近鉄グループのCVCが描く未来像 ── InnoScouterで実現する情報活用の可能性
地域社会を支えるインフラ企業がイノベーションに挑戦する──。2018年、近鉄グループはコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)「近鉄ベンチャーパートナーズ株式会社」を設立し、新たな価値創造への挑戦を始めました。
スタートアップとのオープンイノベーションを推進する同社は、情報管理の基盤としてInnoScouterを導入。どのような課題を解決し、今後どのような可能性を見出しているのでしょうか。株式会社ゼロワンブースター取締役の川島健が、近鉄ベンチャーパートナーズ株式会社取締役足高寛俊さんにお話を伺いました。
風土改革を目指すCVCの挑戦
──近鉄ベンチャーパートナーズの概要について教えていただけますでしょうか?
足高さん:近鉄ベンチャーパートナーズは、近鉄グループのCVC運営子会社で、スタートアップの探索から投資検討、投資実行、投資後のモニタリングまで行う投資家としての側面と、スタートアップとのオープンイノベーション推進という側面の両方を持ち合わせています。
幅広い事業フィールドを抱えることが近鉄グループの最大の特徴ですので、特に領域は絞らず、幅広く情報を収集し、近鉄グループの経営資源とどのように融合すればシナジーが創出できるか、案件ごとに丁寧に仮説を検討しています。
──近鉄グループ、ひいては電鉄会社としてCVCに取り組む意義をお聞かせいただけますでしょうか?
足高さん:本質的には風土改革だと考えています。“きっかけ”を提供し続けることで、企業文化を変革していくことがCVCの存在意義ではないでしょうか。
CVC(Corporate Venture Capital)は、LP(Limited Partner、有限責任組合員)として出資したファンドを通じた間接的な投資や、外部のVCと共同で組成した二人組合ファンドからの投資、自社の本体勘定からのBS投資(直接投資)など、さまざまな投資形態があります。
近鉄グループがCVC子会社を通じたBS投資を選んだ理由は、「業界のことを本質的に理解するにはスタートアップと直接コミュニケーションを取ることが一番の近道であり、また彼らのスピード感に合わせるため、子会社によるBS投資を選択した」と足高さんはいいます。
──CVCチームを創るにあたっての課題はどのようなものなのでしょうか?
足高さん:CVC、特に直接投資スタイルのCVCキャピタリストは総合的な能力が求められます。投資の実務やファイナンス、法務などコーポレートに関する知識はもちろん、仮説構築に向けたビジネス分析能力や、協業実現に向けて社内調整力も必要です。
VCファンドほどの投資機会も無いため、投資スキルについては、勉強会やデューデリジェンスに補助としてコミットさせるなど、OJTを通じて定着を図っています。
一方、分析能力や調整力は一朝一夕には身に着きません。幅広いビジネス経験が無いとビジネスの勘所が分からないですし、協業を推進するうえでは、社内人脈の形成や、社内の動向もキャッチアップしておく必要があるので、新しいメンバーが馴染むまで相当時間を要する業界だと感じています。
また、大企業には定期的な人事異動があります。繋がりが大切な業界において、これをどう乗り越えてCVCを進化させるか、これは業界全体としての課題ではないでしょうか。
投資判断と協業の関係性
──現在、どのような領域のスタートアップを探索されているのでしょうか?
足高さん:トレンドはもちろんキャッチアップしていますが、領域は絞らず、ゼネラルなCVCとして活動しています。最近は、本業ど真ん中のソリューションより、ディープテックなど飛び地領域の情報も積極的に探索しています。
時計の針を5年くらい進めて、事業会社ではリーチし得ない情報を還元しないと我々の値打ちが無いですから。
──投資判断と協業の関係性についてはどのようにお考えですか?
足高さん:これは難しい質問です。仮説ドリブンで投資してから関係者を巻き込んでいくケースもありますし、その逆のアプローチもあります。また、投資したから協業が進む訳でもないですし、投資しなくても協業が進むケースもあります。
そういう意味で、本質的には両者は関係しないのかもしれませんが、投資するしないでスタートアップとのリレーションは大きく違うというのは実感としてあります。
InnoScouterによる情報管理の進化
──InnoScouterを導入された背景を教えていただけますか?
足高さん:元々Excelで管理していたのですが、案件が増えてくるとデータベースのアップデートが難しくなりました。また、担当者が人事異動で変わったときの案件の引き継ぎもうまくいかないという課題がありました。定期的に、約1,000件を超える案件を棚卸していたのですが、ハンドメイドの台帳では正直限界がありました。
──他のツールではなく、InnoScouterを選択された理由は?
足高さん:一番はカスタマイズのしやすさです。CVCとVCでは管理する項目も全然違います。また、会社によって管理したい項目も異なります。そういう意味でも、フォーマット化されたソフトウェアではなく、カスタマイズ性が重要だと考えていました。
また、なにより川島さんの存在が大きかったです。事業会社とスタートアップの双方について理解されている。やはり、ソフトウェアのプロダクトオーナーが業界知識を持っていない場合、どうしても実務面での使い勝手が伴わないことが起きがちです。その点、業界のことを理解している方が開発を主導されているソフトウェアということで、非常に安心感がありました。
グループ全体での情報活用へ
──InnoScouterは現在、どのように活用されているのでしょうか?
足高さん:案件管理とグループ各社への情報共有ツールとして活用しています。各社の担当者にアカウントを付与して、情報連携をよりクイックに行えるようにしています。
ただ一方で、InnoScouterのデータをそのまま展開するのではなく、グループ会社に紹介する前に、必ずプロダクトの概要や強み・特長をサマリー化するようにしています。
スタートアップから提供される何十ページもの資料をそのまま事業会社に共有しても理解が難しいですし、組織としてのアセット化することが重要だからです。
──導入後、業務に変化はありましたか?
足高さん:初期にテーブルをしっかりと作り込んだことで、案件登録にかかる時間が大幅に短縮されました。スタートアップ業界では、事業のドメインが変わるケースは日常茶飯事で、リマインドできるというメリットはあるものの、さすがに案件が増えてくると現実的ではありません。この点、データベース連携によってスタートアップの事業概要が自動でアップデートされるので、大きく改善されました。
以前はExcelで約1,000件のデータを毎年更新していたわけですから。
──今後、どのような機能があれば良いとお考えですか?
足高さん:協業仮説を組み立てることが、グループ会社に対してもスタートアップに対しても重要な価値提供だと考えています。
例えば、言語処理技術を活用して、スタートアップとの協業仮説を提示してくれるような機能があれば面白いかもしれません。最終的には自分たちでブラッシュアップする必要はありますが、初期的に手助けになるような機能があれば有用ではないでしょうか。
——それは面白いですね!足高さん、ありがとうございました!