生成AI×ビジネス、3人の識者が語った成功の現場〜01Booster Conference 2023
OpenAIの「ChatGPT」発表を皮切りに、2023年はジェネレーティブAIが世界を席巻しました。その例に漏れず、ゼロワンブースターキャピタルには大規模言語モデル(LLM)を活用したサービスを開発・提供するスタートアップから、出資の相談が増えた1年でした。誰もが注目するジェネレーティブAIと機械学習について、このセッションでは実際に活用する実践者を迎えてお話を伺いました。
登壇者は、MicrosoftでAIソリューション開発を推進する濱田隼斗氏、2017年にソフトバンク株式会社と米国のFindability Sciences Inc.との合弁会社であるFindability Sciences株式会社の代表取締役社長 兼CEOを務める小齊平康子氏、web3アプリケーション(dApp)のコア技術であるスマートコントラクトに特化したシンガポールのBunzzでCTOを務める高橋翔太氏。ゼロワンブースターキャピタルの取締役兼パートナー浜宮真輔がモデレーターを務めました。
Findability Sciences:部署横断で過去実績に基づいた事業計画作りを容易に
Findability Sciences株式会社は、高精度なAI予測や分析を実現するAIプラットフォームを展開しています。その代表を務める小齊平氏は、「AIは情報分析や複数のパターンで予測をすることが得意だが、AIが出力した結果を、そのままの状態でビジネスに活用するのは難しい」と語ります。
たとえば事業計画や予算策定、売上目標などを作成するとき。各事業部がそれぞれ順番にExcelに数値を入力していくようなやり方は非効率です。また、計画を作ることに精一杯で、現場の意思が反映されていなかったり、具体的なアクションに落とし込めていなかったりするケースもあるでしょう。
AIを活用すれば、過去の実績をもとにした予測値を、条件を変えて複数パターン算出することが容易にできます。経営企画部や各事業部が、ディスカッションするための土台を効率的に作成できるわけです。
小齊平氏:Findability Sciences株式会社は、AIで需要予測をする際、約40種類のマクロ経済指標もあわせて機械学習させることで、精度を高めた実績もあります。雨量が多ければ傘が売れるなど、ビジネスモデルと相関性の高い指標をAIが判定し、数値に反映します。最終的な妥当性のみ、人間が判断していきます。
Bunzz:web3の開発現場をAIの力で加速
2022年から2023年にかけて、web3市場は冬の時代と呼ばれていました。代わりに注目を集めたのがAIマーケットですが、AIとweb3は相性が良いことがわかってきています。AIに使われるデータの秘匿性をweb3技術が担保したり、逆にweb3が一般化するための障壁がAIによって一部取り除けたりすると期待されているからだと考えています。こうした開発環境を整えるために、Bunzzはブロックチェーンの開発を効率化するためのインフラを提供しています。
1つめは、スマートコントラクトハブです。スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上で事前にプログラムした動きを自動実行する仕組みのことで、web3アプリ(dApp)には必要不可欠なものです。スマートコントラクトハブは、開発者同士が簡単にスマートコントラクトをシェアして、ブロックチェーン上にデプロイする仕組みです。
2つめはAIを活用してスマートコントラクトを分析するサービスです。スマートコントラクトはプログラムとして事前に規定されているのですが、我々は、AIを使用してプログラムを解析し、その処理や規定内容を自然言語に翻訳するサービスを提供しています。このサービスによって、解読が難しい難解なコードの理解を助けたり、非エンジニアでコードが読めなくても内容が理解できる といった価値を提供しています。
さらに、3つめは社内に蓄積したデータを活かしたコンサルティングや受託開発サービスです。Bunzzのスマートコントラクトハブは世界中に15,000人以上の開発者をユーザーとして抱えており、彼らが公開した大量のスマートコントラクトや利用データが蓄積されています。それらを活用して、コンサルティングや開発の受託サービスを提供、新たなプロジェクトやアプリケーションの受託をしています。
高橋氏:このセッションはAIのセッションですが、我々は、AIを使ってコードで書かれているスマートコントラクトに対して詳細なドキュメントを作ったり、監査をして安全なスマートコントラクトなのか、安全なアプリケーションなのかを評価したりする事業をやろうとしています。2024年にはスマートコントラクトの監査をするサービスもリリースする予定です。
"AI版ライザップ"主宰者が見た、日本のAI活用の現状
濱田氏は外資系メーカー、アメリカの大学院、サンフランシスコのAI系スタートアップを経て、2019年からMicrosoftの Global Black belt Asia Pacific AI/ML Specialist を務めています。また、Microsoftの仕事と並行する形で、ビジネス人材がテクノロジーへの理解が深められる学習プログラム「Tech0(テックゼロ)」を運営しています。
濱田氏はこれまでに複数の会社で営業職や経営企画職を歴任し、それらに加え、テクノロジーを会得した経験を生かし、Tech0はAIを使ってビジネスで提供できる価値の幅を広げられるプログラムとなっています。濱田氏は、企業がAIを活用したソリューションを開発する中で、その取り組みには3つの方向性があると説明しました。
濱田氏:一つ目は従業員の補助ツールとしてChatGPTを展開する動き、二つ目は社内の情報を活用し、ジェネレーティブAIやマシンラーニングを組み合わせて業務を効率化する動き、三つ目がお客さま向けサービスの動きです。現在のところ、日本ではまだ一つ目や二つ目で止まってしまっている企業が多く、三つ目まで行けているところは多くありません。
一つ目や二つ目はコストを削減していく方向なんですが、三つ目は売上を増やしたり、新たなサービスを提供したりすることができる領域なので、ここに大きなチャンスがあるだろうと思っています。(Bunzzの)高橋さんがやられているのは、まさにこのような領域ですね。一つ目や二つ目の知見を元に、三つ目の領域に進むことが勝てる領域だと思います。
ジェネレーティブAIで変わる企業・職業
セッションでは、AIのルール作りに関する課題も取り上げられました。日本と海外では、ルール作りを背景に技術開発に取り組む姿勢について違いが見て取れます。諸外国ではイノベーションが生まれた後、国単位で規制に関する議論がなされますが、日本では国ではなく企業がリスクを避ける傾向が強く、これがイノベーションを阻む一つになっているというのです。
ChatGPTの使用を禁止する企業も存在しますが、中長期的には再考することが必要かもしれません。AIネイティブである現代の子どもたちから、AIを使わない大人に対して問われる時代が来るかもしれませんし、AIの存在を前提としないサービスは、長期的には消滅するかもしれません。AIの存在を踏まえた上で、新たな創造価値を考えることが重要になるでしょう。
一方で、我々の仕事はジェネレーティブAIの出現でどのように変化していくのでしょうか。
Findability Sciences株式会社の小齊平氏は、バックオフィス分野で、契約書の作成や確認などの知見が属人化している業務は、AIに代替される可能性があると予想しています。
小齊平氏:現段階で、ジェネレーティブAIで完璧な契約書を作れるかというと難しい。しかし定型的な文章に加え、どういう表現にするとマイルドにできたり、融通が利かせられたりするかなどの属人化しているナレッジをAIが学習するようになれば、作成業務は代替される可能性が高いと言えます。そうなれば、契約に関する交渉やどのような契約がベストなのかを判断できる人材の希少価値が、高まっていくでしょう。
Bunzzの高橋氏は自身の経験から、AIはエンジニアの業務を代替するのではなく、サポートする存在と考えています。現在では新しいプログラム言語が開発されましたが、その昔、パンチカードでプログラムを入力した時代や、機械言語に近いアセンブラを習得した時代もありました。AIが言語を書く時代が来てもエンジニアの仕事は本質的には変わらない、というのです。
高橋氏:AIがプログラムを書けるようになったところで、仕様を理解したり、仕様を自然言語に落とし込めるプログラマーの需要は変わりません。そう考えれば、(プログラマやエンジニアが自らプログラムを書く時代から)AIでプログラムを書いたり、AIで書かれたプログラムをチェックしたりする形に、エンジニアの働き方が変わるに過ぎないでしょう。
Microsoft/Tech0の濱田氏は、あらゆる職業がAIの影響を受けるだろうと語りました。基本的には抽象度が低い作業ほど代替が進む可能性が高い一方で、抽象度が高い業務や、AIが出力した複雑なデータを活用する仕事については、むしろ価値が向上すると予想しています。
濱田氏:ジェネレーティブAI時代の職業は、大きく分けて2パターンあります。まず情報をAIに学習させ、さまざまな選択肢を提示する職業。もう一方は、複数ある選択肢を絞りこんだり、最適なものを選んだりする職業です。今後は後者のような、選択肢を減らしていく仕事ができる人材の価値が高まっていくと考えています。
3人の話に共通していたのは、 AIが特定の作業を代替できるようになる一方、人が持つ専門知識や柔軟性がなお重要であるということでした。AIは定型的なタスクを担うものの、状況に応じて柔軟な判断や選択をするのが人であることは変わらないのです。新しい職業の形を定義し、それに適したソリューションを提示できれば、大きなビジネスに発展することは間違いないでしょう。