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発表から1年、政府担当者が語る「スタートアップ育成5か年計画」振り返りと展望 |01Booster Conference 2023

Image credit: 01Booster

2022年11月の「スタートアップ育成5か年計画」決定から一年。「01Booster Conference2023」では、政府全体のスタートアップ政策を統括する池田陽子氏(内閣官房 新しい資本主義実現本部事務局 企画官)を招き、計画実行を進めた2023年を振り返っていただくとともに、これからのイノベーションのあり方についてお話しいただきました。モデレータは、01Booster 代表取締役 CEO 合田ジョージが務めました。

起業が若者のキャリアの選択肢になり始めている

「スタートアップ育成5か年計画」には、具体的な期限の言及は無いものの、「将来においては、ユニコーンを100社創出し、スタートアップを10万社創出する」と記されています。初動から5分の1が経過した今、担当者はどのような手応えを感じているのでしょうか。池田氏は「まだ統計が取れていないため、体感での話」と前置きした上で、次のように語りました。

池田氏:さまざまなスタートアップ関連イベントに参加するなかで、一流大学の学生たちから「スタートアップへの就職を検討している」「卒業後は起業予定」とよく聞くようになりました。以前ならば大企業や行政機関への就職を希望していた優秀な若者の多くが、スタートアップという新たなキャリアの選択肢を持ち始めていることに、社会の変化を感じています。

政府の期待としては、(学生起業やスピンオフなど)企業の方法や分野は特段決め込んでいません。どのような形の企業でも支援できるよう制度を充実させているところです。そのためには、企業や投資の経験者が、スタートアップ支援のエコシステムに参加することは、非常に重要だと感じています。徐々に増えてはいますが、さらに後押ししていきたいと考えています。

Image credit: Ryoya Sonoda

「スタートアップ育成5か年計画」は日本で日常を送るすべての人を対象にしたものですが、学生には、いち早くその効果が現れ始めているようです。合田氏からは、都市圏の学生に比べ、地方の学生にスタートアップ文化が浸透していないという指摘もありましたが、政府は今後、全国の大学でインキュベーションや起業経験者の講師招聘などにも力を入れるようです。

池田氏:調査によれば、どの都道府県にもスタートアップはあることがわかります。大学から大きなスタートアップが育っていくポテンシャルはすごくあるのは事実です。例えば、私の出身地の長野県でも、信州大学を中心にエコシステムをどう作っていくかを地元自治体の方々が考えてくれています。全国でこうしたムーブメントを盛り上げていきたいと思います。

スタートアップは日本経済を変革する重要な存在

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オープンイノベーションは、大企業にとっては新事業を、スタートアップにとっては大企業が持つ大きなリソースや市場リーチが得られる、Win-Win の関係を理想としています。近年では、これが政府や自治体とスタートアップの関係へと拡大する動きも増えてきました。政府や自治体がスタートアップの客となり応援しようというわけです。

池田氏:スタートアップにリソースを提供する主体として、政府ができることの余地は大きいと思います。5か年計画においても、政府の研究開発事業に、スタートアップが採択されやすいようにするための施策が盛り込まれています。政府調達は、スタートアップに新たな市場への進出や、今までにないチャンスを提供する重要な手段だと認識しています。

ところで、スタートアップを増やすには、入口の施策と同時に、起業家がどこにゴールを見据えて日々邁進するかという観点からも、出口(イグジット)の施策が重要です。「ベンチャー白書」などによれば、イグジットの選択肢としてあるM&AとIPOの比率は、日本の場合3対7でIPOが上回っています。9:1でM&Aの比率が圧倒的に多いアメリカとは大きな違いがあります。

IPOでは経営成績や財政状態が審査基準に含まれており、赤字企業の上場は困難ですし、上場申請に向けた準備の手間やコストも小さくありません。対して、M&Aは買収する側と買収される側、双方の条件が相対(あいたい)で合致すればよいので、IPOよりもイグジットの手段としてはハードルが低く、M&Aが増えれば、スタートアップが増えることにつながります。

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池田氏:オープンイノベーション促進税制は、「スタートアップ育成5か年計画」の目玉施策のひとつです。 この税制を使うことにより、M&Aが促進されると考えていますが、激増するとは考えておりません。IPO偏重のスタートアップ業界において、大企業とスタートアップの両者がマインドセットを変えることが重要なのではないでしょうか。

政府の目玉政策は毎年変わっていくものとも言えますが、スタートアップ支援は長期的な取り組みです。日に日に盛り上がりを増していると思います。スタートアップは、日本経済の古い仕組みの変革や雇用の流動化に寄与する重要な存在であり、政府としてもよりよい未来を一緒に作っていきたいと考えています。

池田氏は、人々が雇用や報酬の柔軟性を求めるにつれ、スタートアップがその変化を象徴する存在になったと指摘。岸田内閣が掲げる政策の一つ「新しい資本主義」でスタートアップが非常に重要な要素として位置付けられているのもそんな理由からで、「日本の社会に潜む課題に挑戦し、テクノロジーを通じ未来を築くお手伝いがしたい」と語りセッションを終えました。

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