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アクセラレータープログラムが拓く、青森発イノベーションの未来——元 青森大学学長 金井一頼氏インタビュー(前編)

元 青森大学学長/大阪大学名誉教授 金井一頼氏

青森アクセラレータープログラムは、青森市が主催する「地域を活性化させる起業家の支援と青森市への事業誘致を目的とした起業家支援プログラム」で、2021年の第1期からは8社、2022年の第2期は9社が採択されています。第2期は、2023年2月に成果発表会(Demo Day)を開催し終了しました。

本プログラムでは、プログラムの運営開始当初から、この地域の起業家支援や環境に詳しく、2023年3月まで青森大学学長を務められた金井一頼氏に、プログラムや起業家へのアドバイスをいただいてきました。プログラム2期を経て、改めてこの地域の魅力や青森で生まれるイノベーションの可能性について、お話を伺いました。

【インタビュイー】
金井一頼 氏
元 青森大学学長/大阪大学名誉教授

元日本ベンチャー学会会長。代表的な著書に『ベンチャー企業経営論』(有斐閣)などがある。

【インタビュアー】
合田ジョージ
株式会社ゼロワンブースター 代表取締役CEO

01Booster は、青森市から委託を受け、2021年・2022年の2年間「青森アクセラレータープログラム」を運営していた。

元 青森大学学長/大阪大学名誉教授 金井一頼氏(右)と 01Booster 代表取締役 合田ジョージ氏(左)

——青森県は人口も少ないし、人々の考え方は都市部などと比べ保守的だと聞きます。そんな青森とイノベーションは、どこで結びつくと思われますか。

金井さん:他の多くの地域が一極集中であるのに対して、青森は青森市、八戸市、弘前市の三極が存在し、それぞれに特徴を持っています。それから、むつキャンパスを創設して分かったんだけど、むつは風土が違うんですよ。驚きです。

さっきもビーガンレザーの藤巻さん(「青森アクセラレータープログラム第2期」採択スタートアップのappcycle)と話したんだけど、彼は津軽の東青(青森市を中心に、東津軽郡の平内町、外ヶ浜町、今別町、蓬田村の1市3町1村を指す地域)出身なんですよね。

そして、今開発を担当している極檀さんは南部(青森県の東半分。八戸市、十和田市、三沢市、東北町、おいらせ町、七戸町などを指す地域)の出身なんです。青森は南部と津軽は、昔の因縁もあってか、緊密な交流は少ない感じがします。

むつは人口5万人ほどの小さな町だけど、戊辰戦争後に会津藩の人々がこちらへ来て開拓したわけで、その影響が残っているのか分かりませんが、むつキャンパスの学生って全然違う。まさに勤勉で、授業に向かう態度も全然違うのです。だからみんなむつキャンパスへ行くと気持ちいいと言う。

実は先日、むつ市に続いて下北にある4町村と包括連携協定を結んできて、これで青森大学は1市4町村全部と包括連携できた。青森県は政治が青森で経済は八戸、文化とか学問は弘前と、明らかに三極に分かれているんです。それに、むつ市下北には海洋開発機構等の国の機関があります。一極集中で困っている地域が多いけれど、青森は三極プラス1で、それぞれが異なっており本当はすごくいいと思うんですよ。 

<参考文献>
「むつ市と青森大学との包括連携に関する協定締結式」が執り行われました。(青森大学)

青森県の各地域(図は、青森県庁のホームページから)

——相乗効果は無いんですか。

金井さん:それがないんです。それが問題なんです。それぞれの地域が自走していくと離れていくじゃないですか。そのときに何かベクトルを合わせればいいんですよね。そうするとぐっと勢いがつくから地域のレベルが上がるじゃないですか。ところが、最初からまとめに入ると勢いがないからそこでまとまっちゃう。

このシナジーをうまく使うと本当にすごく面白い展開ができるのに、できていないんです。青森大学も基本的に八戸からの学生は非常に少ないんですよ。むつからも少なかった。だけど、むつにキャンパスができたら来るんですよね。今までは高等教育を受けたくても、諦めていた人たちがむつで学べるのだったら大学で学びたいということで大学進学者の底上げができてるんです。

——青森アクセラレーションプログラムでは、青森市長が積極的に外部と連携されているように思うんですが、青森県や青森市にとってのインパクトは大きいんですか?

金井さん:やっぱりそれは大きいですよ。うちは去年に、喜来さん(青森大学卒業生の喜来大智さん。後出のイグルーを使った観光事業の創業者)をプログラムに出しましたが彼にとってはインパクトが大きかったようです。県単位や市単位でやっても大きなインパクトを出すことは難しいかもしれない。

でも、アクセラレーションプログラムのような連携は、ただ単に手伝ってますよという感じでないところが良いですね。青森の人たちだけでなく、外の目(青森県外からの参加者)もビルトインされるわけだから、そこで学習効果を生むことを考えていけば絶対効果は大きいんですよ。内から見ただけでは今まで気付かなかったことも見えてくる。そこを青森が活かせるかどうかなんですよ。

活かせればすごいと思う。プログラム参加者にとってはどこでやってもいいんだけど、アクセラレーションプログラムがあったから青森まで来てくれたわけ。これは縁だと思うんだよね。青森にとってはセレンディピティです。セレンディピティを幸運とするかどうかは、これからの青森のやり方次第です。せっかく連携しようと言ったんだから、きっかけを与えてくれたんだから、連携を本当に実質化すればいい。そうすると面白いと思いますよ。

<参考文献>
青森の自然の魅力広める社会人に 喜来大智さん(22)(朝日新聞)

青森アクセラレータプログラム 第2期の成果発表会(Demo Day) Image credit: 01Booster

——金井さんから見て、青森の取り組みがブレイクスルーするには、何があったらいいと思いますか?

金井さん:やっぱり一つは、どうしても細かくまとまっちゃうんだよね。青森だけとか。今すごくソーシャルが流行りじゃないですか。あんまり目がぱっと開くようなものがない。やっぱり外からインパクトを与えないと駄目な部分があるから、今回みたいなものはすごくいい。外と内とか、分野や地域を越えて異質なものが繋がってくるとかなり違ってくるよね。

——むつは変わりそうなんですかね?

金井さん:ここは面白い。私が行って面白いと思ったのは、商工会議所の会頭を含め、現状を変えたいっていう人がいるんですよ。幕末のカルチャーを引き継いでるかどうかは知らないですが(会津藩が廃藩となり、藩士達が会津に移り住んだ)、会津って文武両道じゃないけど、本当に学問に対してそういうのがあるらしいんですよ。だから会津って勉強をよくするしね。

——むつって、小さな街ですよね。

金井さん:小さいですよ。そして、むつの1市4町村は結構まとまってます。広いんだけど、それぞれで支え合っている。

——むつの人たちは、会津から来た人たちの子孫もたくさんいて、文化を変えられたってことですかね?

金井さん:むつ自体に主な産業が見えないんですよね。そんなに産業はないんです。ただ彼らがすごいと思うのは、自分たちでここだけで止まって小さくまとまってても仕方ないだろう、もっと開いて大きく学んでいこうとしているところ。(全国や世界でなく)青森を目指しても仕方ないしね。やるために勉強しないと駄目だと思ってるわけ。面白いのはリーダーがこの本(金井氏の著書、「経営戦略(第3版)」有斐閣刊)が良いと言ったら、みんな読んでるんだよ。

——ベンチャー企業の数としては、青森県では、八戸や弘前に集まっているんでしょうか。

金井さん:ベンチャー企業がたくさんあるかと言うとそうでもないんだけど、面白いのは、八戸出身の大谷真樹さん(マクロミルが買収したインフォプラントの創業者)が八戸学院大学で学長を務めていた時にベンチャーを振興していたと聞きました。彼がフィリピンに学校を作って、そこと八戸とで連携しようということをやっています。私はちょうど入れ替わりで(金井氏が青森大学学長就任時)、大谷さんは退任してしまったんですけどね。

<参考文献>
【アジアで会う】大谷真樹さん インフィニティ国際学院院長(NNA Asia)

釜臥山から見た、むつ市の市街地 Creative Commons Attribution 3.0 Unported Photo by Snap55 via Wikimedia

——八戸はどうですか?

金井さん:事業承継イノベーションのときに、結構八戸の人たちの参加は多かったです。今まで事業をやっていて、イノベーションで何かを変えたいっていう人は意外に八戸が多いですね。八戸には何かがあると思います。

——弘前はどうですか?
元 青森大学学長/大阪大学名誉教授 金井一頼氏(右)と 01Booster 代表取締役 合田ジョージ氏(左)

金井さん:弘前はやはり学府ですね。あそこには大学が4つ(弘前医療福祉大学、弘前学院大学、弘前大学、柴田学園大学)あります。私も弘前大学の人文学部が最初の赴任地なんです。弘前ってやっぱり落ち着いた街なんです。産業がどうこうというよりは、昔ながらの老舗があって、伝統工芸があって。そういうのはやっぱり弘前ですよね。

弘前大学にも医学部もあるけど、薬学部はないんですよ。うち(青森大学)には薬学部がありますから、一緒に組んで「岩木健康増進プロジェクト」をやっていて、データを取ったりしています。例えばプロテオグリカンを使った健康食品を企業と組んでも作っていますよ。理学部や医学部があるということで、そういう意味では大学の研究をベースに事業をやるのには非常に強みがある。

<編注>
弘前市内には高等教育機関として5つの大学があり、その総学生数は約1万名。教職員数の約2,000名を加えると、弘前市の人口の約6%にあたることから、弘前市は全国的にも学園都市として評価されている。

弘前大学 Creative Commons Attribution 3.0 Unported Photo by Feri88via Wikimedia

 

——青森市はどうなんですか?

金井さん:青森市には公立大学があって、うちとかなり分野は重なっています。経済系・経営系ですよね。県立大は福祉系中心で保健関係もあるかな。あと中央学院大学はうちと大体同じです。青森市内は、技術系というより、アイディアベースのベンチャーはある感じです。

ベンチャーやってる人は結構います。例えば、青森で創業し、いまではデンマークをはじめとしてシンガポールやミャンマー等5カ国に現地法人を設立し、サーモンの養殖をデンマークで始め、その成果をもとに青森で起業した人がいます(日本サーモンファーム)。ただグローバル化してやってる人はそんなに多くない。もしかしたら、今回のアクセラレーションに参加した藤巻さんたちの会社はその可能性を秘めていると思いますね。

 

<後編に続く>

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