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「食品開発経験ゼロ」からCBDドリンクを作ったLeaflow——明治とスタートアップの共同作業はどう進んだ

Leaflow代表取締役・創業者の長森ルイさん

大手企業としては手を出しにくい領域だった——

そう語るのは明治で法務を務める長原秀祐さん。01Boosterで支援した明治アクセラレーター第一期の伴走者として、スタートアップとともに新製品の企画開発にチャレンジしたカタリストのお一人です。

みなさんはCBDについてご存知でしょうか?

CBDとはカンナビジオールという物質の略称で、不安やストレスを和らげたりする効果が期待される、世界的にも注目度の高い成分です。その一方「大麻草」から抽出されることもあり、取り扱いが難しい印象があることは否めません。

この新しい領域にどうチャレンジするか。その答えを求めたのが、スタートアップとしてプログラムに参加したLeaflowの長森ルイさんでした。長森さんは外資系企業でキャリア経験を経て子供服のEC「キャリーオン」を創業した連続起業家です。女性として、また母親としての視点も持ち、さまざまな社会活動にも参加されています。

長森さんはECなどの事業経験はあるものの、食品開発は今回が初めてだったそうです。しかしながらCBDの可能性に気づき「この可能性を広めたい」との想いから、1年の歳月とプログラムへの参加を通じて製品化に成功します。

「とにかくなんとかして形にしたい」。

今回、取材を通じて関係者のみなさんが口にした共通の言葉です。CBDという国内ではまだまだ未知の成分をいかにして製品化したのか。01Channel編集部では長森さん、そしてカタリストとして参加した明治の長原秀祐さん、事務局として関わった井野口萌さんへの取材を通じてその全貌をお聞きしてきました。

製品化できたCBDドリンク「Leaflow」のなぜ

製品化まで漕ぎ着けたCBDドリンク「Leaflow」

長森さんたちが形にしたのはこのCBDドリンクの「Leaflow」です。一口飲むと、柑橘とハーブのような香りが鼻を抜けてリフレッシュした気分を味わえます。甘ったるさはなく、スッキリとした飲み口で、気分転換のタイミングはもちろん、食事時間にも利用できそうな味わいです。そもそもCBDはどういったシチュエーションを想定しているのでしょうか?

——どういうタイミングで飲んで欲しいなどの想定から教えていただけますか

長森さん:おすすめのタイミングは、リラックスしたいときや寝る前ですね。お酒を日常的に飲む人は休肝日に利用してもらうとか、お酒を飲まない人は飲みの場でウーロン茶以外の選択肢として試してみると良いと思います。あとは会社のイベント時に、アルコールを出すのが適切でないタイミングでは、コップ一杯ずつ提供するというのもアリですね。コミュニケーションも促進されますし、みなさんがリラックスできるため、このような使い方もオススメです。

——では、ビジネス的な展開は

長森さん:やはりレストラン、それから法人販売ですね。レストランにについては、商品を置いていただくために営業活動を強化しています。レストランのノンアルコールドリンクのメニューに加えていきたいと思っています。特にノンアルコールの位置付けは重要ですよね。ノンアルを好む人が増え続けていますし。最初はノンアルの代替として、ノンアルコールシャンパンのような味を追求していたぐらいですから。ただ、甘みを極限まで抑えて作りたかったのですが、中途半端な商品になってしまい、ただのジンジャーエールを飲めば良いということに…。法人販売については、オリジナルラベル商品を小ロット100本から受注して、社内のイベント、パーティ、PRやノベルティなどに使っていただくことも訴求したいと思っています。

——明治アクセラレーターに参加してこれを製品化されたわけですけど、最初からこれを作ろうと決めていたのですか

長森さん:応募した当時はペット向けの商品を考えていたんですよ。ペット向けのクッキーが北米で伸びていることから、最初はペット向けのアイディアをメインで応募したんです。明治さんのグループ企業には動物向けの製品を出している子会社もありますし。

——それがどうしてドリンクに

長森さん:CBDを使って何か社会貢献になるもので、かつ、ペットライフを充実させ、クオリティオブライフが上がるという建て付けのもとに話を進めていたんですけど、メンタリングのディスカッションをしていくうちにやっぱり人だよね、ということになり。明治さんが「こういうものだったら売れる」「こういうものだったら売れにくい」という知見を非常にお持ちでいらっしゃるので、飲料がいいんじゃないですかね、というアドバイスをいただいてそこから飲料に絞って考えるようになりました。

——飲料や食品の開発経験はあったのですか?

長森さん:一切ありませんでした。経験ゼロで食品業界に足を踏み入れたことの恐ろしさを知るのはまだまだ後ですけど(笑)。私が経験していたのは、B2Cの分野です。以前は「キャリーオン」という子供服のブランドでスタートアップを立ち上げた経験があり、そのプロジェクトはほとんどゼロから構築したものでした。なので、ECはできますが、食品業界はまったくの未知の世界でしたね。

——CBDに着目した理由は

長森さん:誰かが感じる些細な不便を解消するサービスを提供したいと思っていました。ECで取り扱える商品を考える中で、アメリカ人の友人から紹介されたCBDがその答えかもしれないと感じて。

 

食品開発経験ゼロからのドリンク作り

カタリストメンバーとのディスカッションを通じてアイディアをピボットし、ドリンクに絞ることを決意した長森さん。食品開発経験ゼロというハンディキャップも、持ち前の度胸とこれまでの経験を武器に周囲をどんどん巻き込んでいくことになります。

カタリストとしてLeaflowに伴走した明治の長原さん
——全く食品開発経験ゼロだったんですよね。まずはどこから手をつけたんですか?

長森さん:まず原料の会社を探すところからですね。夏のアクセラレーターが始まる前には大体の目星をつけていた原料会社があって、これはすべてコールドコールで探したところです。その後、OEM先を探す必要が出てきて、これもコールドメールで一斉に連絡を取り、2〜3の候補が出てきました。しかし、自分たちで見つけたところは小ロットを受けてくれるものの、生産コストが非常に高いところばかりでした。

——カタリストのメンバーからはどのようなアドバイスがありましたか

長森さん:「この原価と製造費では絶対に無理です」と明治さんからお説教いただきましたね(笑)。食品の適正な原価について教えていただきつつ、たくさんのメールの中で一つだけ、トンボ飲料さんというところから「お話を聞いてみましょう」という返信をいただけたんです。

ただ、このトンボ飲料さんって本当だったらうちみたいなベンチャーがお願いできる生産ロットじゃないんですけど、明治さんと元々お取引があったんですよ。トンボ飲料さんがお返事くださいましたって言ったら、明治さんから次のミーティングには我々も出ますからと言ってくださって。

そうすると予想外の化学反応が起きて。トンボ飲料さんも明治さんが応援しているならと熱心に聞いてくださいました。また、ユーザーインタビューを取ろうと提案した際、明治さんの社内には何百人もの対象者がいるので、すぐにそれを実施してもらったり、社外でデプスインタビューを取ろうとした際には、豪華なお菓子の詰め合わせセットがあるんですけど、それを謝礼として使用しても良いとサポートしてくださったり…。いろいろありましたね。

——とても気になるのがこの独特のフレーバーですよね。どのように試作したんですか

長森さん:明治さんのもう一人のカタリスト、藤原(杏奈)さんが研究所の方なので、最初の試作品は藤原さんに何パターンか作っていただきました。一番最初はグレープフルーツやレモンなどのバリエーションだったんですが、結局グレープフルーツが一番合うねという話になって柑橘系に落ち着きました。ここから絞り込んだ形ですね。ちょうどOEM先がトンボ飲料さんに決まりました、ベースの調合が研究所のおかげで決まりましたっていうところで、アクセラレーターが終わったんです。

——なるほど、やはりそういう部分では明治さんは勝手がわかっているから手引きしていただいたんですね

長森さん:本生産のための味を作るんですが、まずは明治さんの研究所で作ったベースの調合を参考に、、飲料のプロとしておすすめの味を作ってください、とお願いしたんです。そしたら出来たものが、発酵リンゴ果汁を使ったもので、今でも忘れないんですけど史上最高に美味しかったんですよ。

——さすがですね。ただ、今、私が試飲させてもらったものと味が違いますよね

長森さん:本当はあれで商品化したかったんですけど、原料の注文単位がものすごく多くて…。トンボ飲料さんは味優先でそれを提案してくださったんですけど、いや、ちょっと無理ですと…。

——そこを乗り越えた

長森さん:ここで出てきたのが、「代わりの香料をどう選ぶか」という問題ですね。単に「レモンを代わりにして美味しいものを作ってください」と言っても、レモン香料だけでも何百種類も存在するんです。それでトンボ飲料さんから香料会社を紹介してもらい、柑橘系で予算は1本あたりこれぐらいまで…といった条件をお伝えしました。

莫大なロットでなくても買える香料で、いくつか提案いただけませんかと言ったら、再び50種類以上も出てきました(笑)。その10数種類から試飲し、3種類ぐらいに絞りました。ただもうここからは素人の判断には限界がありましたので、シェフの方と契約を結んで、選び出したものをトンボ飲料さんに戻し、0.5%刻みで配合を変えていただいて試作、また試作、このプロセスを繰り返して…。完成には約半年かかりました。

——こういった場合、トンボ飲料さんも香料の会社さんもコストがかかってますよね。こういった費用はスタートアップとして負担するには大変のように思いますが

長森さん:最終的に製品が完成したらトンボ飲料さんから発注する形になるんですが、トンボ飲料さんは本当に良い方で、「なるほど、ここは人間関係なんだな」と改めて思い知りましたね。「ここまで苦労したから、どうしても世に出したい」と考えていただけるようになって、私も頼み込みながら手伝っていただきました。

——創業者の力ですね。めちゃめちゃ面白い。一方で明治さんも大きな稼動がかかっていますよね。今回の取り組みを通じてどのような効果や期待があったと思われますか

長森さん:やっぱり人材育成、経験という面が大きかったのではないでしょうか。担当してくださった方は今でも非常に仲良くしているんですけど、大企業の中にいただけじゃ見えなかったことがすごくお見えになったみたいです。例えば以前グミを作ってくださった事があったんです。さらっと作ってみました、と持ってきてくださったものが普通に美味しくって。世に出てるCBDグミって美味しくないんです。

これどうやって作ったんですか?ってお聞きしたら『いや普通に作った』みたいな感じなんですよ。その美味しいものを『普通に作れる』ってすごいことなんですよっていうのは、こういう機会でなければ気が付かないことなのかもしれませんね。

——なるほどありがとうございました。引き続きの成功をお祈りしています

 

Another View

明治アクセラレーターのカタリスト・長原さんと事務局・井野口さんにも振り返っていただきました。


長原さん:アサインされた時は予備知識がなかったので、早速藤原さんとCBDカフェに入って試したんです。効き目に驚きながら、面白い素材だな、爆発する可能性があるなと興味を持ちました。

私は法務、藤原さんも基礎研究のスペシャリストなので、商品開発は初めてで。でも、カタリストは明治社内にいるプロに繋ぐことも仕事です。なので、試作品のグミなどは研究所のグミ担当にお願いしたり、商品開発やマーケティングは他のカタリストに講義してもらったりしました。自分自身でも勉強して、やりながら覚えていきましたね。「商品開発ができてマーケティングができる法務担当」ってなかなかいないですよね(笑)。

当時は死ぬほど忙しかったですし、大変なこともありましたが、楽しかったですね。その経験があったから、会社についても、世間についても、今まで見えなかったものが見えるようになって、自分の幅が広がったと感じています。

長森さんは、お持ちの人脈がものすごくて。皆、長森さんに惹きつけられていると思います。自分も実は、今もプライベートで味決めに参加したり、マーケティングについて話し合ったり、時に契約書をチェックしたりもしています。「終わらないアクセラ」ですね(笑)。

井野口さん:長森さんのパワーと熱意がものすごくて、だからこそ皆が「何とかして形にしたい」と思って、あのスピード感で進んだのではないかと思います。

CBDについてはLeflowさんを採択する前から知っていて、気になっていたのですが、手が出しづらい領域だとも感じていました。そこに長森さんがドン!とやってきて。我々も惹きつけられた一人なのかもしれません(笑)。「何か巻き起こしてくれるんじゃないか」という期待があったのではと思います。


コメントありがとうございました!

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