発電ビジネスで地域に価値創造、シェアリングエネルギーと日本海ガスが手を組んだ理由
エネルギー事業を軸に北陸地方でさまざまな事業を展開する日本海ガス絆ホールディングス(絆HD)は、01Boosterと共同でアクセラレータープログラム「NGAS-Accelerator Program」を運営。北陸地域への新しい価値提供を目指し、スタートアップとの共創を進めています。本プログラム採択企業の1社、シェアリングエネルギーは、同社が太陽光発電システムを所有・管理し、発電した電気を販売する「シェアでんき」を展開しています。
北陸地方は、積雪の多い気候から太陽光発電の導入が進んでいない地域です。しかし、エネルギーの地産地消やカーボンニュートラルの実現に向けて、再生可能エネルギーの活用は不可欠な課題となっています。そこで注目を集めたのが、絆HDとシェアリングエネルギーの協業です。
絆HDは今年4月、シェアリングエネルギーに出資したことを明らかにしました。両社はこれを機に、北陸地域における分散型エネルギーサービスの事業展開について検討しています。 今回の協業は、シェアリングエネルギーのNGAS-Accelerator Programへの参加を経て実現したものです。資本提携に至った協業の経緯や今後の展望について、シェアリングエネルギー経営企画室室長の佐野健太さんと、日本海ガス LPガス事業本部 富山支社 支社長の高城一朗(たかぎ・いちろう)さんに話を伺いました。
北陸での太陽光発電事業、課題と可能性を探る
シェアリングエネルギーが提供する「シェアでんき」は、初期費用無料で太陽光発電設備を家庭に設置し、発電された電気を販売することで投資回収するビジネスモデルでサービス展開しています。これまで新築住宅中心でしたが、既存住宅への導入も視野に入れつつありました。
一方、絆HDは北陸地方を中心に事業展開する総合エネルギー会社です。顧客とのつながりが強く、地域への浸透が期待できる絆HDとの連携を通じて、シェアでんきを北陸地方にも展開強化することがシェアリングエネルギーの狙いでした。しかし、課題がありました。
高城さん:北陸地方は日照時間が短く、積雪による影響も大きいため、太陽光発電事業にとっては大きな課題です。それに、積雪対策のために初期費用が嵩みますし、発電量が相対的に少なくなってしまうため投資回収が難しくなってしまうのです。
そこで両社は2023年7月、日本海ガスの顧客向けイベントでアンケート調査を実施しました。約190世帯を対象に「住まいに太陽光発電を設置したいか」を尋ねたところ、一定の需要があることが確認できました。北陸地方でも、太陽光発電への関心は潜在的に存在していたのです。
佐野さん:協議を重ねるうちに、地域特性を踏まえた課題が見えてきました。積雪対策、それに伴う高コスト、発電量の確保、従来の電力会社との料金競争など。北陸の気候風土に合わせ、対応策を練る必要がありました。
次なる課題となったのは、地域における施工体制の確保でした。高城さんは以前から地元の施工業者4社とコンタクトを取っていました。シェアリングエネルギーと日本海ガス両社でオンライン打ち合わせを行い、またシェアリングエネルギーが施工店へ足を運ぶ形で、北陸でのサービス提供の可能性を確認していきました。
佐野さん:これまではハウスメーカーや住宅ビルダーを通じた新築住宅向けが主な営業チャネルでしたが、今回の取り組みを通じて、既築住宅の(中略)と協業することにより、新たな顧客層へのアプローチの可能性を見出すことができました。
今回のアクセラレーターでの取り組みによって見出された新たな営業チャネルは、日本の多くを占める地方において、シェアリングエネルギーの営業戦略上、有用なヒントが得られる結果となりました。
スピード感とホスピタリティで生まれた協業
両社の協業は、早い段階から具体化が進んでいきました。アクセラレータープログラムの期間中、まさにデモデイが行われたその日に、佐野さんは絆HD の投資委員会に出席し、事業内容を説明。双方が密に擦り合わせを行ったことで、スムーズな合意形成が実現しました。
高城さん:通常は最初に出会ってから相手を理解する期間が必要ですが、今回はアクセラレータープログラムを通じて知り合ったため、(出資に至るまで)話が進むのは早かったようです。企業理念に新しい価値を生み出すと掲げている通り、地域に根差した企業として新しい取り組みを行います。
絆HDでは、シェアリングエネルギーとの「資本提携以外の協業」にも期待を寄せています。蓄電池や分散型エネルギーマネジメントなど、エネルギーをめぐる新たなサービスの創出を目指す考えです。
絆HDは、2030年までに非ガス事業の売上比率を50%以上にすることを目標に掲げています。シェアリングエネルギーとの協業で生まれるビジネスは、北陸地方の再生可能エネルギー普及を起点に新しい価値を創出し、絆HDの事業多様化に貢献することが期待されます。
高城さん:今回、私たちが活動する地域以外の企業が、私たちが抱えている課題について耳を傾けてくれたことに感銘を受けました。日本海ガスは北陸では知られているので、それを活用して、お手伝いさせていただける企業はたくさんあると思います。今後もそのような機会があれば、活動の場を広げていきたいと感じました。
今回は、両社が手を携えたことで、再生可能エネルギーの地産地消、スタートアップの地方における営業チャネル拡大、地場企業の事業多角化の実現という、一石三鳥の可能性を見出すべく、その第一歩が踏み出されました。今後のゆくえに注目したいと思います。