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TIS 鈴木松雄インキュベーションセンター長と語る、イノベーションを起こすためにミドルマネジメントが求められることは?

ゼロから新たな事業を構築するイノベーション領域には、「生みの苦しみ」が伴うもの。往々にして、レガシーを持つ大手企業ほど、既存事業との資源投下のバランスに苦慮し、経営層の意志と現場の実情にギャップが生じがちです。主業である既存事業と両軸でイノベーション活動を進めるために、どのようなコミュニケーションや意思決定が求められるのでしょうか?

日本のITリーディングカンパニーとして、さまざまな産業・業種にデジタル技術を提供しているTIS株式会社では、2024年、新規事業提案制度「Be a Mover(BaM)」の運用が7年目に入りました。本プロジェクトを推進するのが、インキュベーションセンターのセンター長である鈴木松雄さんです。

本記事は、2021年からBaMの運営を支援する01Booster 代表取締役会長の鈴木規文との対談から、イノベーション推進にあたってミドルマネージャーが求められることや具体的なアクションのヒントをお伝えします。

右はTIS株式会社 インキュベーションセンター センター長の鈴木松雄さん、左は聞き手を務めた株式会社ゼロワンブースター 代表取締役 会長 鈴木規文

本業が優先されがちな中、イノベーションの価値をどう伝えるか

TISのイノベーション活動は、大きく分けて2つに分かれています。1つは、事業サイドによる顧客とのオープンイノベーション。もう1つは、経営企画やインキュベーションセンターなどを含むコーポレートサイドによる活動です。

鈴木松雄さんによると、コーポレートサイドの目的の半分は10〜15年のスパンで次世代の担い手を育てるという「人材育成」。また、社内のルールではなかなか手が出せない「飛び地」領域へのチャレンジが挙げられるといいます。

鈴木規文(以下・規文):今回は、企業の経営戦略におけるイノベーション戦略の位置付けや、それがどのように運用されているのか、松雄さんに色々とお話を伺いたいと思っています。

 

貴社では、本業と連動したイノベーションと飛び地も含めた広い視野を持ち長い時間軸で進めるイノベーション、両軸でやられているのですね。この両建てのイノベーション戦略は、トップマネジメントも含めて合意して進めているのでしょうか?

 

多くの企業さんにおいて、既存事業の収益を上げることに心を砕かざるを得ず、イノベーション領域の優先度が低くなってしまう状況を往々にして見かけるのですが。

鈴木松雄(以下・松雄)さん:はい、トップマネジメントも含めて合意して進めています。。ですが、TISでも課題を感じることがあります。営業を担う各事業部では、当然KPIを達成するために業務を最適化していますので、一番大事なのは「数字」を上げていくことですよね。すると、新規事業は余ったお金と時間でやりなさい、という構造になってしまいます。

TIS株式会社 インキュベーションセンター センター長の鈴木松雄さん

規文:どうしても組織のさまざまな決定や文化醸成は本業に流れがちではありますが、トップマネジメントは既存事業と中長期視野の両方が必要だと常に発信し続ける役割を担っているように思います。会社のマインドセットを変えるというのは、かなり大変なことですよね。

松雄さん:企業によっては「2割は新規事業に充てる」など企業のKPIにとらわれない領域をルールとして設定しているところもあります。ただ、現実としては多くの会社で、組織の7割は既存事業に向かっているのではないでしょうか。

規文:多くの会社はそうだと思います。そして、どの会社も期末になればKPIが重くのしかかって、7割が8割、8割が9割になるのではないでしょうか。そうなると、イノベーションを担うミドルマネジメントの役割として、本業を抱えている人たちに向けて「オープンイノベーションを忘れてはいけませんよ」と伝え続ける必要が出てきますね。

イノベーションは「ワイガヤ」から生まれる?

株式会社ゼロワンブースター 代表取締役 会長 鈴木規文

規文:特に、TISさんのような受託開発を行うシステムインテグレーター(SIer)だと、クライアントさんが提示する要件定義を真面目にしっかりこなすことが強く求められるはずです。そうした業界特有の文化背景があると、イノベーションがなかなか生まれづらいのでは、と推測します。

松雄さん:うーん、難しいですね。これは「人財」だと思うんですよね。イノベーションの定義にもよりますが、5000人くらいの会社はどこも新規事業が生まれてくる確率は同じ程度で、当社にもそういった人材がいると感じています。新規事業を生み出すには起業家気質が大事です。しかし、そのまま発芽する場合もあれば、会社に入ってからの文化で埋もれてしまう場合もあります。

規文:世の中には芽が出やすい会社もあれば、なかなか芽が出せない会社もあると思います。芽が出やすいと言われている会社は、どのような特徴があるとお考えでしょうか?

松雄さん:例えば営業系やクリエイティブ系の会社は他流試合の機会が多い、つまり他社の人材と会う機会が多いことは大きいと思います。人材とどれだけ会ったり、こだわりを持て対話するか。こだわりがあると世の中とかものに対して疑問が湧いてきます。こうした人は自分で問いを作り、それを仕事につなげていくことができるのではないでしょうか。

規文:そうしたイノベーションのマインドセットを50年と言う歴史時間がつむいでくれた日本のITリーディングカンパニー現場にインストールすることは、想像するより大変なことですよね。

松雄さん:これはミドルではなく一般的なマネジメントの話かもしれませんが、仕事の価値とか業務の進め方のスピードとか、同じ風景を見れる目線(ゴール)に立てても、何処を見るかと言う「フォーカス」合わせをすることが、一番苦労するのではないでしょうか。

 

応急的な対応は定例会議や1on1など対話のコミュニケーションでできますが、恒久的となると人財の育った環境や周りの環境が関わってきます。「右向け右」というワンマンなコミュニケーションは効果が薄く、みんなで一緒に経験する、一緒に泣いて笑って信頼関係を築く、という地道な積み重ねが大事になってくると考えています。

規文:確かに、私たち01Boosterで貴社をサポートさせていただく中でも、同じ体験や時間を共有することの大切さは感じました。これからも、どんどんいろんな人を巻き込んでいきたいですよね。

松雄さん:はい、私はイギリスの寄宿学校で学生時代を過ごしたのですが、周りに常に人がいて、先輩後輩の対話が生まれていた環境はすごく良かったなと思っています。自分が何をしたらいいのかわからない、どう考えていいのかわからない、という状況でも、みんなとワイワイガヤガヤしながら、それぞれ成長していくことができますから。

規文:僕も全くその通りだと思います。ホンダのような「ワイガヤ」をもっとやった方がいいですね。どんどん意見を出し合って、対話を発生させたいですね。

 

私は貴社の社員さんと接する中で、みなさん、しっかりお考えをお持ちであると感じました。経営者がワンマンな企業とは正反対で、非常に合議制がつよく民主的な会社だと思います。

 

でも日本においては、経営者がイニシアチブを取る企業の方がイノベーションを生み出している傾向が強いかもしれません。孫正義さん、藤田晋さん、柳井正さんなど……。そうなってくると、民主的な会社にイノベーションの風土を根付かせるためにはどうしたらいいのか、ということも重要なテーマではないでしょうか。

ミドルマネージャーの動き方で、大切なこと

松雄さん:私は「合義型」と読んでいますが、これは日本特有の歴史的背景が影響しているかもしれません。日本における民主主義って、「明治政府が主導をした富国強兵にはじまり戦後、みんなで国を強くしていくんだ」みたいな、「国策と言うか横並び」の意識がとても強い。ですから歴史ある会社においては、マネジメントラインがしっかりしていて、それで社員を適切に管理することが求められる傾向にある。イノベーションを持ち込むためには、そういう日本型企業の特性も加味していかないといけないですね。

規文:国内外のいろんな企業をご覧になってきた松雄さんだからこそ、多くの知見をお持ちだと思います。3年間、色々と試されてきたと思いますが、次はどんな一手が必要だと思いますか?

松雄さん:やはり、大事なのは永続的なトップからの声の掛け方と非連続的業務経験を現場にではないでしょうか。私はこの3年、新規事業創出に関するオペレーションを整えるために動いてきました。でも、マネジメントと、現場のインキュベーション支援の両方を抱えてしまうと、どうしても身動きが取れなくなってしまう。

 

今後も5年、10年という長期的な目線でTISのポートフォリオやストラテジーなど将来像を議論し、経営戦略の中でのイノベーションの立ち位置をより明確にするなど、さらに経営層と連携することに集中して動いていきたいと考えています。

規文:どのように社内の課題に対してよりイノベーションが拡大する手法を提案するか、例えば社内外の資源をどのように活用するか、こうしたことを経営陣に伝えるのもミドルマネージャーの役割です。

 

しかし、松雄さんのようなマネジメントとイノベーションの先導の2つを担うミドルマネージャーは、オペレーションを抱えるとそちらを見ることに引っ張られてしまいがちです。足元のオペレーションを優先させてしまって戦略的で革新的な取り組みが後回しになる、いわゆる「計画におけるグレシャムの法則」にはまらないことも大事になってきそうですね。

企業の垣根を超えて連帯するコミュニティの可能性

対談会場となった、TISインテックグループのオープンイノベーションハブ「TIS INTEC Group Innovation Hub(略称TIH)」。BaMのセミナーやイベント開催でも活用される、「ワイガヤ」の場だ。

規文:松雄さんを含め、マネジメント層は多くのジレンマを抱えながら課題に向き合っていますよね。一方で、現場は「白黒どちらか」ということを常に要求してくる。だから、ミドルマネジメントのストレスって半端ないと思うのですよ。

 

特にイノベーションの領域では、白黒はっきりつけられるものでもなく、全てが二項対立で存在しているわけでもない。否定されてナンボ、という世界でもあります。そうしたイノベーションの世界の雰囲気や物事の見方、捉え方を、皆さんにお伝えしてきたつもりです。

松雄さん:はい、是非。社内の人間よりも、社外の方から言っていただいた方が心に響くのですよ。ですから、01Boosterさんのお力添えは大変ありがたいです。

 

ただ、それには「繰り返し・永続」が本当に大事だと思っていて、本音を言うと、寝ても覚めても規文さんが横にいるくらいの感じにしたいですね(笑)。それこそ、本当に寄宿学校のような感じで。

松雄さん:あと、会社の垣根を超えて、ミドルマネジメントの連合みたいなものがあるといいな、と常々思っていたのですが、それを規文さん、一緒にやりませんか? 同じ「鈴木」のご縁で(笑)

規文:すごい案が出てきましたね! 確かに、企業さんたちのコーポレートイノベーション事務局同士での横のつながりは、とてもニーズがあるんですよ。

松雄さん:私のようなミドルマネジメント層が横の繋がりを作れたら、それぞれが自社の役員会に働きかけが必要な状況になった時、お互いに連帯できるかもしれません。そんな連合やコミュニティができると、とても嬉しいですね。

ミドルマネジメントである鈴木松雄さんとともにイノベーション推進に取り組む、TISのインキュベーションセンターメンバーの方々は、実際にどのような活動をしているのでしょうか。

TISの新規事業制度を運営する担当者のお二方にお話を伺いますので、ぜひご一読ください。
(2024年9月4日更新予定)

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