VTuberとエンタメ企業の共創はどう実現した:KONAMI ACCELERATOR 2023 対談
コナミデジタルエンタテインメント(KONAMI)と01Boosterは昨年10月、スタートアップ支援プログラム「KONAMI ACCELERATOR 2023」の成果報告会(デモデイ)を開催しました。「Road to a New Experience.」をテーマに、 KONAMIとスタートアップが連携し、エンタメ領域における新しい価値を創造する取り組みです。採択企業には約5カ月間、KONAMI社員がカタリストとして伴走し、エントリー総数151件の中から採択された5社がその成果を発表しました。
このインタビューでは、プログラムにカタリストとして参加したコナミデジタルエンタテインメントでアシスタントプロデューサーを務める大竹健太さんと、その伴走先として協業を進めるVTuber推し活アプリ「my dear.」を開発・運営するany style代表取締役、萩原湧人さんのお話をお届けします。
今回のプログラムをきっかけに両社は昨年9月、東京ゲームショウ2023のKONAMIステージで新たなVTuberのデビューを公表。any styleのVTuberノウハウとKONAMIの制作技術が融合した兎埜ラパン(うさの らぱん)と狸坂マミリス(たぬきざか まみりす)、猫松フェリィ(ねこまつ ふぇりぃ)の三人を新たに世に送り出しています。
さらにプログラム終了後も協業は続き、昨年12月にはany styleとKONAMIのコラボ企画として「スーパーボンバーマンR2」を舞台としたゲーム大会「my dear.CUP」を企画。個人VTuberを中心に企業案件をつなぐ「my dear. nest」の第一弾企画としてさらなる協業を加速させています。協業はどのように進んだのか、お二人にその裏側をお聞きしました。(文中の太字は01Channel編集部による質問)
「直感で応募した」エンタメ企業との共創
KONAMIと自らが手掛けるVTuber事業の相性は絶対によいはず——。KONAMI ACCELERATOR 2023のプログラム開始をみて「迷うことなく」参加を決めたという萩原さん。現在、VTuber市場全体の熱気も手伝って企業案件が数多く舞い込んでいると、現状について次のように説明をしてくれました。
——改めてany styleの事業について改めて教えてください
萩原さん:弊社はVTuberの関連事業を手掛けるスタートアップとして3つの事業をやっています。1つ目は自社のプロダクション事務所でタレントが所属しております。次に「my dear.」というアプリも開発しておりましてすごく簡単に言うと、VTuberさんがファンの方々から「推し活」をしてもらえるサービスになっています。機能としては、投げ銭の形でファンレターを提供できたり、実際に推しVTuberと通話ができたり、サブスクリプションのメンバーシップも実装しております。
3つ目として、昨年の12月に「my dear. nest」という事業を立ち上げまして、こちらは所属タレントではなく外部の個人VTuberさんたちを集めてネットワークを作っていこうという事業になっています。最近はいろんな企業案件も提供しています。
VTuberさんたちのネットワークを構築しながら、その中で企業様のニーズに合うような方をキャスティングしていって、そこで企画として回していく感じです。運営のオペレーションもほぼ我々がやっていて、例えば直近ですと、ライブコマース案件で食材などの商品があって、それをVTuberさんに宣伝してほしいといった依頼が増えてきています。
——VTuber市場ってここ数年とても伸びていますよね。手応えはいかがですか
萩原さん:VTuber事業では「にじさんじ」のANYCOLORさんや「ホロライブ」のカバーさんが上場して事業決算も度々上方修正するなど、わかりやすく伸びているマーケットになっています。その2社を筆頭にマーケット自体が拡大した結果、個人VTuberさんも増えている状況ですので、我々はそこを狙っていきたいです。
ニーズとして最近すごく感じるのは、これまでアニメのタイアップや大きなIPとコラボしてきた企業さんが多いんですけども、もう少しミニマムにトライアルしてみたいというリクエストですね。我々が狙う、VTuber特化のマイクロインフルエンサーのマーケットニーズです。
この加熱するVTuber市場で奮闘する萩原さんをKONAMI側で支えたのが大竹さんです。普段はゲーム制作部門でプロデューサーとして活動する大竹さんは、かねてからスタートアップとの交流などもあることも手伝って、社内でプログラム伴走者(カタリスト)の公募をみて参加を決めたそうです。
——any styleさんのプロジェクトに興味を持った経緯は
大竹さん:「やりたいところないですか?」っていうふうに(事務局から)話をいただいて、オタク的な趣味も活かせるかなと思って、「any styleさんのカタリストをぜひやりたいです」とジョインしたのが経緯です。私自身もVTuberコンテンツを楽しんでいるため、お客様の趣味嗜好みたいなところを肌感で理解していたところもあり、ジョインした直後から色々な話を進められたという印象でした。
——萩原さん的にどうでした
萩原さん:私たちがお願いする前なのに、とても高い熱量で『あったらめっちゃ嬉しい』ものをたくさん作ってきてくれました(笑)。私は大手での勤務経験がないので、企画の作り方とか、そこはもう全部いろいろ教えていただいてですね、すごく助かりました。
共創で手にした手応えと意外なハードル
冒頭にも書いた通り、両社は共創の結果として3人のVTuberを東京ゲームショウ2023(TGS2023)でデビューさせることになります。特にこのTGS2023の反響は大きく、any styleに所属するVTuberたちがこのTGS2023の登壇枠をかけて争奪戦を行う企画では、事務所内の過去最高同時接続数とコメント数を記録したのだとか。
VTuberという日本発となる独自文化の「うねり」が大手企業との連携で一気に高まりを見せる。そんな様子を二人は次のように語ります。
——ところでVTuberって世の中に何人ぐらいいるものなんですか
萩原さん:推定でおよそ2万人ぐらいいらっしゃるそうなので、ひとつの市町村ぐらいの規模ですね。さらに「IRIAM(イリアム)」や「Reality」にいらっしゃるVライバーの方々を含めるとさらに数十万人の規模になるはずです。
海外にも人気がでていて、キャラデザ自体は案外日本と変わらないんですよ。そもそも文化自体が日本から始まったものなので、「ペルソナ」自体は本当にアニメファンと近いんです。実際、USのアニメコンベンションに参加しても、半分ぐらいのコンテンツがVTuberに関連したものになっていて、おそらく従来のアニメファン層と重なっているんですよね。
——日本だけじゃなく海外の方々も参加できるプラットフォームになる可能性がある
萩原さん:まさにやっていこうとしているところです。自然には広がらないので、腹を括って海外展開をしなきゃいけないと思っていて、周囲からも『やるなら本気で早くやらないと』と言われています。
——一方、伴走する側として企画の肝になる部分はどのように考えられましたか?
大竹さん:今回の「ボンバーマン」大会に参加される方が個人で活動されているVTuberさんが多いということもあって、なるべく負担を減らしたいという思いがありました。例えば大会参加者にソフトを無料でご提供するなど、参加のハードルをなるべく下げるようにしました。
企画自体の進行に大きなハードルはなく、any styleさんも既に大規模なゲーム大会を実施されていた実績やノウハウもお待ちだったので、敢えて言うなら、KONAMIとしては展開をやりやすいよう、パッケージ化したぐらいですね。
——「TGS2023」でデビューした3人も今回の「ボンバーマン」の企画には参加されるんですよね。新たなコラボレーションですが、現在どのような状況ですか?
萩原さん:そうですね、大変ありがたいことに多くのVTuberの方々から応募がありましたが、今回の企画への参加は40人ぐらいに絞らさせていただきました。これも「ボンバーマン」という誰でもできるゲームの特性上、エントリーしやすかったことは挙げられるかなと思いますね。
それと先ほど話にあったように、KONAMIさんから(ソフト提供の)プロモーションコードを発行いただけるということで、すごく進行しやすかったです。
——「ボンバーマン」は確かに盛り上がりやすいソフトですよね
大竹さん:アクション要素もあるんですけど、やはりパーティー要素が非常に強いので、みんなでワイワイ集まってやるのがそもそも楽しい。それをVTuberのみなさんにやっていただいて、それが配信として広がっていくっていうのはKONAMIとしても大きなメリットですね。
——萩原さんご自身もお好きだったんですよね
萩原さん:ハマってましたね(笑。そういう意味では、KONAMIさんのゲームは大体やってきてますから元々好きだったものと一緒にコラボできるって、すごく幸せです。あと、VTuberさんにとっても、KONAMIさんのことはみんな知っているので、注目度も高いですし、社内のメンバーもみんな同じ作業をやってきてるのでモチベーションが高まりやすいです。そこは本当にありがたいなって。
——KONAMIさん側として今回、VTuberデビューにあたりKONAMI社内に制作協力を求めるわけですが、このあたりはうまくいきましたか?
大竹さん:他の部署に制作協力を依頼する場面が何回かあったのですが、「KONAMI全体でアクセラレータープログラムをやるんだ」という共通認識があった上で相談に乗ってくれてるという背景があったので、相談をしやすい状況になっていたと思います。
——共創がうまく進んだ一方、進行で難しかったところは?
萩原さん:他のチームもそうだと思うんですけど、何をやるのかが決まらなかった時期が2カ月ぐらいあったんです。ただ、方針が決まってからはそれぞれの部署でいろいろ動いていただいて、爆速で実施まで漕ぎ着けた感じです。本当に急ピッチで正味、4カ月ぐらいでしたね。
それと「最初のワチャワチャした感じ」はもうちょっと短くできたんじゃないかと思ってます。これは学びなんですが、オンラインミーティングで誰が喋ってるかわからなくて話がうまく聞き取れないことが結構あったんです。最初の意思疎通は本当に課題でした。
これはもう「とりあえず飲みに行ったらいいんじゃないか」という気がして、思い切って対面でやったんです。そうしたら、すんなり進むようになって。距離感ってどこまでいってもわからない部分があるので、キックオフでちゃんと仲良くならなきゃいけないんだなっていうのはありました。オンラインな世の中だからこそ逆にリアルに会うのも大事なんですよね。
——今回の取り組みも踏まえて、今後の取り組みについて教えてください
大竹さん:やはり、萩原さんたちとはこの取り組みをさらにやっていきたいという思いはあります。KONAMIから提供できるものって「ボンバーマン」だけじゃなくて、他にもパーティー要素のあるゲームがいっぱいあるので盛り上がりを作れればお互いにとってメリットが大きいですよね。さらに個人的にも事業の成長を見させてもらえる嬉しさもありますし、それはそれでやっていきたいです。アクセラレーターの取り組み自体は刺激が多かったですし、また機会があればファシリテーターとして手を挙げてみたいですね。
萩原さん:私たちとしても同様の取り組みをいろんなタイトルでやっていきたいですね。それこそ「遊☆戯☆王」とか「桃鉄」など相性のよさそうなタイトルは山ほどあるので。
——ありがとうございました!