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アクセラレータープログラムが拓く、青森発イノベーションの未来——元 青森大学学長 金井一頼氏インタビュー(後編)

前編からの続き>

——他の場所から青森に進出するという観点では、農業とか水産業とかは結構面白いですよね。

金井さん:例えば青森のリンゴ。確かにリンゴそのものは高品質化して、それ自体がブランドとなってきました。ただ、それ以外のものは、例えばジュースとかパイとかそのぐらいですよね。今回のアクセラレーションプログラムにはビーガンレザーのスタートアップが参加してましたが、ああいう形でやっていけばいいなと思う。

青森のリンゴのパッケージでも良いしね。リンゴの運搬を省力化しようとしている東北大学のベンチャー(輝翠TECH)もそうですよ。そういうことをインとアウトをうまく使ってやると、おそらく青森のリンゴクラスターができますよね。そうすると結構いろいろあると思うんです。今回のプログラムにも出ていたくらいですからね。

これらをインテグレートすることでクラスターとして厚みを持って、青森県・青森市全体が厚みを持つ。ただ単に栽培して出荷するだけじゃなくて、横展開して海外進出とかも良いんだけれど、それだけじゃなくて(青森の)中でも産業の厚みを持つこと。それによって、農や水産といった1次産業が起点となり、多様な産業へと展開し厚みが増す産業構造となります。例えばカリフォルニアワインのクラスターだってハイテクばかりじゃない。

農業収穫用ロボットを開発する輝翠TECHの皆さん 輝翠TECHのホームページから

——青森市の人口が27.5万人、八戸が22万人、弘前が17万人、むつが5.4万人。 青森以外の地域から進出するとしたら、中小企業にとってはチャンスがあるんじゃないですか。

金井さん:そういったものを活かそうと思ったら、おそらくジェネレーションが変わるから。まさに事業承継イノベーションで、第2創業みたいな形で狙っていった方が、ダイレクトに(一から創業を)やるよりも可能性はあるし、ニーズもあると思う。

 

——まさに金井さんが支援されている、創薬ベンチャーとかはどうですか?

金井さん:創薬ベンチャーは本当に大変だけど、GMP(治験にできる創薬プロセス)が作れれば面白くなると常に思っていて、今は国頼みだね。それが出てきてGMPが作れる金が出てくればブレークスルーできるかなと思っています。

学長として大学をどうするかを考える中で、その一つが大学ベンチャーで。そんなに確率は高くないけど、でもやる価値はあると思って彼(青森ねぶた健康研究所所長 瀬谷司教授)を連れてきた。そして国から3年間の研究資金が出たので研究所を作ったんです。

そのインパクトがちょっと出て、少しずつ触発されてきた。やっぱり人材なんですよね。新しく来た力のある人たちは人を引っ張っていくんだよね。それは大いに結構だからやってくれと思っています。新しい人を招聘して、それを活用できるかどうかなんだよね。

青森大学の全景 青森大学のホームページから

——金井さんが、青森大学の学長に就任されたのが20184月ですが、それから5年の歳月が過ぎようとしています。もともと、研究者、教育者として活動してきた金井さんが学長になられて、青森大学をどのようにしたいと考えておられますか。

金井さん:私は来た時に3つのビジョンを掲げたんですよ。一つは「グローバリージョン」。グローバルってよく言うけど、それはどこかに中心があるような感じで、リージョン(地方)は単体では東京であってもリージョンの一つでしかない。だからグローバルとリージョンでグローバリージョン。

これは何かというと、外を見ることによって相対化して青森を見る。それによってイノベーションが出てくる。その起点が(青森大学の)東京キャンパスだったんです。東京キャンパスに留学生を迎え入れた。青森の人は大学で外に出たら、出た人は帰ってこない。だから大学のうちに行って、そこで青森を相対的に見れる目を養ってこいと言っています。あくまでも東京キャンパスは(青森にいる)青森大学の学生に向けて作ったんです。

それから、むつでは、高等教育を受けられない人もいるわけです。学校が無いし、青森は所得が低い。また、外へ出て行ったら帰ってこない。年間、大体1,000人ぐらいの卒業生が外に行くと分かったんですよ。それでむつにキャンパスを作っても何とかいけるなと思って計算して、入学者が15名だとはじき出したんです。そうしたらドンピシャで15名だったんです。今まで行けなかった人が行けるようになってきた。実際みんな勉強したいんです。その仮説が成立したわけです。

そういう形で教育をちゃんとすること。おそらく一番時間がかかるけど、地域を本当に再生しようと思ったら教育ですよ。できるだけ目覚めるような教育をしないといけない。それが一番大事です。しかし、これが難しい。教える側の先生が、なかなか変わらないからね。ですから、外部からいろんな人たちに来てもらって、1人でも2人でも目覚めてくれるかですよね。

01Booster 代表取締役 合田ジョージ

 

——青森の起業家、今後、起業しようとされている人々にメッセージはありますか。

金井さん:自分自身で、ワクワクすることをしないといけない。そして自立ですよね。他に頼って生きるんじゃなくて自立していけること。自立と自律の二つですよね。自分で意思決定をちゃんとすること。

私は、親が青森の学生をミスリードしているような感じがするんだよね。結構多いんですよ、話を聞くとね。失敗しないようにとすることが、逆に失敗しちゃうんですよね。そんな簡単に順調にいかない。この社会、何が起きるか分かんないじゃないですか。そのときに生きられるだけの知恵を持てるようにするのが教育だと思うんですよ。そこが一番のポイントです。

あともう一つ、いろんな人と会って、この素晴らしい人がこんなことをやってるのかとか、それを直接知ることは大きいと思うんです。私も今はこんな職業をやっているけど、いろいろな人から学ぶことは大きいですね。やっぱり出会いってありますよね。

私は出会いが自分の人生を決めてきたと思ってるんです。プランドハップンスタンス理論は、キャリアの8割は偶然の出来事によって形成されるという理論ですが、私の場合はもっと多くて90%ぐらいがハップンスタンスじゃないかと思う。

いろんなことをやって面白いなと思ってやってみたらいい人に出会ったり、この人と同じことやったら絶対駄目だなと思ったらちょっと違うことをやったり。彼と一緒にやってたら、余りにスーパー過ぎてとてもじゃないけど私は潰れちゃうと思ったら、関係性は保ちながら、彼がやらないことをやる。それが独自性で尖るということです。マーケットが小さくても最初はいいんです。

青森アクセラレータプログラム 第2期の成果発表会(Demo Day) Image credit: 01Booster

——青森に事業拡大したい人へのメッセージはありますか?

金井さん:私の大学院や大学のゼミ生、研究仲間と一緒に金井研究会というのを毎年やっているんだけど、そこに参加している人が東京で起業して、青森の素材を使って事業をしているんです。

おそらく青森には、まだまだネタがたくさんある。青森の人の目から見たらネタに見えない。でも外から見たら、ネタになるものってあるじゃないですか。ビーガンだっていろいろやってみたら結局リンゴがいいってたどり着くわけですよね。これだって普通はそうは考えないよね。青森の人は考えない。

例えば、これはまだビジネスにはなってはいないんだけど、イグルー(カナダの北部地域で使用される、狩猟の旅先で圧雪ブロックを使って作るシェルター)の世界選手権をやりたいと言って、イグルー作りをずっとやっている人(前出の喜来大智さん)がいるんです。フィールドツーリズムに活かそうと思ってね。青森は雪が多いので、外の目から見たら、それはめちゃくちゃ良いんですよ。

<参考文献>
青森の自然の魅力広める社会人に 喜来大智さん(22)(朝日新聞)

 

そういうのをうまく利用して、逆に困ってることを解決する。青森は都市の中で世界一の降雪量でしょう。北海道と積雪量は同じくらいですが、青森は雪が溶けて積もってを繰り返すので、合計の降雪量で言えば青森が世界一なんです。確かに住んでいる我々は大変ですよ。除雪をうまく計画的にやってくれると本当に違うしね。

例えば、除雪の技術は除雪以外にも使えるわけじゃないですか。いろいろな素材が伝統的にたくさんある。だから外の人の目から見たら、いくらでもビジネスチャンスが見えるはずです。

青森の中の人の視点からは、そういうのは見えてこないんですよ。結局同じものしか出ない。それで以前、『「非」常識の経営』(金井氏と、吉原英樹氏や安室憲一氏との共著。東洋経済新報者刊)っていう本を書いたんです。つまり「非」常識の経営というのは、イノベーション経営ということなんですよね。

 

金井さん、貴重なお話をありがとうございました!

元 青森大学学長/大阪大学名誉教授 金井一頼氏(右)と 01Booster 代表取締役 合田ジョージ氏(左)
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