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あなたの会社に休養室、ありますか?——三菱地所の新規事業「とまり木」その人気の秘密を聞いた

昨年末あたりから「2024年問題」として報道などでも取り上げられるようになった働き方改革への取り組みですが、猶予期間を与えられている建設業や物流事業者などを除き、一般の企業については2019年から適用が始まっています。これにより長時間労働における労使間の認識のズレや、障害のある方への合理的配慮が義務化されるようになりました。

時はまさにコロナ禍とも重なり、リモートワークの推進による環境変化や、働き方そのものの意識が変わっていった時期です。国内では経済産業省主導のもと、優良な健康経営を実践している企業を認定する「健康経営優良法人認定制度」がはじまり、2023年には大企業約2,300社、中小企業1万4,000社がその認定を受けています。

一方、働きやすい環境は人それぞれです。企業はどのような施策を通じてこの健康的な経営を実現することができるのでしょうか?その一つのソリューションとして、大手企業の中で新規事業としてチャレンジしている社員の方の活動をご紹介いたします。

あなたの会社に休養室、ありますか?

さて、みなさんの会社には休養室はありますでしょうか?大手企業の方であれば体調不良者の方に休んでいただく常設の休養室や、場合によって産業医が常駐されているケースもあるかもしれません。これは労働安全衛生法で定められているルールで、常時50名以上または常時女性30人以上の労働者がいる事業者には設置が義務付けられているものです。

しかし、すべての企業がそのような場所を万全に用意できるわけではありません。そこに着目したのがシェア休養室「とまり木」です。提供するのはその名の通り、会員企業同士でシェアして使える休養室。三菱地所の新規事業として2023年にスタートアップした本事業は、現在テストマーケティング中ながら有償での導入が進み、23社・3,000人の従業員を対象にサービスを提供するまでに拡大しているそうです。

設置義務でもある「体調不良者への対応」をするための機能(マイナスをゼロに戻すリカバリー)と、従業員の生産性向上に資する機能(ゼロからプラスに持っていくチャージ)の両方が叶うサービスを提供するとまり木。働き方の変化に伴ってワークスペースが変わる中、働く人たちの「休養・休憩」はどのように考えるべきか、三菱地所の新規事業として事業を担当されている三輪弘美さんにお話を伺ってきました。(文中の太文字は01Channel編集部による質問。回答はすべて三菱地所 運営事業部 運営統括ユニット 兼 新事業創造部 専任部長の三輪弘美さん)

【仮眠専用チェアやウォーターベッドが使える!】最高のシェアリング休養室「とまり木」は今すぐ駆け込むべし!(とまり木の紹介動画)

——まずはどのようなきっかけでとまり木を始められたのか、教えていただけますでしょうか

三輪さん:以前、若手社員と雑談している時に、体調不良時にトイレで休んでいる、という話を聞いたんです。別の社員は不妊治療の自己注射をトイレで打っていると。それっておかしくない?と感じました。会社には「休養室」が整備されているのに必要とする社員が使っていない。よくよく聞いてみると、「鍵がかけられており人事部への申請が必要だがハードルが高い」、「少し我慢すれば回復する」、「周りに知られたくない」など理由は様々…。分かったことは休養室が殆ど使われず、どの企業も形骸化しているという現実でした。人事・総務部はやるべきことが多岐にわたっている中、そんなことまで対応しているんだ、という気づきと共に安心安全に休める場所を提供し、それを企業間でシェアすれば、みんなが喜ぶのではと思いました。

 

このままいくと会社へのロイヤリティもなくなっていくんじゃないかという不安感もあって、やっぱりより安心して働ける場所だったり、もっと言うと健康に働ける場所をつくりたい、ディベロッパーだからこそ提供できるサービスがあるんじゃないかなと考えたのです。 また、とまり木の並びにはマッサージ屋さん、地下にはクリニックや薬局、屋上にはウォーキングできる環境があり、利用者の方のニーズに応じてご案内することもできます。丸の内、大手町、有楽町の街には数多くの機能が集積していますが、とまり木をハブにリフレッシュしながら街全体をくまなく利用したり楽しんでいただけるような、そんな提案もしたいなと考えました。

——なるほど、とまり木は三菱地所の新規事業として立ち上げられていますが、どのような流れでここまで来たのでしょうか

三輪さん:2022年度に三菱地所グループの新事業提案制度「MEIC(=Mitsubishi Estate group Innovation Challenge)」に応募しました。2022年度は64件の応募があり、その中から3件が三次審査を通過し、「とまり木」はその一つです。現在は、実証実験期間として位置づけられており、ここで結果を出せれば事業化に繋がるという流れになっています。

——現在、どのような企業が利用しているのでしょうか

三輪さん:もともと想定していた従業員50人以上の企業様に加えて、実は設置義務のない50人未満の会社様にも評価をいただいております。

 

当然ながら50人未満の企業様も、従業員の皆さんは体調不良になります。また、オフィスの面積がコンパクトなことが多く逃げ場が少ない、という背景もあり、現在トライアル契約中の23社のうち半数は50人未満の企業様になっています。 当初は同じビルの中じゃないとご利用いただけないのではと思っていたんですが、始めてみると隣接する前後左右、もう少し離れたところのビルからも賛同いただきトライアル契約をいただいてまして。企業様が抱えているニーズに対応できるのであれば、ある一定の距離があっても、需要があることがわかってきました。

——企業様によっては、オフィス内で会議室と兼用で休養室を用意されているケースもありますよね。一定の距離があっても需要があるのは意外でした

三輪さん:会議室と兼用されている場合、椅子を工夫すれば横になれるとは思います。でも、例えば妊娠中の女性は寝具がある環境でフラットになって休むことで悪阻やお腹の張りが回復するケースもあると思うのです。実際に「少し距離があっても、歩いて来てしまった方が結果ゆっくり休める」といったお声を頂戴しております。

 

ビルの中にあるのがベストではあるんですけれども、しっかりと安全安心に過ごせる空間があれば、多少の距離は苦にならないという方はいらっしゃいますね。

——健康経営優良法人認定制度もそうですが、社会全体としてウェルビーイングなどの取り組みに注目・関心が集まっています。そのような背景もとまり木に企業が集まる理由になっているのでしょうか

三輪さん:ウェルビーイング関連については例えば、健康経営優良法人認定制度のホワイト500を取得したけれども、実態として従業員にどういうメニューを提示するかっていうのが非常に悩ましいというお話をいただいたりもしています。

 

健康経営優良法人認定制度のチェック項目には運動器具やジム、運動場等を設置している、運動指導を行っている、という内容が入っていますが、とまり木と契約するとそのチェック項目を満たすことができます。 コンパクトな企業様も、中規模の企業様も、この場所が運動場であることを社員に知らしめて健康増進の機会を設けるということを望んでいらっしゃっていまして、すごくいい取り組みだと評価いただいています。

——実際、ちょっとした運動ができる場所もありますよね。そういった面も利用者の方にとってはメリットになっているのでは

三輪さん:とまり木にはトレーナーさんが定期的に来てくださっていて、トレーニングといいますか腰痛、肩こり、膝痛というビジネスパーソン特有の健康課題を解決する術をアドバイスくださっています。ここを利用することで整体に行かなくなった、毎朝ストレッチするようになり体調がいいと成果を感じてくださる方もかなりいます。また、体が疲れているときはマッサージチェアがありますし、睡眠不足でパワーナップしたいというときは仮眠専用のチェアがあります。そして、長時間労働で脳が疲労しているときに自律神経に働きかける施策もあります。

 

この先長く働いていくため、健康であり続けるためとはいえ、運動を継続することってなかなかハードルが高いですよね。コンスタントに、職場の近くで、短時間に気軽にできるというのがここの売りにもなっています。ワークスタイルの中にも織り込んでいただいて、職場の中でもそういった文化を醸成していくような活動にしていけたらなと思っています。

——職場の近くで短時間にできる休憩といえば、従来であればタバコ休憩やコーヒーを飲みにいくといった形でみなさん休まれていたと思います。とまり木はどのような利用方法が多いですか?

三輪さん:昼休みのランチ休憩と、残りの時間をうまく組み合わせてここでリセットして行かれる方が増えてきています。午前中は身体もフレッシュなので、14-15時、16-18時に山がありますね。ひと仕事を終えて、まさにタバコを吸いに行く感じでリフレッシュしたい、整えたいという感じでしょうか。マッサージチェアで体力を回復したり、ストレッチ、フットマッサージといった形で、心身ともにコンディショニングして戻っていく方もいらっしゃいますね。あと、重要なプレゼンや会議の前に仮眠チェアで15分だけ寝て、スッキリして向かわれる方もいらっしゃいます。

——すごい使い方ですね(笑)

三輪さん:リピーターで来てくださっている方なのですが、いろいろな悶々とすることを忘れてリセットなさっているのだろうなと思います。また、よく働いたご褒美で、1日の最後に仕事帰りで来る方もいれば、「今日は残業なんだよね」と、気合を入れるために来る方もいます。現代人の場合、働く場所も時間も自由になってきて、一方でパソコン仕事も増えているので、気分転換も含めて重要になってきているのだとも感じています。

——確かに、テレワークなどの普及で休む暇もない、という状況が発生していますよね

三輪さん:移動時間が減ったことで、その分予定を詰め込みすぎた結果、とても疲労していて逆に生産性が落ちてしまっているけれどもそれに気付かない…といったことが起こっているのかなと。疲れていないと思っていても、実は体は疲れている。ここで過ごしていただくことで、改めて気づかれる方も多いですね。

——年代としてはどのような方が利用されるのでしょうか

三輪さん:当初は40代が多かったんですけれども、最近の傾向としては20〜30代が増えてきたなという印象です。中には70代の利用者もいらっしゃって、「もっと若いときにこういうものがあったら」とおっしゃっていました。

 

定年延長でこれから高齢の労働者も増えるでしょうし、女性の労働者も増えてきています。そういった方々に運動と休息の場を提供することは大切なことです。また、障害者雇用枠が拡大される中で、多様性のある働き方をサポートできる施設にもなっていけるのではないかと考えています。

——これまでは、例えばマッサージに行ったりとか、別の方法で解消していたと思います。そう考えると働く人にとっては、福利厚生としてのメリットもありますよね

三輪さん:とまり木は個人がお金を払う施設ではなくて、企業が契約してその従業員の方々にご利用いただくという形をとっています。従業員数50人未満の企業で、正式価格が月額10万円(※)となります。契約企業の従業員の皆さまには、好きなだけ使っていただけます。フットマッサージやウォーターウェーブベッドなどもありますので、毎日通うことで週に1万円ぐらいかかってしまうものをシェアしているわけです。3月末まではトライアルをやっていますので、たくさんの方に使っていただいて、サービスを軌道修正しながらビジネスモデルを構築していく予定です。

※現在はトライアル料金で実施中

——少しお話を事業の方に戻して、新規事業立ち上げとなると苦労された点も多いと思います。特にこの部分は乗り越えた、というお話があれば教えてください

三輪さん:休養室の稼働率については悩ましく思っています。現在、23社・3,000人の従業員様を対象に用意させていただいていますが、休養室については4部屋あるものの利用者は週に3人いるかいないかといった状況で。でもこれは、健康で働いてくださっているから逆に使わないでいられるということ。事業として見るべき基準は、稼働率ではない、とも感じています。

 

この事業は企業が安心安全な職場環境をしっかりと持っている、それをシェアリングしているというところに価値があるので、そこをしっかり利用企業様と対話して納得いただけていると思います。今後メニューを増やすのかなど、提供価値については日々模索しています。

——いろいろな企業様がシェアをするので、企業間・利用者間のコミュニケーションも生まれそうですよね。企業間連携は一つの価値になるのではと感じました

三輪さん:そうですね。「皇居が近いので一緒に走ってくれる人を探したい」とか、「趣味がトライアスロンなので、掲示板とか作って仲間を募集できませんか」とおっしゃっていただくこともあるんです。ハードがあるからこそソフトを求めていただくようになってきたなと思っていまして、私もぜひこれからチャレンジしてみたいと思っています。

 

また、機器類のメーカー様に参画いただいて、未発売のものをここで置くなどの実証実験もしています。「ビジネスパーソンの反応、声を聞きたい」という企業様がいらっしゃいましたら、一緒にやれるような環境も整えていますので、お声がけいただければと思います。

——ありがとうございました!

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