事業創造に関わるすべての人に

メルマガ登録

オープンイノベーションへの入門と実践知からの学び ―企業とスタートアップが、ともに新しい事業をつくるために ―

2026年8月6日
岡山大学 共創イノベーションラボ KIBINOVE

企業とスタートアップが出会えば、それだけで新しい事業が生まれるわけではない。まず必要なのは、自社がどのような未来をつくりたいのかを描き、その実現に足りない技術や知見を見極めることだ。2026年8月6日に岡山大学 共創イノベーションラボ KIBINOVEで開催された「スタートアップ HARE-RISE プロジェクト オープンイノベーションプログラム キックオフイベント」では、協業を一過性の出会いで終わらせず、事業として実装するための条件が語られた。

岡山県が主催する本プログラムは、県内企業の課題解決や新規事業創出をスタートアップが支えるルートと、スタートアップの試作・プロトタイプ製作を県内企業の技術で支えるルートの二方向から、協業を後押しする取り組みだ。製造業を中心とする産業集積と、大学・研究機関などの地域資源を、次の事業へどうつなぐか。その入口となる場に、県内企業、スタートアップ、支援機関などが集まった。

    講演には株式会社ゼロワンブースター 代表取締役の合田ジョージが登壇した。続くトークセッションでは、株式会社浜野製作所 代表取締役会長の浜野慶一氏と、ダイヤ工業株式会社 DWP本部 本部長の﨑川健太氏が、自社の変化と協業の現場で直面した課題を率直に語った。議論の中心にあったのは、「誰と組むか」より前に、「何を実現するために組むのか」を問い直すことだった。

【講演パート】
株式会社ゼロワンブースター
代表取締役
合田ジョージ

― そもそも新規事業はなぜ必要か。その実現手段としてオープンイノベーションをどう位置づけるか ―

「オープンイノベーションは、それ自体が目的ではなく、新規事業を実現するための手段である。」
― 株式会社ゼロワンブースター 代表取締役 合田ジョージ

合田は、新規事業が必要とされる理由を、事業や産業に成長と縮小の波があることに求めた。しかし、その役割は将来の売上をつくることだけではない。新しい顧客や技術、考え方に触れることで、既存事業にも変化をもたらす。新規事業は、会社に「新しい空気」を入れる機会でもある。

そのうえで合田は、外部連携ありきで相手を探すのではなく、まず、自社が既存領域を深めるのか、隣接領域へ広げるのか、これまでと異なる領域へ踏み出すのかを考えるべきだと述べた。目指す事業が定まって初めて、自社に足りないものと、外部に求める役割が見えてくる。

また、顧客が言葉にできていない課題を捉えて提案する「良いプロダクトアウト」の考え方や、既存の事例を学び、異なる技術や仕組みを組み合わせることの重要性にも触れた。新規事業は、何もないところから突然生まれるものではない。顧客の困りごと、自社の強み、世の中にある仕組みを丁寧に組み合わせることから始まる。

「自立」とは
自社だけで抱え込むことではない

合田は、「自立」をすべて自社で行うことと捉える必要はないと語る。むしろ、頼れる相手や依存先を複数持ち、必要に応じて組み合わせられる状態こそ、変化に強い。既存事業と異なる領域へ進むほど、自社だけでは技術、顧客接点、人材、スピードのどこかが不足する。外部連携は、その不足を補う手段として、すでに特別なものではなくなり、事業づくりの前提になりつつある。

「自立とは、周囲に頼らないことではなく、依存先を複数持つことだと考えられます。」
― 合田ジョージ

ただし、何でも外に求めればよいわけではない。自社が担うべき中核は何か、どこをパートナーに委ねるのかを決める必要がある。岡山に蓄積された加工、縫製、設計、試作、評価などの技術も、単独の企業内に閉じていれば活用範囲は限られる。企業や業界の境界を越えて組み合わされることで、新しい価値を生む地域の資源になる。

【トークセッションパート】
株式会社浜野製作所 浜野慶一氏
×
ダイヤ工業株式会社 﨑川健太氏

― 外部連携に踏み出した原点と、協業を実装まで運ぶために必要な条件 ―

「できない」で終わらせず、できる仲間と組む

浜野氏が外部連携へ踏み出した原点にあったのは、オープンイノベーションという言葉ではなかった。父から継いだ町工場が火災に遭い、会社の存続も危ぶまれていた頃のことだ。車椅子を使う5歳の娘と、もう一度手をつないで歩きたいという父親から、リハビリ機器の相談を受けた。部品加工を中心としていた当時の浜野製作所にとって、経験のない依頼だった。それでも知恵を絞って形にし、家族から多くの感謝を受け取ったことで、「ものづくりで人の希望や未来に応える」という仕事の価値を再発見したという。

その後、浜野製作所は、頼まれた部品をつくる受け身の仕事から、企画・開発を提案する企業へと変化した。顧客数は当時の4社から約6,800社へ広がった。現在はスタートアップの開発支援、大学や大企業との共同開発、場の提供、人材交流など、多様な連携を担う。自社でできない相談に対して、できないことを曖昧に引き受けるのではなく、実現できる企業や専門家につなぐ。その積み重ねが、結果としてオープンイノベーションになった。

「自社ではできなくても、できるところと組む。強みを持つところと一緒になることで、今まで見えなかった景色を見に行けます。」
― 株式会社浜野製作所 代表取締役会長 浜野慶一氏

岡山に本社を置くダイヤ工業も、外から寄せられる「こんなものがあれば」という声に応えようとしたことが、連携の出発点だった。
同社は、い草のサンダルづくりで培った縫製技術を基盤に、コルセットやサポーター、アシストスーツへと事業を広げてきた。
さらに、岡山大学の研究シーズを活用した人工筋肉や、歩行を支援する製品の開発にも取り組んでいる。﨑川氏は、オープンイノベーションを始めようと決めたわけではないと振り返る。
自社だけでは実現できないニーズに早く応えるために連携を選び、その結果として新しい取り組みが生まれた。

スタートアップだけが得をする連携は
フレンドリーではない

一方で、連携を持続させるには、善意だけに頼らない設計が欠かせない。浜野氏は、若いスタートアップから頼まれた町工場が、通常業務の後や休日に対応し、十分な対価を得られないまま疲弊する例に言及した。スタートアップにとって便利な環境を整えるだけでは、地域の技術を担う企業は残らない。

「スタートアップだけでなく、町工場や地域経済にも利益が生まれ、三方よしになって初めて『スタートアップフレンドリー』と言えるのだと思います。」
― 浜野慶一氏

新しい事業をつくる主体は、スタートアップだけではない。既存事業や技術を持つ地域企業からも、新しい挑戦は生まれる。協業によってスタートアップの成長、地域企業の収益と人材、地域経済の循環がともに生まれること。その関係を最初から描くことが、単発の試作や受発注を、持続可能な共創へ変えていく。

引き合わせた後に詰まるのは
目的・時間軸・資金のずれ

マッチングは協業のゴールではなく、スタート地点だ。﨑川氏が連携の難しさとして挙げたのは、時間軸と文化の違いだった。互いに伝えているつもりでも、スタートアップが求めるスピードに、事業会社内の合意形成に必要な時間が追いつかない。目的が近くても、進め方の前提がずれていれば、期待した結果には届かない。

「相手がやりたいことと、こちらがやりたいことを話し合い、出発点で前提をそろえることが大切です。」
― ダイヤ工業株式会社 DWP本部 本部長 﨑川健太氏

資金の認識にも同じことが言える。浜野氏は、開発に1,000万円から2,000万円ほど必要と見込まれる相談に対し、相談者が用意できる予算は80万円だった事例を紹介した。そこで単に断るのではなく、事業計画、資金調達、仕様策定、予備設計といった、どの段階から関わる必要があるかを整理したという。

協業を前に進めるには、つくりたいものだけでなく、何のためにつくるのか、いつまでに必要なのか、誰が意思決定するのか、どこまで予算を確保できるのかを早い段階で共有しなければならない。技術の相性だけでなく、事業の目的、時間軸、資金、責任分担をそろえることが、実装までたどり着くための条件になる。

協業を目的にせず、実現したい未来から始める

イベントの最後に﨑川氏は、「オープンイノベーションをしよう」と考えることから始めるのではなく、自社の未来を考えたときに実現したいことや、つくりたい世界を起点にしてほしいと呼びかけた。その実現を早める手段として協業が必要なら、社外へ踏み出せばよい。

岡山には、多様なものづくり技術と、長く地域で事業を続けてきた企業がある。そこにスタートアップの発想、大学の研究シーズ、支援機関の伴走が重なれば、一社では見えなかった事業機会が開かれる。大切なのは、マッチング件数ではない。双方が価値を得て、地域に技術、人材、収益、次の挑戦が残る協業を一つずつつくることだ。

HARE-RISEは、「晴れの国・岡山」と、スタートアップの成長を表す「RISE」を重ねた名称である。本キックオフイベントは、地域の強みを持ち寄って実現したい未来へ向かうための第一歩を、事業づくりの具体に踏み込んで考える時間となった。

プログラム参加企業・スタートアップを募集中

募集期間は2026年8月6日から9月15日まで。県内企業とスタートアップの双方を対象に、協業相手の探索から実証・試作までを伴走支援する。

詳細・応募:岡山県「スタートアップ HARE-RISEプロジェクト オープンイノベーションプログラム」HP

facebook twitter line
記事のタイトルとURLをコピー コピーしました コピーに失敗しました