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トヨタ自動車株式会社発 新規事業|素材開発における意思決定を支援するデータ解析クラウドサービス 「WAVEBASE」

トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 事業開発室 WAVEBASEグループ 山口剛生さん

オープンイノベーションや、業界・業種を超えた提携、全社的な企業変革のその先で、大企業も中小企業も、スタートアップに負けない意欲的なチャレンジが求められている現在。企業の中の挑戦者に光を当て、挑戦者同士の出会いを生む場として「日本新規事業大賞 by Startup JAPAN」が企画されました。本稿では、2024年5月15日(水)に開催された同賞のピッチイベントの登壇企業が創造する新事業についてご紹介します。

眠れる「尖ったシーズ」を事業に活かす

現在、トヨタ自動車株式会社 新事業企画部 事業開発室 WAVEBASEグループで、データ解析クラウドサービス 「WAVEBASE」を推進する山口剛生さん。彼は2010年にトヨタ自動車に入社後、車開発、材料開発を経て2015年に念願の素材開発部門へ異動。ただ、そこではなかなか研究開発した技術を製品まで持っていくのは難しいと痛感した、と山口さんは語りました。

山口さん:自動車にそれを載せようとすると、さまざまな要件を高いレベルでクリアする必要があります。ただ、ある側面で良いものができたからといって、世に出るというわけではないんです。でも、それはもったいないよねと2019年ごろには思っていました。

     そのタイミングで、技術戦略を統括する部署に異動することになりました。そこで材料以外の技術にも目を向けるようになり、材料以外にも同じことが言えると思いました。それで、研究開発で生み出された技術のクルマ以外の出口を作りたいと思うようになりました。

社内の技術アセットを使って事業を立ち上げる。それを支援する組織の立ち上げに参画させていただいたのがその半年後です。そこでは社内の尖ったシーズを探して、ピボットしながらニーズ仮説を検証し、いくつかの事業プロジェクトを立ち上げました。その中の一つがWAVEBASEで、現在は専任で取り組んでいます。

なぜ、材料に関連した新規事業をやるのか?

WAVEBASEは、金属や樹脂、セラミクスなどの様々な素材や材料を研究開発する企業が「データを活用しきれていない」という課題を解決し、データに基づいた意思決定の実現を支援する事業です。なぜ材料に関連する事業をするのか?これに対して、「車のイノベーションには素材・材料のイノベーションが必須であり、この構造は自動車以外にも同じことが言える。素材は皆さまの生活の必然になっているといっても過言ではない」と山口さんは論じました。

山口さん:素材産業は日本の要です。一方で、グローバルにおける競争は非常に激化しています。素材産業の競争力を高めることは日本全体の競争力を高めることに直結すると思い、この事業を行っています。

プロジェクト推進にあたっては、トヨタ社内の専門家が集まりWAVEBASEチームを組成。同社内で素材開発でのデータ開発の第一人者である庄司プロジェクト長を中心に、研究部門と深く連携するなど、社内のアセットを十二分に活用してきました。また、素材に関連するR&D組織を大きく建て付けて、材料メーカーと共に研究開発を推進していきました。

 Image credit: TOYOTA

データを活用できない課題が生まれる2つの要因と
WAVEBASEによる解決方法

山口さんがWAVEBASEで解決したい課題は、「素材開発でデータを有効活用したい。でもデータが足りず、データを活用しきれていない」というもの。

山口さん:素材の開発は試行錯誤の繰り返しです。たくさん時間がかかります。例えば研究においては今までなかったような性能の材料を試行錯誤で見つけなくてはいけませんし、それを製品にしようとすると他のいろいろな要件を同時に満たすことが必要になってきます。さらには数グラム単位の材料を数トン単位までスケールアップする必要がありますし、その上で製品の品質向上・コスト低減を満たしてやっと世の中に出ていきます。

当然、ほかの産業と同じようにデータ活用によって効率化したいという流れはありますし、これをサポートするサービスもたくさんあります。ただ、実際にデータを使いこなしている企業様はまだ多くは無いのではないでしょうか。

では、材料開発で生じるデータの解析はなぜ難しいのでしょうか?山口さんは、①データを作るのが大変だから、②データが数値化し難いからという2つの理由を挙げました。

山口さん:素材開発の中でデータを作ろうとすると、水準を決めて、実験をして、測って、そして解析してやっと出てきます。これは数ヶ月単位、10個のデータを作るのに1ヶ月2ヶ月かかるのはザラです。スペクトルや画像や3次元データを統計的に扱おうとすると、例えば「黒いところが何個ある」など意味のある情報に置き換えないと統計的に扱えません。これを全部やろうとすると、労力もコストも非常にかかります。

また、ソフトウェアを作って解決しようにも、たくさんの種類があるので費用対効果が見合わない。もともとデータがないのに、使っている情報も一部ということが起きているのです。その結果、実験をして統計解析して次の実験点を見つけたいのに、はじめのところで止まっているということが起きているのです。

Image credit: TOYOTA

WAVEBASEでは、「データ取りたくないけれど、データ活用したい」という要望に応えていく。実験して取ったデータから可能な限り意味のあるデータを取り出して、試行錯誤のサイクルをうまく回るようにしていきます。GUIベースで、専門知識がない担当者でもドラッグ&ドロップでシステムに数値を投げ込みでき、クリックするだけで意味のあるデータを取り出すことができます。

山口さん:我々のビジネスモデルは、基本的にはライセンス数に応じて利用をいただくモデルになっています。また単にシステムをお渡しするだけでなく、お客様の課題を解決することにこだわっていますので、システムにはサポートを付随させています。

着々と成長の歩を進めるWAVEBASE。
先駆者の挑戦が、トヨタ社内にも好影響を及ぼす

プロダクトが未成熟な立ち上げ期から顧客と二人三脚でサービスを作り上げ、徐々に顧客が増やしながら     成長したWAVEBASE。現在では、「解析時間が100分の1になった」など、効果を実感する声も徐々に出てきているそうです。将来的には、素材産業からほかの産業への市場展開を見込み、潜在的に5120億円程度の市場を試算しているとのこと。また、グローバルで年平均20%程度成長していくと予測も出ているといいます。

また、山口さんは、こうした取り組みや事業成長が所属会社にどのような貢献をしているのかという点についても共有しました。

山口さん:私たちはWAVEBASEを通じて、出願中のものも合わせて50件程度知財を取っていますが、こういった技術は社内にもWAVEBASEを使っていただくという形で還元しています。また、私も事務局として関わる社内の事業創出プログラムの設計においても、プログラムより少しWAが先を進んでいる関係もありまして、得られた知見をもとにフィードバックしています。

WAVEBASEによって素材産業が発展することで、日本のグローバル競争力向上を牽引し世の中が変わること。また、山口さんたち先駆者が周囲に影響を及ぼすことで、大企業そして日本がイノベーティブに変貌していくこと。そのどちらも期待したくなるプレゼンテーションでした。

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