01Booster CONFERENCE 2022のラストを飾る本セッションでは、「日本の事業創造、次の世界へ」と題して、山田昇司氏（日揮株式会社 代表取締役社長執行役員）と荒井邦彦氏（株式会社ストライク 代表取締役社長）が登壇。長い歴史をもつ伝統企業が時代の流れに応じて取り組んできた変革とは？　CVCを通じて事業の戦略的再編を図り、企業を次のステージに引き上げるには？　大企業を率いてきたトップマネジメントが、日本の事業創造をどのようにして次世代へ繋げばいいのか？　日本の大企業とスタートアップの多くが、今まさに直面している課題について、大いに語り尽くしていただきました。

登壇した山田昇司氏が代表を務める日揮の源流となる日本揮発油株式会社は創業1928年。創業者の実吉雅郎氏がアメリカから購入した精油分解ライセンス業を主体に事業を拡大し、戦後のガソリン需要増加に伴いプラント設計・建設業を請け負う企業として成長。現在のグループの売上の実に75%が海外だそうです。山田氏は国内事業会社である日揮の重要な役割を「インキュベーター」だと語ります。長年培った技術で事業化したものを海外に展開してきた経緯があるからこそ、その領域をエネルギー以外にも拡大したい。現在、日揮ではコーポレートベンチャーキャピタルを立ち上げ、新技術に挑戦するスタートアップ企業との連携を模索されています。

もうお一人の登壇者はストライク創業者で代表の荒井邦彦氏。M&Aを専門とする企業で、事業の5〜6割が事業承継、残りが選択と集中や事業再生などだそうです。また近年は事業承継や事業再生だけでなく、スタートアップのM&Aについても積極的に取り組んでいるそうです。2006年から施行された新会社法により、企業は1円の資本金でも設立が可能になり、その数を増やすことになりました。一方、山田氏は成長した事業を売却したり、大手資本傘下に参加したりする「EXIT（株式の売却）」のハードルは高いままだと指摘します。

お二人の対談をゼロワンブースター鈴木規文がモデレートしました。

——大手企業（伝統的企業）とスタートアップとの連携については、経産省や経団連が主導して進めているところですが、当事者として「潮目が変わった」実感はありますか？

荒井さん：変わった実感はありますね。2021年には経済産業省から大企業とスタートアップのM&Aに関する調査レポート（※）が出ましたし、税制についても、オープンイノベーション税制、M&A税制とかが作られたりして、どんどん調整しやすい環境を作ろうと、力を入れてるなというのは感じています。

（※：経済産業省『大企業×スタートアップのM&Aに関する調査報告書』https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/houkokusyo/r2houkokusho_ma_report_2.pdf）

山田さん：スタートアップ企業に対する資金援助や投資、M&Aに関しては、例えば韓国では政府がスタートアップに対する支援はものすごく多くて、下手したら日本より1桁多いような支援を政府主導でやっているんですね。日本でも税制に関してスタートアップにインセンティブをつけるなど、政府がやるべきことは多いと思います。

——伝統的企業でありながらCVCを立ち上げて、実際のところの手応えはありますか？

山田さん： CVCを運営して1年半ほど経ちましたが、スタートアップの人たちと話す機会が増えて、「ああ、こういうことをやりたいのだな」と改めて実感したのが私の感想ですね。スタートアップ気質をもつ人たちが何を考えているか、やっと理解できるようになったと。逆に、企業サイドが考えていることと、スタートアップサイドが考えていることが一致していないという、認識のギャップがあることも分かりました。

こちらとしては企業の論理でスタートアップに資金を投入したいという気持ちがあるわけです。企業サイドには大きな内部留保が溜まっていますので、もっとスタートアップの皆さんに資金を流して、新しい事業をやってもらうと。そしてその後は、自分たちの既存ビジネスにどうリンクさせていくか？　を考えるのが楽しいのではないかと思います。

周りの会社、特にプラントエンジニアリング業界を見渡してみても、もしかしたら当社が突っ走っている印象かもしれませんが（笑）、スタートアップ企業との連携は、『やってみたい・やりはじめている』会社さんは多いと思います。

次回につづく：事業サイドが考える「日本型CVC」像とは