義樹氏と、アークレイアンドパートナーズプライベートリミテッドコーポレートベンチャーキャピタルのフィオナ・クー氏が登壇し、国内外の投資動向について議論を交わしました。
「日本のスタートアップに追い風が吹いている」国内外の投資環境の比較
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国内外の投資環境について、スピーカーの両氏は興味深い対比を示しました。京都キャピタルパートナーズの村田氏は米国の投資動向について、「直近のアンドリーセン・ホロウィッツのレポートを見ると、OpenAI以降の流れを受けてAI関連投資が主流とされている。一方、日本はディープテックやヘルスケアに強みがある状況だ」と分析します。
米国でディープテック投資が弱まっている現状は、日本にとってチャンスになり得ると村田氏。実際、AMEDやNEDOによる大型補助金の提供など、国策としてディープテック領域への支援が強化されており、日本のスタートアップエコシステムは、この機会を活かして成長するべきと語ります。
また、中東からの投資にも大きな動きが出ています。村田氏は「最近、ドバイで開催された展示会は、その場で100億円規模の投資が即決されるような環境だった。“アラブマネー”は日本のディープテック企業にも注目している」と具体例を挙げました。
一方、アジア市場においては、各国の発展段階に応じた特徴的な投資傾向が見られると言います。国際的な臨床検査医療機器メーカーのCVC部門を代表して登壇したクー氏は「中国やシンガポールでは日本同様に、高齢化社会を見据えた介護関連のソリューションへの注目が高まっている。一方、インドネシアなどの発展途上国では、医療アクセスの改善など、より基礎的なインフラ整備に関連するビジネスが中心となっている」と述べました。
同社のポートフォリオは、日本企業が3分の1、残りは海外企業という構成になっており、シンガポールやインドの企業への投資実績があります。対照的に、京都キャピタルパートナーズは現在65社の投資先を持つものの、直接の海外投資案件は持っていません。ただし、投資先の中には既に3社が海外展開を果たしており、間接的な形でグローバル展開をサポートしていると言います。(開催当時)
村田氏は、日本は独自の強みを持ちながら国際的な資金を呼び込む新たなフェーズに入っている一方、海外進出に挑む企業の課題に言及。「米国進出を検討する企業が増えているが、現地でのクレジットカード取得や住居契約など、基本的な事業基盤の構築にも予想以上の時間とリソースが必要となる」と語ります。
「バイオヘルスケア領域が業界拡大をリード」関西の投資環境のイマ
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村田氏は関西、特に京都におけるベンチャー投資の特徴として、ディープテック領域を起点にエコシステムが拡大していると語ります。
近年では大手VCのグローバル・ブレインが京都事務所を開設したほか、スカイランドベンチャーズやイーストベンチャーズといった学生起業家支援に強みを持つVCの進出も相次いでおり、京都の大学発ベンチャーを支えるエコシステムが着実に形成されていると言います。
関西におけるスタートアップエコシステム拡大の背景について、村田氏は「約10年前に施行された産業競争力強化法により、国が選定した4つの国立大学(東北大学、東京大学、大阪大学、京都大学)のうち2つが関西に位置することが大きく影響している。特に京都大学と大阪大学の医学部の強みを活かしたバイオヘルスケア分野での研究成果が、徐々に実を結びつつある」と説明します。
一方、業界の課題も明らかになりつつあるそうです。村田氏は「0から1のステージ、つまりビジネスを始める際の支援は充実していますが、30から100など成長ステージでの支援が不十分」と指摘。結果として、関西で生まれ育ったスタートアップが成長期に入ると東京へ移転するケースが目立つと言います。
村田氏は「地域の行政や経済団体、VCが一体となった支援体制の構築が求められている」と語りました。
「AI×医療のビジネスモデルが台頭」ヘルスケア領域の投資トレンド
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クー氏は、ヘルスケア領域における最新の投資トレンドについて、具体的な事例を交えながら解説しました。特に注目すべき動向として、新型コロナウイルスをきっかけに加速したデジタル化の「次のフェーズ」が見えてきていると語ります。
クー氏は「オンライン診療などのプラットフォームにとどまらず、AIと医療を組み合わせることで、より身近な医療の実現を目指す動きが出てきている。例えば、スマートフォンで取得した日常的なバイタルデータをAIで分析し、より効果的な健康管理を実現するビジネスモデルが見られる」と述べました。
また、クー氏は「技術の進歩だけでなく、政府の施策との連動もスタートアップへの投資を拡大する重要なファクターだ」と言及。日本の特徴的な課題として高齢化社会における医療現場の人材不足を挙げ、政府や自治体がヘルスケア領域のイノベーションを強く後押ししている状況を、スタートアップやVCはうまく活用するべきと主張します。
村田氏も、関西におけるヘルスケア投資の特徴として、京都大学や大阪大学の医学部の強みを活かしたバイオヘルスケア分野での展開を挙げています。ただし、創薬などのバイオ関連事業は開発期間が長期に及ぶため、投資家側の長期的な支援体制が重要になると指摘します。
特筆すべきは、日本のヘルスケアスタートアップの間で、グローバルな視点での開発戦略が一般化してきている点です。クー氏は「日本で設計を行い、他国でPOC(概念実証)し、英語対応可能な国で臨床評価を実施するなど、開発時間の短縮やコスト削減を目的としたクロスボーダーでの取り組みが増えている」と言及。こうしたグローバル展開は、日本発のヘルスケアイノベーションの可能性を広げる重要な要素となっています。
銀行や事業会社など本業を活かすVCの支援体制
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村田氏、クー氏が所属する2社は、それぞれ特徴的な支援体制を構築しています。銀行系VCとCVCという異なる立場から、投資先企業の成長をどのように支援しているのか、具体的な取り組みが紹介されました。
京都キャピタルパートナーズは、中核会社である京都銀行の強みを活かした支援を展開しています。「銀行の強みは、強固な財務基盤と3万社を超える取引先へのリーチにある。取引先企業の課題をスタートアップのビジネスで解決するマッチングを無償で行っている」と説明します。
ただし、村田氏は銀行ネットワークを通じた営業支援には現実的な限界があることも指摘します。「銀行員は通常業務で多忙なため、複雑な技術や専門的なソリューションを詳しく説明する時間的余裕がない。そのため、誰でも説明しやすい製品やサービスでないと、実際の営業支援は難しい」と、現場の実態を率直に語ります。
一方、クー氏のCVCでは「ARKRAY 4U」プログラムを通じて、より実務的な支援を提供しています。同社が持つ商品開発、製造、販売、サプライチェーン、サービス部隊などのリソースを活用し、製品の小型化や量産化、薬事申請など、事業化に向けた具体的なサポートを行っています。クー氏は「必ずしも提携や協業を前提としない投資も行っているが、事業面で支援できる部分があれば積極的にサポートしている」と説明します。
セッションの最後では、情報収集について両氏とも対面でのコミュニケーションの重要性を強調しました。特にディープテック分野では、大学の研究成果を事業化する過程で重要な役割を果たす人々とのリレーション構築が不可欠だと村田氏は指摘します。「京都大学イノベーションキャピタルなど、大学発のシーズを事業化するエコシステムの中核となる機関との関係維持が、質の高い案件情報の獲得につながっている」と言います。
海外での情報収集についても、現地でのネットワーク構築が重要な要素となっています。クー氏によると、同社では各地域に担当者を配置し、現地のイベントへの参加や定期的なヒアリングを通じて情報収集を行っているとのことです。クー氏は「オンラインでも情報は得られるが、やはり対面でのコミュニケーションから得られる情報の質や、相手との関係作りは異なる」と、実体験に基づく見解を示しました。